
2023年4月28日、ザ・ナショナルの4年ぶりの新作にして9作目のアルバム『First Two Pages Of Frankenstein』がリリースされた。名実ともに北米インディロックの最高峰バンドである彼らの新作には、スフィアン・スティーヴンス、フィービー・ブリジャーズ、そしてテイラー・スウィフトという新旧の〈家族〉が参加。華々しい帰還だが、このアルバムには、フロントマンであるマット・バーニンガーのメンタルヘルスの問題やコロナ禍での苦闘が刻まれてもいる。
今回は、そんなザ・ナショナルの新作を中心に、彼らを取り巻く音楽家たちや北米インディシーンについて、音楽評論家/ライターの岡村詩野と木津毅に語り合ってもらった。ザ・ナショナルの初期3作がリイシューされた2021年の対談の続編として読んでもらえたら幸いだ。

コロナ禍での苦闘とマット・バーニンガーのスランプ
――今回は、2021年の対談の後の2年間の動向、ザ・ナショナルから広がる人脈や音楽地図、さらに新作『First Two Pages Of Frankenstein』について、という3軸でお話しいただきたいです。
木津毅「2021年以前にさかのぼりますが、この3年間はパンデミックの期間だったことが重要ですよね。ザ・ナショナルは、予定されていた来日公演が飛んでしまったわけですし」
――2020年3月に開催される予定でしたね。
木津「フィービー・ブリジャーズがサポートアクトをやる予定で、あのタイミングでザ・ナショナルがフィービーを連れてライブをやっていたら完璧でした。それが吹っ飛んでしまい、その間にフィービーが非常に大きな存在になった。ある意味、オルタナティブなストーリーになってしまったけど、この3年があったからこそ新作は彼らの現在地が見えるアルバムで、参加アーティストにもそれが表れているかなと」
岡村詩野「フィービーは、この3年で引っ張りだこになりましたよね。ザ・ナショナルやアーロンとブライス・デスナー兄弟がバックアップしたりプロデュースしたりしたアーティストには、女性が圧倒的に多いんです。その典型が、アーロンが『folklore』『evermore』という2作を2020年にプロデュースしたテイラー・スウィフト。アーロンが一躍時の人になったことは、前作『I Am Easy To Find』(2019年)と新作で決定的にちがう点です」
――それと、バンドのフロントマンであるマット・バーニンガーのソロアルバム『Serpentine Prison』が2020年10月にリリースされました。同作がセールス面で伸び悩んだことでマットが抑鬱状態やライターズブロックになってしまい、それがザ・ナショナルの新作に直接繋がっています。
木津「『Serpentine Prison』は、ブッカー・T・ジョーンズがプロデュースしたことがポイントですよね。ブレント・ノプフとのデュオ、エル・ヴァイ(EL VY)の音楽性はわりと素朴なインディロックでしたが、マット個人の音楽性があまりイメージできなかった中、ブッカー・Tの起用は意外でした。インディロック小僧というアイデンティティだけでなく、ルーツミュージックにアクセスできることも見せたかったのかなと。渋めの内容だったので目立つ作品ではなかったかもしれませんが、手堅くていいアルバムだと思います」
岡村「マットらしいヒューマンなアルバムでよかったのですが、出た時期が悪かったんじゃないかな。コロナ禍1年目でしたから。
ザ・ナショナルはコロナ禍で、ツアークルーが食べていけるようにアーカイブや映像の販売などをいち早く、意識的にやっていました。マットは早く動いていて、ザ・ウォークメンのウォルター・マーティンと“Quarantine Boogie (Loco)”というユーモラスな曲を4月に発表しています。でも、その後にアーロンが大ブレイク。マットもその勢いでソロアルバムを出したのに、あまり話題にならなかった。落胆はかなりあったでしょうね……」
木津「アーロンの働きぶりがすごすぎて、音楽業界全体に影響力を持つ存在に成長していった中、マットは自分の声や自分のあり方をザ・ナショナルとちがう場所でうまく見つけられなかったように感じてしまったのかもしれませんね」
岡村「バンドのボーカリストですから、しかたない面はありますけどね。マットって、バンドのフロントマンという看板を背負っていることもあり、すごくナイーブで繊細ですから、メンタルの問題に大きく表れちゃったのはかわいそうでした。
あと、『Serpentine Prison』には、マットの弟で映像作家のトムがミュージックビデオの制作や写真などで関わっていましたよね」
――トムは、ザ・ナショナルの新作では“Your Mind Is Not Your Friend”のMVに出演しています。
木津「トムが監督した『Mistaken For Strangers』(2013年)というドキュメンタリー映画があって、お兄ちゃんのマットは常に優等生だったけどトムは落ちこぼれだったと語ったり、生々しい家族喧嘩を映したり、おもしろい作品でした」

映画音楽、プロデュース、サイドプロジェクトで活躍するデスナー兄弟
――その後、2021年には、ジョー・ライト監督の「シラノ」とマイク・ミルズ監督の「カモン カモン」にデスナー兄弟が音楽で参加しています。「シラノ」には、ザ・ナショナルとして“Somebody Desparate”の提供もしていますね。
木津「僕は正直なところ、デスナー兄弟の映画音楽の仕事は、抜きん出た個性があまり見えないなと思っているんです。たとえば、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドやナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーは映画音楽の大家になっていて、コリン・ステットソンやミカチューことミカ・リーヴィはエクスペリメンタルな映画音楽を作っています。デスナー兄弟の映画音楽は、アンビエントやチェンバー的なオーケストレーションをバランス感を保ちながら映画のイメージに合わせていて、手堅いんですね。あの2人ならではの魅力が映画音楽でも表れたらもっとおもしろいんじゃないかなと」
岡村「ブライスは坂本龍一から影響を受けていて、『レヴェナント:蘇えりし者』(2015年)では実際に一緒にやっていますが、現代音楽やポストクラシカル文脈の強みがもっと発揮されるといいですよね」
木津「アーロンはバランス感を持っている人で、テイラーの2作やエド・シーランの新作『- (Subtract)』も緻密にバランスよく仕上げています。シンガーソングライターのキャリアの成熟や洗練のイメージにすごくフィットする音作りが、ポップ寄りのミュージシャンの側からアーロンには求められているんじゃないかなと。岡村さんは、どう評価していますか?」
岡村「アーロンは、テイラーとやるようになってちょっと変わった気がします。彼は元々USインディの現場に密着していた人で、おそらくその感覚がバンド内でも一番強い。だから、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとのビッグ・レッド・マシーンや〈PEOPLE※〉での活動にそれが自然と表れていました。それが、テイラーからラブコールを受け、エド・シーランのようなビッグアーティストにも協力を請われ、どメジャーにシフトしていく中、整合性が取れているのか疑問に感じている人もいるかもしれません。
私は、アーロンの仕事では、ボニー・ライト・ホースマンやハナ・ジョーガスのような日本では超マイナーなアーティストとの作品もアーロンらしくて好きなのですが(笑)」
木津「僕もそうです(笑)。ただ、そういう意味でアーロンは、メジャーな場で仕事をするようになった中、〈生粋のインディバンドでありホームグランドであるザ・ナショナルで何ができるか?〉〈ザ・ナショナルのコアとは何か?〉ということに新作で立ち返らざるをえなかったんじゃないかな、と予想しています」
岡村「本人たちが認めていますけど、マットの状況も関係していて、新しいことにトライする余裕はなかったそうですね。なので、〈こじんまりしたアルバムだ〉〈これまでの延長線上だ〉と感じる人もいるかもしれませんが、それが功を奏していて、曲のよさが伝わる作品になっている。私はデスナー兄弟が好きだから、2人の職人的なうまさに注目して聴いちゃうけど、バンドの本来的な魅力がストレートに伝わってくると思います。個別の活動が多くなって、それが見えにくくなっていた中、今回のアルバムは5人の集合体としての魅力を表していますよね」
木津「ザ・ナショナルの初期作って、ブライスが才能を開花させていく過程が記録されているんですよね。そんな彼の才能がクラシック方面や映画音楽、『Planetarium』(2017年)で発揮されていた中、今回はバンドでそれを存分に活かしています」
家族的な絆と5人の固い結束力
――このまま新作の話に移ると、今回、UKポストパンク譲りの刺々しさはこれまででもっとも希薄で、マットの辛い状況を包み込むような優しさを感じるプロダクションです。緻密で有機的なサウンドだと思いました。
岡村「ライブですでにやっていた曲、ライブ用に作った曲が入っていますよね。たとえば、“Tropic Morning News”は、ライブ音源を使っている。制作しながらマットが徐々に復調したことを考えると、ライブ現場で得たものが自然とフィードバックされているアルバムと言うことができるかもしれません。その点が、親近感が湧く優しい感触のサウンドに繋がっていると思います」
木津「アルバムのリリース以前に、(ボン・イヴェールの)ジャスティンとの“Weird Goodbyes”というシングルがあったじゃないですか。アルバムには入っていないのですが」
――2022年8月リリースの曲ですね。国内盤CDのボーナストラックに、フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドが参加したライブ音源が収録されています。
木津「あの曲は、発表されたタイミング的にも、リハビリ的なものに聞こえるんです。打ち込みのビートで、さらっと作った印象がありました」
――当時、ようやくできるようになったツアーの流れで生まれた曲なんですよね。
木津「そうそう。シンプルな別れの曲ですが、マットの文学性とジャスティンの孤独感が合わさっていて、歌詞もすごくいい。男の悲しみについて歌っていて、ザ・ナショナルとボン・イヴェールの魅力が衒いなく出ています。無理して新しいことをやるんじゃなく、自分たちが描けるものがなんなのかを一度確めている。その先にこのアルバムがあるのかなと」
岡村「コロナ禍以降、あらゆるアーティストやバンドが試されましたよね。潜在的な能力や蓄積してきたもので、どれだけのものを作れるのかが問われたわけです。ザ・ナショナルはその結果、曲のよさや結束力が表れたアルバムを完成させた。20年以上続けてきた強さ、結束力の固さは、長くやっているだけあるなと」
木津「すごく家族的なバンドだと、改めて思い知りましたね。〈PEOPLE〉などはインディシーンにどれほど広がりを持たせられるかに挑戦していた印象なんですけど、僕は政治的なものとして解釈しすぎていたな、と少し反省しています。もちろんその側面も重要だったと思いますけどね。
でも、たとえば、ビッグ・レッド・マシーンの『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』(2021年)に“Brycie”という曲があって、あれはアーロンが歌っているのがポイントなんです。アーロンが鬱状態になった時にブライスが支えてくれた、というパーソナルな歌なんですよね。そういう家族的な絆を新作に感じました。パンデミックを経たからこそ家族的なバンドとしてのあり方を今一度確かめて、リスナーにもその部分を見せたかったんじゃないかな」
――さっき言った“Your Mind Is Not Your Friend”のMVは、フィービーのお兄さんのジャクソンが監督しています。創作のあらゆる面で、濃い繋がりを大事にしている姿勢が表れていますね。
岡村「新作に参加しているフィービーもテイラーも、今やザ・ナショナルの新しい〈ファミリー〉の一員のような存在ですよね。
さっき木津さんが言ったことに補足すると、ザ・ナショナルは、たしかに〈背負わされた〉感じがあった。ボン・イヴェールにせよスフィアンにせよ、2000年代からの生き残りを懸けて、新しい動きをしながらシーンを引っ張っていく象徴的な役割が求められていました。その中で、彼らは本来の魅力を出しそびれていたかもしれない。そんな流れも、今回で一段落したのかもしれません」
ザ・ナショナルの精神性を表すマット・バーニンガーの歌と言葉
――では、新作の歌詞についてはいかがですか?
木津「マットの内面がよりパーソナルに、素の部分が自然な形で出ていますよね。それは、パンデミックを通過したからこそのものでもあるかなと。
“Tropic Morning News”はアップリフティングなムードですが、あの曲で描かれている、ニュースに心を乱される感じは、僕たち自身、経験したことがあるものだと思うんです。あの曲が普遍的に響くことに、マットの表現者としての成熟を感じます。
“This Isn’t Helping”はかなり重々しい歌詞ですが、これまで冗談っぽく演じてきたナルシシスティックでセクシーな面をかなぐり捨てている感じがあって、それが別の魅力になっている。そういうザ・ナショナルの精神としてのマットの変遷、成長をすごく感じるアルバムですね」
――なるほど。
木津「それと、マットのメンタルヘルスの問題を率直に表現していますよね。ただ、マットのリリックは、以前から中年男性の悲哀を描いていた。それがハードボイルドな美学や疲れた男の色気といったロマンティサイズされたものに結びつけて語られがちで、僕自身もそう受け入れていました」
――木津さんは、マットのそういう面を〈疲れた中年男の色気〉と褒めそやしていたことを反省している、とメールに書いてましたね。
木津「そうですね(苦笑)」
岡村「でも、それはそれでマットのよさの一面ですしね。実際、マットはセックスシンボルとしても支持されていて、彼自身、それを意識的にやってきたところもある」
木津「そうなんですよ。もちろん、いまもそうした魅力は健在だと思います」
岡村「そんなマットがしんどくなった時、他のメンバーが家族のように支えたことで、彼を回復に導いた面はあるはず。
今回、私は、スコットにまたインタビューしたんですね。ザ・ナショナルではメンバーが楽器のパートを分業、分担しているわけではなく、お互いにパートを行き来しながらサポートしあう制作環境ができあがっているそうです。たとえるなら、家族の誰か一人が倒れたら別の誰かが代わりに働きに出る、みたいな。そういうピンチヒッター的な役回りが自然に行われているのが新作を聴くとよくわかるし、それがいい形で出ているのがおもしろいですね」
――デスナー兄弟は非常に才能があるので、マットが倒れたとしても、彼ら主導でアルバムを作ることもできたと思います。音楽的なリーダーが別にいて、フロントマンがお飾りになるバンドもいますし。そうじゃなく、マットを支えて助け合いながらアルバムを作ったのが、このバンドの魅力だと思いました。
木津「ただ、ザ・ナショナルの精神性を代表しているのは、やっぱり圧倒的にマットだと思います。どんな言葉でどんな時代精神をどう描くか、ということをやってきたのは、マットの言葉であり、そして声でもあるので。デスナー兄弟がサウンドをプロデュースすればOK、というバンドでは決してない。マットがその時に何を見て何を感じているのか、それをどんな言葉で歌うのかが、ザ・ナショナルなんです」
岡村「マットの声は、武器中の武器ですものね。かといってマットの声だけがあればいいのかというと、ソロアルバムの不振を踏まえるとそうじゃない。5人のメンバーはお互いになくてはならない存在だということが、今回改めてメンバーは元より、ファンも気づいたのではないでしょうか。
リズム隊のブライアン&スコット・デヴェンドーフ兄弟だって、ポストパンクやオルタナティブロック的な感覚を衒いなく出せる点でも重要です。でも、役割分担がいい意味でない。ファーストアルバムの『The National』(2001年)なんて、アーロンはベースを弾いていて、ブライスは加入前ですしね。そもそも今、5人とも生活拠点がちがうわけです。そういう付かず離れずの家族的な関係性が、新作に表れています」
日常的で自然な感覚でテイラー・スウィフトらとデュエット
――そんな優しさを感じるのと同時に、すごく暗いアルバムでもありますよね。〈「フランケンシュタイン」の最初の2ページ〉というタイトルがおもしろくて、メアリー・シェリーの小説「フランケンシュタイン」は非常に暗い物語です。また、〈Frankenstein〉という言葉は英語圏で、〈自ら創造したものに滅ぼされる者〉〈自ら撒いてしまった呪いや災いの種〉という慣用的な意味があるのだとか。マットは、ライターズブロックで行き詰まった時に「フランケンシュタイン」を手に取って、最初の2ページを読んだことをきっかけに状況を打開し、“Your Mind Is Not Your Friend”を書けたそうですが。
岡村「スコットはインタビューで、〈フランケンシュタイン〉は何かを象徴する言葉でもあるけど、マットがページをペラッとめくるような自然で日常的な動作で音楽作りに臨んでいたことを表している、というようなことを言っていました。ちょっとずつマットが復調したプロセスがタイトルになっているんです」
木津「そういう日常的で自然な感覚が新作のキーワードかなと、僕も感じます。テイラーとのデュエットも飛び道具的な感じじゃなくて、自然に入っているのがいい。岡村さんは、どのゲストボーカリストの曲が好きでした?」
岡村「いい意味で、〈これ〉という突き抜けた曲がないんですよね。1曲目からスフィアンとのデュエットで、スフィアン好きなら〈おっ〉と思うし、昔からの繋がりが続いていることに安心する人もいるでしょうね。あとはフィービーとの曲が2曲、テイラーとの曲が真ん中に1曲。でも、驚きはなくて、木津さんが言うとおり飛び道具的な感じじゃない」
――特に“Once Upon A Poolside”でのスフィアンは、全然目立たないですね。
岡村「テイラーとフィービーも、メンバーのように馴染んでいます」
木津「そういう点で、『I Am Easy To Find』と対照的ですよね。『I Am Easy To Find』はいかに女性ボーカリストの個性をザ・ナショナルの世界に混ぜるかに挑戦したアルバムでしたが、今回はゲストがナチュラルに溶け込んでいる。そこはポイントだと思います」
――3人のゲストは、〈フィーチャーされている〉というより、マットをバックからサポートしている印象で、〈こんなゲストが参加しています!〉という感じではない。“The Alcott”のテイラーは若干、彼女らしい歌い方で目立っていますが。Pitchforkのレビューに〈The National (Taylor’s Version)〉なんて意地悪く書いてあって、笑いました(笑)。
木津「“The Alcott”はデュエット形式で、男女のラブストーリーの要素がぐっと前に出ているのがおもしろい曲です。『folklore』のジャスティンとの“exile”だったり、ザ・ナショナルとして参加した『evermore』の“coney island”はそういうデュエット性を意識した曲で、そうしたスタイルに合わせていると受け取りました。
一方で、“The Alcott”で歌われているのは一度ダメになったものをどうやり直すかなので、新作のテーマにぐっと寄せた曲でもありますよね。なので、アルバムの世界にテイラーを溶け込ませる試みが表れた曲だと解釈しています」
――テイラーは『Speak Now』の再録を7月にリリースするので、アーロンを筆頭にザ・ナショナルのメンバーが参加している可能性は高いですね。
岡村「アーロンは先日、テイラーのツアーにゲストで参加していましたね」
USインディを背負うダッドとして
――新作に話を戻すと、これまでどおりマットのパートナーであるカリン・ベッサーが作詞に参加しています。
木津「そこも含めて、家族ぐるみでマットを支えたアルバムですよね。以前、本人たちは〈ザ・ナショナルはいつまであるかわからない〉と言っていましたが、これだけの危機を乗り越えたのだから、これからも続いていくバンドだと思いました。
アーロンの活躍を見ていて、バラバラになってもおかしくないと思ったし、こういうタイミングで終わってしまうバンドはいるはず。メンバーが50代になって、派手ではないけど長く聴いてきたリスナーにもしっかり届く作品を作り上げたことが、ザ・ナショナルの魅力だと改めて思いました」
――チャートアクション的には以前ほど成功していませんが、リハビリ的な意味合いもあるだろうし、重要な作品だと思います。
岡村「パンデミック下で自分たちの原点や居場所を再発見して、ファンもそのことに気づいた、すごく大事なアルバムだと思います」
木津「あとはもう、とにかく来日してほしいですね(笑)」
――開催中のツアーのサポートアクトがいいんですよね。サッカー・マミー、ザ・ベス、バーティーズ・ストレンジ、ハンド・ハビッツというラインナップです。9月には主催フェス〈Homecoming〉も復活しますし。
岡村「バーティーズ・ストレンジはザ・ナショナル・ワナビーですから(笑)。ザ・ナショナルのメンバーも、そういう後輩たちを思いやって、ちゃんとフックアップしようとしていますね」
木津「そこはやっぱり、ウィルコの次を担うシーンのダッド的な存在ですからね。マーチの〈Sad Dads〉のパーカーが欲しかったのですが、円安で買えませんでした(笑)」
You asked for it...
— The National (@TheNational) October 13, 2022
Sad Dad hoodies and totes, 2022 Tour merch and brand new shirt designs are available now in our online store at https://t.co/QvwuwUV4QO pic.twitter.com/A3uCFg99e4
――〈New Order T-Shirt〉も笑えるマーチでしたね(笑)。

岡村「ニュー・オーダーのグッズとまちがって買う人がいそう(笑)。“New Order T-Shirt”も、日常的な感覚が素直に出たいい曲ですよね」
木津「ニュー・オーダーの音楽へのリスペクトと愛情がストレートに表れた、いい曲ですよね」
――8月にはマディソン・スクエア・ガーデンでパティ・スミス・バンド、U.S.ガールズと対バンします。
木津「パティ・スミス・バンドと! すごいですね。っていうか、U.S.ガールズ、見たいな~。僕がここ数年ずっと推しているのは、U.S.ガールズとリチャード・ドーソンです。それぞれカナダとUKのアーティストですが……」
新世代に受け継がれるUSインディ
――最近のUSインディについてはどうですか? ボーイジーニアスがアルバム『the record』を3月に出したことが話題ですが、私はウェンズデイがデッド・オーシャンズからリリースした新作『Rat Saw God』に感動しました。
木津「ウェンズデイはカントリーの要素が〈今〉って感じだし、これから盛り上がっていきそうですよね」
岡村「フー・ファイターズが新作を出しますし、本国では若い世代がスマッシング・パンプキンズを聴いているそうです。90年代デビュー組がしぶとく活動している傍ら、あまり注目はされないですけど、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベア、グリズリー・ベアのクリストファー・ベアとダニエル・ロッセンも個別に活躍していて、2000年代にひとつの成果を上げたグループの現在もちゃんと評価したい感じです。
とはいえ、私自身、素直に夢中になるUSインディはどうしてもシンガーソングライター、ソロプロジェクトが中心になってしまう。ジョアンナ・スタンバーグのファット・ポッサムへの移籍第1弾アルバム『I’ve Got Me』も楽しみですし、フィービー・ブリジャーズのレーベルであるサッデスト・ファクトリーからデビュー作を出したクロードの新作『Supermodels』も控えていますね。テキサスのヘイデン・ペディゴやヤナ・ホーン、LAのコリー・ハンソンやジョアンナ・サミュエルズの新曲も良かったです。相対的にLAはずっとおもしろいですよね」
木津「僕は、ファイストのひさびさの新作『Multitudes』がよかったと思います。あれもパンデミックアルバムで、北米のインディアーティストはパンデミックを総括するタイミングなのでしょうね。
それと、アーケイド・ファイアが大変なことになってしまったので、ある意味、ザ・ナショナルが北米インディシーンの大きな部分を負わなければならなくなったようなところもある。それがのしかかってきたことは、ちょっと不幸だったかもしれません」
――アーケイド・ファイアのウィン・バトラーによる性加害問題が告発された件ですね。
岡村「ファイストは、アーケイド・ファイアのツアーから離脱しましたね。問題の真偽はまだわからないにしても、彼女の立場的にそうせざるをえなかったとは思います」
木津「アーケイド・ファイアの『Neon Bible』とザ・ナショナルの『Boxer』が同時期にリリースされた2007年は、北米インディシーンのターニングポイントだったと思うんです。それから15年経った今、ある意味でザ・ナショナルが重いものを負うことになってしまった」
岡村「例外的にバンド編成を保っていてメンバーも変わらず、悪い噂もトラブルもないままクリーンなイメージとクオリティを担保しているのは、奇跡的ですよね。あらゆる面でザ・ナショナルに続くバンドは、今もなかなか出てこない。ですが、ビッグ・シーフがそこに続きそうな感じはします。メンバー全員、仲がいいから結束力もありますし」
――フリート・フォクシーズはどうですか?
岡村「フリート・フォクシーズは、ロビンのソロプロジェクトみたいになっちゃいましたけど、その分カリスマ性が増してきました」
木津「一方、ファーザー・ジョン・ミスティはラナ・デル・レイ周りとつるみつつ、アメリカーナの複層的な解釈に挑んでいる。USインディは今、様々なものが点在していて、中核が存在しないのかもしれません。だから、日本に紹介するのが難しい(笑)」
岡村「アレックス・Gの来日公演がどう盛り上がるかが楽しみですね。コーチェラの配信で見たライブがすごくよかったので。彼の場合、歌詞を含めて紹介しないといけないのですが」
木津「飄々とした人ですからね。UKですが、ブラック・カントリー・ニュー・ロードの来日公演は超満員で、ファンが育っているのを感じました。ロックを聴く若者が増えている印象です」
岡村「私も見に行きました。インディロックを聴く世代が交代しているのを感じますよね」
木津「BC,NRはアイザック・ウッドが脱退したことで心配していたのですが、6人になってからのほうが存在として好きかも。男女半々のメンバー構成で、支え合っている感じがおもしろい。さらに、その過程を見せていて、すごく愛おしいバンドになってきている。希望を感じます」
岡村「連帯感が表れていますからね。USではビッグ・シーフのブレイクが大きかったわけですが、近年はブライト・アイズ周辺で知られるオマハのレーベル、サドル・クリークから新しいバンドがどんどん送り出されていることに注目しています。元はと言えばビッグ・シーフも所属していましたし、近年だとメグ・ダフィーによるユニットのハンド・ハビッツもいいですよね。6月に出る新作『Sugar The Bruise』は、ファット・ポッサムからですが。
それに、マージやマタドール、ドラッグ・シティやスリル・ジョッキーといった、老舗のインディレーベルがブレずに活動を続けていて、ここに来て新しいアーティストをちゃんとフックアップしようとしている。それは、重要な動きだと思います」
木津「世代が変わっても、以前からの価値観が新しい形で受け継がれているんですよね」
RELEASE INFORMATION

リリース日:2023年4月28日
■国内盤CD
品番:4AD0566CDJP
価格:2,640円(税込)
解説+歌詞対訳/ボーナストラック追加収録
■国内盤CD+Tシャツ
品番:4AD0592MRJP
価格:7,590円(税込)
■限定輸入盤LP(レッドヴァイナル)
品番:4AD0566LPE
価格:4,390円(税込)
■輸入盤LP(ブラックヴァイナル)
品番:4AD0566LP
価格:4,390円(税込)
TRACKLIST
1. Beautiful Head
2. Cold Girl Fever
3. The Perfect Song
4. American Mary
5. Son
6. Pay For Me
7. Bitters & Absolut
8. John’s Star
9. Watching You Well
10. Theory Of The Crows
11. 29 Years
12. Anna Freud



