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Comedy: イエローマジックショー3

続いてディスク2に収められているのは、やはり〈細野晴臣 音楽活動50周年記念オフィシャル・プロジェクト〉の一環として「細野晴臣 50周年記念特別公演」の翌日12月1日に行われた「イエローマジック・ショー3」。お母さん(宮沢りえ)がお父さん(細野)に向かって〈おじいちゃん〉と語りかけてしまう、ライブならではの可愛らしいミスや、〈東京・ヨーロッパ間でも火星歩きをすれば数秒で行き来できる〉というゆるい設定などが、何ともほのぼのとした雰囲気を醸成している。

そんな中、話の流れで時折挟まれる犬(never young beach・安倍勇磨)の気だるくもシャープな歌で、空気がキリッと締まる。原曲に忠実なアレンジによる細野バンド(高田漣/伊賀航/伊藤大地/野村卓史)の演奏をバックにした犬=安倍の艶やかな歌唱に耳を傾けていると、細野の音楽が世代を超えてたしかに継承されているということがひしひしと実感され、胸が熱くなる。

また〈ヨーロッパでバリスタ修行中〉という設定になっている源(星野源)のもとを訪ねて行ったお父さんが、みずからコーヒーを淹れるというレアな場面も。〈深煎りの豆をたっぷり使って淹れる〉など、おそらく細野自身のこだわりであろう、コーヒー好きらしい一面が垣間見え、ニヤリとさせられる。

そしてもう一つ必見なのが、清水ミチコと弟・イチロウによる、モノマネ・ショーだ。今回は特別ゲスト・U-zhaanのタブラ演奏をバックに、清水の得意とするユーミンや矢野顕子のモノマネを惜しげもなく披露している。その鮮やかなパフォーマンスやショーとしての構成の妙に、笑いながらも思わず感心してしまう。

他にもLittle Glee Monsterが細野作曲の名曲“風の谷のナウシカ”をカヴァーするなど、見どころが盛りだくさんなので、詳しくは本編を観てぜひ確かめてほしい。

 

Movie: NO SMOKING

映画「NO SMOKING」特別映像
 

そして最後、ディスク3には細野のデビュー50周年を記念して制作され、全国50館以上の映画館でロングラン上映されたドキュメンタリー映画「NO SMOKING」が収録されている。星野源の落ち着いたナレーションに導かれながら、映像は細野の足跡を丹念に辿っていくが、その基調は決して懐古的になっていない。それはおそらく、監督を務めた佐渡岳利が、常に新しいものにアンテナを張りながら〈現在〉を生き続ける存在として細野を捉えているからであろう。当時の写真や映像をふんだんに用いた細野のキャリアの振り返りと、現在の彼による海外ツアーの模様とをカットバック的に見せる構成が、そうした印象をより強化している。

78年作『はらいそ』収録曲“東京ラッシュ”のライブ映像。水原希子・佑果姉妹がコーラスで参加。映画本編にも使われている
 

もう少し細部を見てみよう。個々のシーンでは、たとえば細野が師匠と呼ぶアーティスト/プロデューサーのヴァン・ダイク・パークスと抱き合う場面や、細野を憧れの存在として慕うマック・デマルコとタバコを吸う場面など、見どころがたくさんあるが、筆者にとってハイライトに思えたのはやはり、細野のツアー先のロンドンでYMOメンバーが奇跡的に集結する場面だ。

細野のライブに観客として来ていた高橋幸宏が急遽ステージに上がり、YMOの名曲“Absolute Ego Dance”のドラム・ロールを叩き出す。そのビシッと決まった姿に痺れずにいる方が難しいだろう。そしてそれだけでも十分すごいのに、演奏の中盤あたりでなんと坂本龍一まで飛び入り参加するのだ。かくしてYMOは一夜限りの復活を遂げる。散開から長い年月を経て異国の地で再び集まり、過去の苦難や確執などなかったかのように無邪気に音と戯れる彼らの様子は、観ていて感極まるものがあった。

YMOの79年作『Solid State Survivor』収録曲“Absolute Ego Dance”のロンドンでのライブ映像

 

めくるめく細野ワールドをめぐる観光旅行へ

以上、駆け足で各作品の概要を見ていったが、当然のことながらこの程度の言葉数では到底それらの魅力は語り尽くせない。本稿は細野ワールドへの入口の、そのまた入口とでも思っていただければ幸いだ。なお、本ボックス・セットに収録された3作品は、それぞれ単体の作品としてもリリースされているので、そのどれか一つをきっかけにして、細野への興味を深めていくのもいいだろう。

では、前口上はこれくらいにしよう。めくるめく細野ワールドをめぐる観光旅行へ、気をつけて行ってらっしゃい。