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DIRTY PROJECTORS 『Flight Tower』 Domino/BEAT(2020)

リスナー個々のハートに響くパーソナルなソウル、魂の音楽
by 長谷川町蔵

R&Bやヒップホップから影響を受け、それっぽい曲を作る白人ロック・ミュージシャンは現在のアメリカでは星の数ほどいる。しかしデイヴ・ロングストレスほどこのジャンルで評価され、実績を残している才能はいないのではないか。なにしろ彼は、リアーナ、カニエ・ウェスト、ポール・マッカートニーの大ヒット曲“FourFiveSeconds”(2015年)の作者のひとりであり、ソランジュ・ノウルズによる傑作『A Seat At The Table』(2016年)では6曲のプロデュースにかかわっているのだから。

そんなロングストレスが、新メンバー、フェリシア・ダグラスのシルキーなヴォーカルに触発されて作った最新R&Bソング集が『Flight Tower』である。“Inner World”のひしゃげたシンセとクラップ音の絡みは、ブラッド・オレンジやスティーヴ・レイシーといった今どきの密室ファンカーと同じ空気を呼吸している。

ピッチを早めたヴォーカル・サンプルが印象的な“Lose Your Love”は初期カニエ・ウェストを自己流に解釈したかのようだ。バンド編成から解放されているのも本作の特徴で、“Self Design”ではエフェクトをかけたビートとヴォーカルだけで楽曲を構築。“Empty Vessel”も同種の作りだが、ビートにはハウスからの影響も感じられる。といってもここで聴けるのはリスニング音楽としての内省的なハウスなのだが。そう、ロングストレスにとってのR&Bとは刹那な夜を盛り上げるBGMではなく、リスナー個々のハートに直接響くパーソナルなソウル・ミュージック(魂の音楽)なのだ。