音楽・コメディー・映画、3つの入口から辿る50年の足跡

細野晴臣の音楽活動50周年を記念した完全生産限定の映像ボックス・セットが、先日2月10日にリリースされた。「Hosono Haruomi 50th ~Music, Comedy and Movie」と銘打たれた本作はその名の通り、音楽ライブ「細野晴臣 50周年記念特別公演」、コメディー番組「イエローマジックショー3」、そしてドキュメンタリー映画「NO SMOKING」という、細野が出演する3つの映像作品をまとめて収録した、豪華な内容である。

細野晴臣 『Hosono Haruomi 50th ~Music, Comedy and Movie~』 ビクター(2021)

本作はファンにとって垂涎の品であることには間違いないが、そうでない方にとっても細野晴臣という稀代のアーティストの奥深い世界へ分け入っていく絶好の糸口であるように感じられる。以下、その内容を見ていこう。

 

Music: 細野晴臣 50周年記念特別公演

『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』と「Hosono Haruomi 50th ~Music, Comedy and Movie~」のトレイラー映像
 

まずディスク1には、〈細野晴臣 音楽活動50周年記念オフィシャル・プロジェクト〉の一環として2019年11月30日に東京国際フォーラム ホールAで行われた「細野晴臣 50周年記念特別公演」の模様が収められている。本人はMCにて「(当日の朝は)緊張していたから二度寝できなかった」と話していたが、パフォーマンスや立ち居振る舞いにしゃちほこばった雰囲気は全然なく、終始軽やかかつ洒脱な、いつもの細野らしいステージングで楽しませてくれる。

セットリストに関しては、“薔薇と野獣”から“Choo Choo ガタゴト・アメリカ編”へ至る流れや他の選曲など、本ボックス・セットと同時リリースされたライブ・アルバム『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』(2019年6月のアメリカでのライブ音源を収録)と共通するところも多く、そこから察するに、この日のライブには〈アメリカ・ツアーからの凱旋〉という意味合いが込められていたのかもしれない。

しかし場所やコンディション、演者の気分が変われば、たとえ同じ曲であろうとパフォーマンスは変わってくる。実際、同じ曲でも本作のパフォーマンスには、『あめりか / Hosono Haruomi Live in US 2019』の収録音源になかったギター・ソロが新たに追加されていたり、歌いまわしにところどころタメが作られていたりと、随所に変化が見られる。したがって、両方を聴き比べてみることで、楽しみがより一層広がることだろう。

そしてこのライブには、もう一つ見逃せないポイントがある。それは若きシンガー・ソングライター/ギタリストである、Reiのゲスト出演だ。細野のラジオ番組「Daisy Holiday!」への出演をきっかけにこの日のステージにあがった彼女は、大先輩である細野に対し、最大限の敬意を表しつつも決して臆することなく、ギターと歌だけで果敢に挑みかかっていく。そして細野も、そんな彼女の堂々たるパフォーマンスに感服した様子を見せる。

たとえ自分よりはるかに若いミュージシャンであっても、そのパフォーマンスが素晴らしいと思えば素直に喝采を送る。そんな懐の深さと柔軟性こそ、細野が50年という長きにわたって音楽界のトップランナーであり続けられた理由なのかもしれないと思った。