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第三者としての視点

 もちろん言葉選びのセンスや、それを引っ掛かりのあるメロディーに乗せてしまう彼女らしさは健在だが、曲のテーマや目の付けどころは大きく変化した。デビュー当初の10代には、恋に恋する少女らしいドリーミーな視点が圧倒的だったが、20代になると自身の実体験を題材にして、セレブ男子との数々の恋愛エピソードを散りばめた作風で一世を風靡。そして前作『folklore』からは空想や神話も織り込み、第三者の視点に立った架空のキャラやストーリーを描くようになる。さまざまな人間模様がポエティックに歌われる新作『evermore』ではその傾向がいっそう強まり、テイラー自身も「こんなふうに曲作りをやっていいんだってことを学んだわ」と、前作の成功や評価に自信を得たようだ。ライナーにも「前作の架空だったり、架空でないストーリーの中にある現実逃避の感覚がたまらなく好きだったの」と綴っている。

 例えばリード・シングル“willow”で描かれるのは、ほとんどおとぎの国のファンタジーのような世界観だ。チェロやフルート、フレンチ・ホルンといったクラシカルなチェンバー・オーケストラの演奏に乗せて、神秘的な愛の物語が歌い上げられる。MVに至っては、ほとんど映画「ロード・オブ・ザ・リング」かと思わせるような別世界が広がっている。かと思えば、ナショナルをフィーチャーしてマット・バーニンガーとデュエットした“coney island”では、実在するNY郊外のコニーアイランドを舞台に、すれ違った男女の関係を、黄昏た海辺の遊園地の風景と重ね合わせる。彼女の祖母について歌った“marjorie”なんて曲もあり、そこではオペラ歌手だった祖母が生前に残した歌声をコーラスに使用。こうした細やかなこだわりがあちこちに散りばめられているのも、いかにもテイラーらしいという気がする。

 そして最大のハイライトは、やはりボン・イヴェールをフィーチャーして本編を締め括るタイトル曲の“evermore”だろう。静寂を噛み締めるかのように〈この痛みは永遠に消えることはない〉と繰り返すテイラー。共作者である恋人のジョー・アルウィンの美しいピアノ演奏をバックに、コロナ禍を指しているかのような悲痛な思いが綴られる。が、最後の最後に〈きっと永遠には続かないはず〉と歌って、希望の光を差し込むことも忘れない。ほんのり暖かい余韻を残してアルバム本編は幕を閉じている。

 なお、今回の『evermore』の制作期間には、自身の過去作品の再レコーディングも並行して進められていたという。自身のマスター音源の権利を手放した経緯に関しては、幾度となくゴシップ欄を賑わせてきたので知っている人も多いと思うが、もしこのアルバムと同じスタッフで制作されているとすれば、オリジナルとはまったく異なるアレンジとなっている? 10代、20代に放ったヒット曲が本作のようなサウンドで蘇るとすれば、そちらも興味津々だろう。とりあえずは、3月のグラミー賞の結果を楽しみにしたいが、まだまだテイラーによるサプライズは続きそうだ。

関連盤を紹介。
左から、テイラー・スウィフトの2020年作『folklore』(Republic)、ナショナルの2019年作『I Am Easy To Find』(4AD)、ジャック・アントノフが在籍するブリーチャーズの2017年作『Gone Now』(RCA)、ボン・イヴェールの2019年作『i,i』(Jagjaguwar)、ハイムの2020年作『Women In Music Pt.III』(Polydor)、マムフォード&サンズの2018年作『Delta』(Island)