進化と真価の渦巻くEPで描いたクラシックブルーの風景

 「乗り越えなければいけない壁が多い年でした」(百瀬怜)――暮れてゆく2020年に対する複雑な感慨は多くの人に共通するものであって、それは彼女たちにとっても例外ではありません。ロシア語で〈青〉を意味するユニット名の通り、一貫して多面的な青を表現してきたCYNHN(スウィーニー)。かつてなくアグレッシヴなシングル“水生”を用意して迎えた2020年は、同作に伴うツアー〈Predawn Blue〉開催も決定、勢いに乗るタイミングで、悔しくも活動自粛を余儀なくされたのでした。

青柳透「2020年はCYNHNが結成されて3年ということもあり、すでに応援してくれている方はもちろん、今年こそ、CYNHNを良いと思ってくれる新しいファンの輪が爆発的に拡がってほしいと思っていました。フェスやリリースイベントで観た初見の方にも〈好きかもしれない〉と思ってもらえる自信はありましたし、すでにファンだという方にはワンマンで成長を肌で感じていただきたかったです。そんななかでもユニットは止まらずに、むしろ最高を更新する楽曲をリリースし続けられたことは非常にありがたく、そして嬉しく思います」

CYNHN 『#0F4C81』 I BLUE(2020)

 その言葉通り、7月に横浜ベイホールでの無観客ワンマン開催を経て、9月にはシングル“ごく平凡な青は、”をリリース。そこから間を置かず、このたび初のEP『#0F4C81』が登場しました。表題はPANTONE社が〈2020年の色〉に選んだ〈クラシックブルー〉のカラーコードですが、これは現在の彼女たちにとってどんな意味を持つ青なのでしょうか。

青柳「クラシックブルーは老若男女に馴染む色だと思います。今回の収録曲は、特に詞の解釈が聴き手の受け取り方の違いによって十人十色の意味を持つと考えているので、『#0F4C81』は老若男女が各々違う解釈で楽曲に自分を重ねて、それに寄り添えるCYNHNだったらいいなと思う青です」

百瀬「3年が経ってそれぞれ大人になり、表現できる青が広がった先にあった色がクラシックブルーだというイメージです。個人的にこの『#0F4C81』では挑戦がテーマだったんですけど、俯瞰的に見ると、〈進化しつつCYNHNらしさを出していかなければならない〉というテーマを感じました」

 その命題が高い水準でクリアされていることは、冒頭の“イナフイナス”を聴けば明白でしょう。詞曲はメイン・ソングライターの渡辺翔ながら、初めて編曲にケンカイヨシを起用した重厚なビートは、どこかKing Gnuを思わせるテンポ感もあり、別の鮮烈さをぶちまけたかのようにパワフルな歌唱にも驚かされます。

青柳「単純に歌に対して要求されているレベルが上がったし、CYNHNの楽曲に新たな風が吹いたなと感じました。いつもは一人で長めに歌うパートも多いので、サビ前の歌割が細かく切れているのも難しいポイントでした。ユニゾンの高音がライヴでどうなっちまうのか! 自分自身もワクワクしております!」

百瀬「曲をいただいた時は〈新しい!〉と思いました。レコーディングでは手応えを強く感じたというよりかは、歌っていて楽しい!という気持ちが強かったです(笑)。こだわりでいうと、サビでは力強くストレートに歌う自分の強みが活かせるように歌いました。個人的な聴きどころは〈交互に口へと運ぶ“今”は甘い〉のゾーン! 曲調がここでガラッと変わるのが好きです」

 一方、先行配信されていた“氷菓”はmol-74提供のナンバー。彼ららしいノスタルジックな青春マナーが、トオミヨウの繊細なアレンジを触媒にしてCYNHNらしさと融和しています。

百瀬「CYNHNが歌うことで歌詞の解釈が統一されず、聴く方々によって意味が変わる曲だと思っています。サウンドがサビになるにつれて劇的になるのもとても綺麗です。たくさんの方に刺さる楽曲だと思います!」

青柳「透明感がCYNHNらしいと感じています。ラストの〈いつか振り返るかな今年のこの夏の日も〉という歌詞は、ファンの方々と私たちの気持ちにも重なるなと思いました。個人的にRECは納得のいく出来だったので大満足しています。この曲は長めのソロ・パートの落ちサビがあって、ライヴで歌うときは息が続かなく苦戦していますが、透け感のあるこの曲に合う声だと思っているので早くものにしたいです」

 そのトオミヨウが作曲も担った3曲目“夜間飛行”では、作詞に蒼山幸子(元ねごと)を起用。大人っぽい唱法や言葉遣いの妙にもハッとさせられる、夜の風情が漂うミディアムです。

青柳「ねごとさんが好きだったので本当に驚きました。曲も艶っぽくて……好きです。“氷菓”が吸う息なら、“夜間飛行”は吐く息に注目して聴いていただきたい曲です。新たな一面を見せる歌と、でんぱ組.incのピンキー!さんに振付けしていただいて新しい扉が開けたダンスも早く披露したいです」

百瀬「いままでの楽曲にはない表現力が必要でした。吐息の量やブレスの位置など細かい部分まで教わりながらレコーディングしました」

 そして4曲目“インディゴに沈む”では、LiSAの“紅蓮華”などで知られる草野華余子と手合わせ。彼女らしいドラマティックな旋律と言葉が直情的なヴォーカルの生々しさを引き出しているのも注目でしょう。

百瀬「嫉視する感情や毒々しさが滲み出ていると思っています。これもCYNHNにはあまりなかった表現が詰まった曲です!」

青柳「切ないのに強くて、自分に重ねつつ夜に散歩しながら聴きたい曲です。草野さんにご指導いただきながらRECしたので、この一曲においてもメンバーの成長が見られるのではないかと思います」

百瀬「4曲それぞれに違った魅力があるので、いろいろな世代の方々の感情に寄り添うことのできる作品になったと思います」

青柳「すべて違う青色をイメージさせる曲が集まって〈クラシックブルー〉というEPになるのが、個性豊かなメンバーが集まってCYNHNになっているのと重なって、私たちらしいと思いました。実は他にも注目していただきたい点があるのですが、それはCDを聴いてのお楽しみと致しませう!」

 新たな作家陣のカラーも織り交ぜて、また美しい青を表現した『#0F4C81』。憂鬱なブルーに覆われた年を越えて、彼女たちはまた新たな日々へ向かっていきます。

青柳「何もかもがもどかしくて世間は諦めムードも漂っていた2020年だったけれど、自分は生業としてプライドを持っているし、CYNHNはまだまだいけると思っています。不満があっても結局は昇華を選ぶタイプの変態ですから逆境ほど燃えます。スタッフさんやファンの方の熱だって〈CYNHN売れるぞ〉と信じてくれていると感じますから、これからの活動も期待してください、って自画自賛です」

百瀬「世間の不安定な雰囲気と共に個々の価値観がぶつかり合う場面もあると思うのですが、CYNHNの曲を聴いている時は自由に楽しんでほしいなと思います。2021年は飛躍の年にしたいです。たくさんの方にCYNHNを知ってほしいです。笑顔で活動できる一年になったら良いなと思います」

青柳「メンバー各々で気持ちを持ち続けて、2021年こそCYNHNとして大きくなりたいです」

CYNHNの2020年のシングル。

 

『#0F4C81』に参加したアーティストの関連作を紹介。