映画「ゲド戦記」の挿入歌となったデビュー曲“テルーの唄”における、純粋な美しさを持つヴォーカルで一気に注目を集めてから8年。27歳になった手嶌葵から、オリジナル・フル・アルバムとしては初となる新作『Ren'dez-vous』が届けられた。今作の軸になっているテーマは〈Cinematic〉。彼女がこよなく愛する映画をモチーフに、当人いわく「曲を聴いたとき、映像が浮かぶような」というシックな手触りのポップソングが提示されている。

手嶌葵 Ren'dez-vous ビクター(2014)

  「まず、プロデューサーさんが〈葵ちゃんの好きな映画は?〉と訊いてくださったんですね。そのときに挙げたのは、例えば『ショコラ』『アメリ』など。いままで私がカヴァーしたのは、モノクロの古い映画の楽曲が多かったんですが、今回、日本語のオリジナル曲を作るにあたって、私と同じ世代の方にも身近に感じてもらえるようなものにしたいと思ったんですね。私が10代の頃に観ていた映画に寄り添って作れば、同世代の人たちにも興味を持っていただけるのかな、と」。

 作家陣にはいしわたり淳治大貫妙子杉真理などが参加。豊かな経験を持ったクリエイターとのコラボレーションは、彼女の新たな表現に繋がっているようだ。また、大貫と田上陽一がそれぞれ作曲を担当した“ちょっとしたもの”“Baritone”では作詞に初挑戦。〈作詞家としての手嶌葵〉を味わえるのも、このアルバムの魅力だろう。

  「いしわたりさんとは(歌詞の内容について)直接話をさせていただきました。といっても、私がイメージしている〈設定〉をお伝えしただけなんですよ。例えば“ショコラ”という楽曲では〈女の人が船乗りに恋をして、結局フラれてしまう〉とか。いしわたりさんの歌詞は本当に素晴らしくて、〈実際に歌うことで、さらに歌詞の意味がわかる〉ということが何度もあったんです。メロディーに乗せたときに、言葉の深いところがもっと理解できるというか。“ちょっとしたもの”の歌詞は、自分で書かせていただきました。大貫さんからいただいたデモを聴いたとき、〈これは部屋の中だな〉と思ったんですよね。で、〈そこで何をするだろう?〉と考えながら、短編映画を作るような気持ちで書いてみよう、と。“Baritone”は女の人がジャズ・バーで歌ってる雰囲気。少し色気のある歌にしたかったんですよ。私、もう27歳なので(笑)」。

 普段から交流があるというシンガー・ソングライター池田綾子が作詞/作曲を手掛けた“明日への手紙”も心に残る。葛藤や悩みを抱えながらも、強い意志を持って、未来に向かって進んでいく――そんな心情が描かれたこのバラードからは、手嶌葵の等身大の姿が伝わってくるのだ。

  「〈もがきながら〉という歌詞があったりするので、池田さんは〈葵ちゃんにはちょっと言葉がキツイかな?〉って心配してくれたんです。でも、私としては〈全然大丈夫です〉という感じだったんですよね。いままでとは違う部分を見せていきたいという気持ちもあったし、こういう言葉を歌えれば〈静かな人〉というイメージも変わってくるんじゃないかなって……。おとなしいと思われがちですけど、決しておしとやかではないですから」。

 彼女自身のセンスと意志が色濃く反映された本作。音楽性を広げたこのアルバムによって、手嶌葵はさらに多くのリスナーへリーチすることになりそうだ。 *森 朋之

【関連動画】 手嶌葵 『Ren'dez-vous』 発売記念スタジオ・ライヴ映像

 

 

▼関連作品

手嶌葵が参加した2012年のサントラ『坂道のアポロン』(エピック)、2010年までの外仕事も収められたコレクション・アルバム『Collection Blue』(YAMAHA)

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▼『Ren'dez-vous』に参加したアーティストの作品を一部紹介

左から、大貫妙子の2007年作『Boucles d'oreilles』(ソニー)、杉真理 with モーメント・ストリングカルテットの2014年作『STRINGS OF GOLD』(U'S MUSIC)、池田綾子の2013年作『この時の中で』(39ers)

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 ここでは手嶌葵の作品を一部紹介します。自身がヒロインの声も務めた「ゲド戦記」の挿入歌“テルーの歌”や映画のイメージ・ソングなどを収めた初アルバム『ゲド戦記歌集』(YAMAHA)が発表されたのは2006年。〈新たなる旅立ち〉をテーマとする翌年の2作目『春の歌集』(同)を挿み、2008年には洋画主題歌のカヴァー集『The Rose ~I Love Cinemas~』(同)をリリースします。2011年には再度ジブリ作品の主題歌を担当し、映画音楽を手掛けた武部聡志のバックアップで『コクリコ坂から歌集』(同)を上梓。2013年に登場した洋画音楽カヴァー集の第3弾『Miss AOI - Bonjour,Paris!』(Ren'dez-vous)では初のセルフ・プロデュースを経験し、そこで披露された彼女の世界観は、今回の新作でより鮮やかに浮き彫りとなっています。  *bounce編集部

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