Reiの2年ぶり、2枚目となるアルバム『HONEY』は、〈NEO-TRAD〉をテーマに自身の原点であるブルース等のルーツ・ミュージックを、2020年に鳴る楽曲として色あせないようアップデートしたハイブリッド・サウンドに溢れている。
1曲目に据えられた、ファンキーでパワフルなリフから始まる痛快な“B.U.”には、〈そろそろあふれてくるころ/キミのmagma/Listen the soul/生かすも殺すも ぼくたち次第/Ready set go!〉という歌詞がある。カテゴライズしがちな社会の風潮を颯爽と吹き飛ばすように、誰もが特別でオリジナルであり、自分の意志でどうにでも生きられるんだという、シンプルで本質的なメッセージが貫かれている。それは、Rei自身の持つ〈ルーツ・ミュージックを好むギターのうまい女性シンガー・ソングライター〉というイメージを一気に漂白し、ボーダーレスなアーティストとして飛躍を遂げるというヴィジョンとも重なる。Reiにインタビューで訊いた。
今を生きてる人なんだぞ
――2年ぶりのフル・アルバム『HONEY』は、ひとり孤独と深く向き合ったような作品で、コロナ禍の影響も感じたのですが、いつ頃から制作がスタートしたんですか?
「前作の『SEVEN』を去年の11月に作り終えて、そこからすぐに制作を始めました。
コロナの影響は、表現者の意地として、基本的になかったと言い切りたいと思っていて。こういう未曽有の事態が起きたから、私的な作品が完成したと思いたくはない。実際にそうだとしても私は認めたくないなと思ってます」
――〈NEO-TRAD〉という音楽性におけるテーマは最初からあったんですか?
「構想時から、サウンドのテーマとしては〈NEO-TRAD〉はありました。メッセージのテーマとしては、〈HONEY〉の言葉の中に隠れた〈ONE〉というテーマもあり、その2つの軸を意識しながら作りました。〈NEO-TRAD〉は、私のルーツとなっているブルーズやロックなどの音楽と、2020年の最新の音楽を掛け合わせたハイブリッド・サウンドのことを指しています。そして〈ONE〉というメッセージについては、〈孤独〉や〈一途な愛情〉といったテーマのもとに紡いだ歌詞になってます。
私の音楽のスタートはクラシックで、そういうトラディショナルなものに影響を受けていることによって、勝手に〈古いものが好きなミュージシャン〉みたいなレッテルを貼られる場面もあって。でも、あくまでも温故知新なんです。普遍的な音楽に影響を受けているけれど、27歳の私が2020年に紡ぐ最新のサウンドっていう意識を持って活動してきた。それを改めてテーマとして掲げて作ってみようと思った作品です」
――確かに、Reiさんというと〈オーセンティックな音楽をやってるギターのうまい女性シンガー〉というイメージが強くて。そこには、良し悪しがあったと思います。
「リスナーの方が、自分の青春時代に聴いていた音楽と私の音楽に共通点を見つけて〈素敵だな〉って思ってくれること自体は素晴らしいことだと思うんです。でも私の声明としては、今を生きてる人なんだぞっていうところを押し出したかった。
音楽ってすごくおもしろくて。古く聴こえるか新しく聴こえるかって、すごく微妙な差だったりしますよね。私は、ビート、ミックス、メッセージといった部分が世相を表す要素だと思っていて。でも、ビートルズがやったことが、革新的に見えてそれまであった音楽の再解釈であったように、素材はあんまり変わらないと思うんですよね。同じベーキングパウダーと小麦粉と砂糖でできたものが、ケーキになるのかクッキーになるのかっていうことだと思う。肝心なのはどういう配合で、どういう形にくり抜くかみたいなところ。
今回、どうやって今風に聴かせるかっていうところは、自分のセンスが問われた部分だと思います」
〈自分らしく生きなきゃいけない〉の窮屈さに抗って
――1曲目の“B.U.”は、ファンキーでパワフルなリフから始まる曲で。閉塞した空気に風穴を開けるような痛快な曲ですが、アルバムをどんなイメージで始めたいと思ったんですか?
「この曲ができた時、まず1曲目だと思いました。スライド・ギターのうねってる感じと、ドラムのステディーなリズムの組み合わせもおもしろいなと思いましたし。〈自分らしくいる〉っていうのはタイムリーなテーマでもあると思いますけど、他人から借りた言葉ではなく、私なりの表現で自分らしさを描いた歌詞にできたと思ったんですよね」
――〈listen to the soul/生かすも殺すも ぼくたち次第 living alive〉とか〈みすぼらしてくてもit’s ok/キミらしさを追求するgame〉とか、1曲を通してシンプルに聴き手を鼓舞するパワフルなメッセージが凝縮されています。
「今回のアルバムは、応援したくないなって思っていたんです。私がひねくれてるっていうのもあって(笑)。〈頑張れ〉とか、〈もっと気楽に行こうよ〉とか言われると、〈私の何がわかるの〉って拗ねてしまう。リスナーに対しても、〈自分らしく生きなきゃいけない〉とか、一方的なメッセージをなすり付けるような歌は作りたくないと思っていました。
“B.U.”は、自分らしさについて歌ってはいるんですけど、その人にとって模倣することが一番気持ち良い生き方であればそれでもいいと思う、っていうことなんです。〈こういう風に生きなきゃいけない〉っていう説明書にならないように気をつけながら歌詞を書きました。
だから口語というより、なるべく書き言葉を歌詞にするとか、辞書の項目を書くような感じで書いたんです。口語調になると私の思惑とかエゴが乗ってしまう感じがあるので、単語を連呼するなど、淡白な文脈にすることを心がけて書きました」
――アルバム制作の中で序盤にできたという“What Do You Want?”に〈世界地図を塗りつぶす〉というアルバムを象徴するようなフレーズがあって。そこから、アルバム全体のカテゴライズすることの無意味さやボーダーレスといったメッセージに展開していったんですか?
「そうですね。“Categorizing Me”の歌詞の中で、〈しなやかなつよさをもち/包み込むようなやさしい/わたしに なりたいだけなのに〉っていう歌詞があるんですけど。まさにこのアルバムで描こうとしていた人物像がそれなんです。
柔軟性を求められる、多様性に対しての寛容さみたいなものも求められる時代なので、しなやかさも必要ですよね。だけど、ものすごい情報過多で、そして情報が流れるスピードも速い時代で、ぶれない軸っていうのも必要とされる。だから、そういうしなやかな強さを持った主人公を意識しながら書いていった歌詞です」