酒井優考のベスト5?
吉田一郎不可触世界 “えぴせし”
この企画をやる前から今日まで、ずっと今年のベスト・ソングは何だろうと迷い続けてきたんですが、なかなか決まりませんでした。それは、今年という年がコロナのせいでリリースが少なかったこともあるし、通勤をほとんどしなくなって通勤時間の音楽タイムが減ったこともあるし、自分のアンテナの感度が悪くて良い曲に出会えなかったのもあるかもしれないし、個人的にいろいろ悲しいこともあったしで、全然音楽を聴け(か)なくなったからです。耳寂しい時はホルストの“火星”を聴いて自分の心を無理やり震わせてました。その“火星”の次によく聴いたのが“えぴせし”でした。
chelmico “ごはんだよ”
その次によく聴いたのが“ごはんだよ”でした。グッチャグチャの音の洪水の中で〈昔は良かったな〉って幼い頃のことを思い出すことが、今の状況から目をそらすのにピッタリでした。たぶん昔は昔で良くなかったくせに。
リーガルリリー “GOLD TRAIN”
あとは、先日久しぶりに聴いたこの曲がすごく良かったです。忘れていました。他にも当然いい音楽はいろいろあったんですが(書けるものはなるべくレビューや連載で紹介するようにしています)、もしかしたら忘れてるのかもしれないです(1年全部見返したんだけど、今年の頭にあったことなんて何年も前の遠い記憶のような気がします)。最近は音楽を聴くことが苦痛になる時もあって、もしかしたらそんなのは音楽メディアの編集者としては失格かもしれません。来年は合格を目指します。
田中亮太のベスト5
XTAL “Hare”
端正なテック・ハウスを得意としてきたトラックメイカーが、あえてめざした不完全で歪、生々しい肌触りを持った音。エクスぺリメンタルでドローンなアルバム『Aburelu』は1曲のみを抜き出すような作品でもないですが、ここでは冒頭に据えられた“Hare”を選びました。2分にも満たない小品ながら、ユーモラスでエモーショナル、そしてビューティフル。作り手の感じている自由が聴き手に浸透していく。インタビューもおもしろかったです。
鴨田潤 “The Reason To Dance(feat. 寺尾紗穂)”
XTALさんとは(((さらうんど)))で活動をともにしているイルリメこと鴨田潤さん。この曲は、全編で寺尾紗穂さんを迎えた最新EP『二』に収録されています。片想いによる2010年代クラシック(と言っていいですよね?)“踊る理由”のアンサーであり、ビートレスのピアノ・ダンサー。泣いている君に僕ができたこと、できなかったこと。個人的には、チェ・ウンヨン著「わたしに無害なひと」のサウンドトラックとしても響いたのでした。
曽我部恵一 “永久ミント機関”
2020年に起きたリスナーとしての私的な変化は、ふたたびダンス・ミュージックの12インチを積極的に買うようになったことでした。そのきっかけを作ってくれたのが、曽我部さんの経営するレコード・ショップ〈PINK MOON RECORDS〉。同ジャンルのアナログ盤をPINK MOONのフリーダムすぎる試聴システムで聴いていると、〈ハウスやテクノの12インチの音がいちばん好きだなー〉としみじみ思えてきて。この曽我部さんならではのバレアリック・ハウスは、あの日に感じた瑞々しい気持ちを何度でも呼び起こしてくれるのです。
Torei “Fish Shooter”
正直なところ(そして本当に申し訳なくも)春以降はまったくクラブに行っていないです。なので、僕はシーンの中心はおろか周縁にさえいないのですが、若手DJ/プロデューサー、Toreiさんが運営するレーベル〈Set Fire To Me〉のリリースには興奮させられていました。ご自身やRILLAさんのEP、秋に出たミックステープ×3もよかった。↑の楽曲を収録した『SFTM001』は、明日12月23日(水)に12インチがリリースされるようなので、ぜひゲットしましょう。早く踊りに行けますように。
ステレオガール “春眠”
2020年はステレオガールの年になる、はずでした。彼女たちのようなこれからのバンド――ライブハウスでの小さなイベントやツアーを重ねながら認知度やプロップスを高めていく存在こそが、コロナ禍の今年もっとも割を食ったのではないでしょうか。ブレイクスルーを果たすはずだったファースト・アルバム『Pink Fog』はもっと多くの人に聴かれるべき。とはいえ、オアシスやストーン・ローゼズを引き合いに出したくなるソングライティング・センス、グルーヴ、カリスマ性は、遅かれ早かれみんなに発見されるでしょう。2021年はステレオガールの年になる。