現代ジャズ・シーン最注目のトランぺッター、アメリカの黒人生活の複雑さをアルバムに
ナイジェリア出身の父親とミシシッピ州出身の母親の元、1982年に生まれ、カリフォルニア州で育ったトランペット奏者、アンブローズ・アキンムシーレ。07年度の〈セロニアス・モンク国際ジャズコンペティション〉で優勝、同年〈カーマイン・カルーソー国際ジャズトランペット〉のソロ・コンペティションでも優勝し、一躍時代の寵児となった。
AMBROSE AKINMUSIRE 『On the Tender Spot Of Every Calloused Moment』 Blue Note(2020)
その彼のブルーノートからの5作目『On The Tender Spot Of Every Calloused Moment』が実に素晴らしい。彼にメールで話を聞くことができたので、まずは音楽的出自から。
「母はミシシッピ州ドゥリュー出身、父はナイジェリアのラゴス出身だ。母方はデルタ・ブルース、父方にはナイジェリアの伝統音楽がルーツがある。また、幼少期に祖母と教会へ通うようになって、ゴスペル音楽を聴いたり演奏したりも。環境的にヒップホップも身近にあった。音楽的な影響? あえて言えば、ジョニ・ミッチェル+ジョン・コルトレーン+ブッカー・リトル、クリフォード・ブラウン+ビョーク+メアリー・ルー・ウィリアムスといったところかな」とのこと。
サム・ハリス(ピアノ)、ハリシュ・ラガヴァン(ベース)、ジャスティン・ブラウン(ドラムス)という個性派を揃えたカルテットでの演奏は、それぞれの主張も強く、ただならぬ緊張感がダイレクトに伝わってくる。その上でアキンムシーレが奔放なアドリブを披露する。
曲調は多彩だが、2018年に急逝したトランペッター、ロイ・ハーグローヴに捧げられた“Roy”、アート・アンサンブル・オブ・シカゴのロスコー・ミッチェルに向けられただろう“Mr. Roscoe (Consider The Simultaneous)”などは、アキンムシーレが〈グレイト・ブラック・ミュージック〉としての矜持を継承していることが分かる。
なお、2011年のデビュー・アルバム『うちなる閃光(原題:When The Heart Emerges Glistening)』収録の“マイ・ネーム・イズ・オスカー”では、2009年にオークランドで起きた警官による黒人男性射殺事件に言及されていた。昨今のブラック・ライヴズ・マターに関するメッセージも新作に織り込まれている。本作でアキンムシーレは、「自分の声を使ってアメリカの黒人生活の複雑さを分析している」と言う。
「すべての黒人の芸術には、同じメッセージが常にある。黒人は〈Black Lives Matter〉がムーヴメントや、スローガン、ハッシュタグになるずいぶん前から、我々の命が大切だと言い続けてきた。それは今後も決して変わらないだろう」