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必ず光の方角へ振る

 一方の“振り子”は、10月30日公開の映画「罪の声」の主題歌となっているピアノ・バラード。こちらも作品に寄り添ったシリアスな歌詞が編まれているが、言葉選びにはとても苦心したよう。ラストの〈愛を知って 生きる意味を知った〉は、本編の世界観を超えて物思わせる一行だ。

 「悲しいニュースが続いたなかで、例えばそこにこの曲があったとしたなら、ただ悲しみや苦しみをなぞるだけの曲になっていないかとか、最後の一行は本当にこれで良かったのかどうか──曲を聴いてくださった方のなかに、いままさにもがき苦しんでいる人がいたとして、頼ることのできる、すがることのできる〈愛〉がその人の周りになかったとしたら、この最後の一行は逆の意味になってしまわないか、とか、いまでもいろんなことを考えたりします。でも、苦しみながらももがき続けていれば、〈振り子〉は必ず光の方角へ振るんだということを叫びたい強い気持ちもあります。大統領選に敗れたヒラリー・クリントンさんのスピーチにもありましたが、〈求め続けること、信じ続けることをやめないで〉という想いでこの曲を書きました。それは自分の立っている場所がしっかりとした場所だから言えることで、それもまた個人のエゴでもあるのかなと思うと本当に行き着く先の答えがよくわからなくなったりしますが、でも、やはり最後はそう伝えたいです」。

 カップリングでは、MVを公開したYouTubeのコメント欄に視聴者が次々と自身の恋愛体験を綴っていくという現象を巻き起こしたwacci“別の人の彼女になったよ”(2018年)をカヴァー。さらにシングルでは恒例となったセルフ・カヴァーとして、先述の“あなたがいることで”をアコースティック・アレンジで収録。5月には〈会えなくても大切な人を想う気持ち〉をテーマにリスナーから寄せられた写真やメッセージで構成されたMVが公開されていたが、その時の音源がこれだ。

 「wacciさんご自身が歌われていた“別の人の彼女になったよ”を聴いて、その切なさがとても印象的でした。料理をしているときとか、移動中など、とにかく毎日よく聴いていましたね。曲が進むにつれて心の中が見えてくるような流れがとても好きで、〈私が電話をしちゃう前に〉で切なさが爆発します。新しい彼にとってみたら、それはそれでまた切ないんでしょうけれど(笑)。歌っているときに楽しいなと思ったのは、何度も出てくる〈ごめんね〉のニュアンスを微妙に変えることです。投げやりなごめんね、泣きたいごめんね、どうしようもないごめんね、その彼女になったつもりでいろんな〈ごめんね〉を歌いました」。

 自身が「私らしさを表現できた」と手応えを感じた『オリオンブルー』を経ての最初のシングルということもあり、新たな一面も見せながらも揺るぎのないUruの存在感を示した『Break/振り子』。最後に、まだまだ息苦しさがある状況のなか、彼女がいまの日常や活動を通じて、どんなことに幸せや充足感を得ているのかを訊いてみた。

 「幸せを感じる瞬間は、美味しいご飯を食べているときとか、家族と話をしているときとか……あと最近は寝るときの眠りにつく瞬間が幸せです(笑)。アーティストとしては、自分の音楽が誰かに届くというだけでとても幸せですが、それがその人のいま求めている部分にスポッとはまってくれたときには、歌っていてよかったと心から思えます。音楽番組や他のアーティストさんのライブなどを拝見したりしていると、いつも〈ああ、すごいなあ……元気出るなあ……〉と思います。きっと私の音楽は、ポンと背中を押したり、元気が沸き上がってくるような音楽ではないと思うのですが、でも、肩を抱いたり、背中ならば撫でることならできるかもしれない。聴きたくなったときに好きなように聴いてもらえたら幸せですね」。