Tiwa Savage “Ma Lo (Feat. Wizkid & Spellz)”(2017年)
ラゴス生まれのティワ・サヴェージは80年生まれの40歳なので、ここで紹介しているアーティストたちよりも一回り上の世代だ。ただ、彼女がソロ・デビューしたのは2010年で、キャリアの長さはダヴィドらと同じくらい。もともとはジョージ・マイケルやメアリー・J・ブライジのバッキング・ヴォーカルを務めていたそうで、オーディション番組「Xファクター」に出演したあとにバークリー音楽大学を卒業、その後ソロ・アーティストとしてのキャリアをスタートさせている。
ウィズキッドとナイジェリアのプロデューサーであるスペルズが参加した“Ma Lo”は、2017年のEP『Sugarcane』の収録曲。エディットが効いた勢いのあるビートに始まり、ティワが繰り返し歌う〈Roboskehskeh roboskehskeh〉というフレーズが中毒性抜群で、ぐっと引き込まれる。
ティワ・サヴェージは2016年にジェイ・Zのロック・ネーションと音楽出版の契約を結んでおり、今年8月にリリースした新作『Celia』のレーベルはモータウンである。今後、アメリカでますます存在感を発揮していくことになるだろう。
Mayorkun “Mama”(2017年)
ダヴィドの“The Money”のカヴァーで知られるようになったマヨークンは、ダヴィドのDMWと2016年に契約し、2018年にアルバム『The Mayor Of Lagos』を発表した。今年はグライム/UKベース風の異色な“Geng”やダヴィドとの軽快なアフロビーツ“Betty Butter”など、シングルを多数発表している。
デビュー作『The Mayor Of Lagos』のクロージング・トラックが、この“Mama”だ。プロデューサーは、同じナイジェリアのキッドドミナント(Kiddominant)が務めている。涼し気なギターの音色、レゲエ風のフロウを聴かせるマヨークンのヴォーカル、音と音の隙間を活かしたシンプルなビートが心地いい一曲だ。
ちなみに、変わった名前は本名の〈Mayowa(マヨワ)〉と日本語の〈君(くん)〉をくっつけたもの。マヨークンは、アニメ「NARUTO」で〈○○君〉という言葉を知ったのだとか。
Dremo feat. Davido “KPA”(2018年)
ナイジェリアの南西部に位置するイバダン出身のラッパー/シンガー、ドレモ。マヨークンと同じDMWに所属している、ダヴィドの同朋アーティストだ。
そのダヴィドとの共演曲“KPA”は、デビューEP『Codename, Vol. 1』に収録されているアフロビーツ・ナンバー。エレクトリック・ピアノのバッキング、どこかチープなシンセイザーの音色、ドレモの滑らかなフロウとダヴィドのざらっとした歌声の対比が印象的だ。
『Codename, Vol. 1』に続く新作『Codename, Vol. 2』は、今年4月に発表された。前作と同様、新作でもトラップやUKドリル調のラップ・ソングとアフロビーツの楽曲とが共存している。ひとつのスタイルに留まらず、さまざまなジャンルに挑んでいるあたりに、ドレモの音楽的な視野の広さを感じる。
Fireboy DML “Tattoo”(2020年)
現在脚光を浴びているファイアボーイ・DML(〈DML〉は本名の〈Adedamola〉を縮めたもの)は、ウィズキッドやバーナ・ボーイらの次の世代を担う才能。デビュー・アルバム『Laughter, Tears and Goosebumps』(2019年)が評判を呼び、続くセカンド・アルバム『APOLLO』はPitchforkに絶賛された。
ファイアボーイの音楽の特徴は、アフロビーツをR&Bなどと折衷させた、都会的な洗練を感じるサウンドだ。彼は、そんな自身の音楽を〈Afro-life〉と呼んでいる。
そういった志向性は、『APOLLO』の収録曲であるメロウでセクシーな“Tatoo”を聴けばよくわかるはず。トラップ風のハイハットが鳴り、太いベースがうねるサウンド・プロダクション、そして狂おしく歌い上げるファイアボーイのヴォーカル……。R&Bのプレイリストにもすっと馴染みそうな一曲だ。
『APOLLO』には、レゲエ風の“ELI”、エレクトロ・ポップ調の“Favourite Song”など、さまざまな音楽に挑むファイアボーイの姿勢が反映された楽曲が多く収録されている。また、11月12日にリリースされたライブ録音のニュー・シングル“Scatter (Acoustic)”では生バンドで(アフロビーツではなく)アフロビートをやっており、ミュージシャンとしての底知れなさを感じた。
Rema “Iron Man”(2019年)
ナイジェリア南部のベニン・シティ出身のレマは、〈アフロポップ・プリンス〉の異名をとるアーティスト。なんと2000年生まれ、まだ20歳である。2018年にリル・パンプ“Gucci Gang”のビートでフリースタイルを披露して注目を集め、今年7月にはドレイクやリアーナのフェイヴァリット・ソングとして話題になった“Dumebi”などのシングルを収めた『Rema Compilation』をリリースしている。
“Iron Man”は同作にも収録されている昨年のシングルで、バラク・オバマの〈Summer Playlist 2019〉に選ばれたことで彼の出世曲になった。独特のうねるフロウとパーカッシヴなヴォーカリゼーションを駆使して歌われるナイジェリア風メロディーは、どこか呪術的。
2020年8月にはアルーナとケイトラナダの楽曲“The Reicipe”でフックアップされ、英米のシーンでさらに注目度を上げている。これからの活躍に期待がかかっている新星だ。
ウィズキッド、バーナ・ボーイ、ダヴィドというビッグスターたちが、アフロビーツをナイジェリアから世界へと鳴り響かせている2020年の現在。その一方で、後半に紹介したファイアボーイ・DMLやレマらの新世代は各々さまざまなスタイルに挑んでおり、アフロビーツの洗練と進化、多様化を象徴している。2020年代は、彼らの活躍によってアフロビーツが拡張されていく時代になるだろう。
そんな予感を感じさせるものも含めて、ここで紹介しきれなかった新旧の楽曲を下記のプレイリストにまとめた。上の10曲には2016~2018年のものが多いので、現在のトレンドはこのプレイリストでつかんでほしい。ここからさらに、アフロビーツの世界に深く分け入ってくれれば幸いだ。