
セルフ・カヴァーのテーマは、なんと〈破壊〉! いったいどうなる?
運命の導きにより重要な意味合いを増す「MOTHER」の音楽
鈴木「21世紀になってから、いつかはやりたいなと……。死ぬまでにやりたいプランのひとつだったんですけどね(笑)」
鈴木慶一がそう語るのは、自身のミュージシャン生活50周年を記念してリリースされる新作『MOTHER MUSIC REVISITED』――今も伝説的に語り継がれるゲーム「MOTHER」の音楽をセルフ・カヴァーしたアルバムである。

89年7月に任天堂からファミリーコンピュータ用ゲームとして発売された「MOTHER」は、糸井重里が企画・設定・全シナリオを手掛け、当時の〈ゲームのお約束〉をひっくり返したことで話題を呼んだ名作シリーズ。鈴木慶一と田中宏和による音楽を含め、今も熱狂的な支持者が多いことで知られている。
鈴木「数年前にはアメリカから十数人のファンが、うちの事務所に押しかけたことがありました。作った頃はそんなに実感はなかったんですけど、21世紀になってから若いバンドと対バンした際、大体皆さん80年代生まれで、私と話すときに、まずムーンライダーズ聴いてました! ……ではなく『MOTHER』やってました!って最初に言われるんです(笑)。それで再認識したところはありますね。更には今、YouTubeを検索すると『MOTHER』の曲を世界中の人がカヴァーしてくれている。ありがたいことです」
なぜ、これほどまでに「MOTHER」の音楽は愛されるのか? その秘密は、通常の劇伴とは異なる意識で作られたからかもしれない。
鈴木「映画は内容によって観客がある程度限定されますが、ゲーム音楽の方はコマーシャルの音楽を作るのに似ていて、誰もが見たり聞いたりするものだと思うんです。子どもが家でやっていれば、親の耳にも入りますし。そういう音楽を非常に大真面目に作りたいと思って取り組みました。もちろん、他の音楽が不真面目というわけではありませんが(笑)」
実際のゲーム内ではファミコンの限られた同時発音数(3音!)で鳴り響いた鈴木の音楽だが、制作後に採算度外視で海外のミュージシャンも起用したロンドンの有名スタジオでサウンドトラックをレコーディング。ゲーム発売の翌月に『MOTHER オリジナル・サウンド・トラック』としてリリースされた。このアルバムは、鈴木の人生のおいても大切な1枚となっているという。
鈴木「86年からムーンライダーズが休止してたんですね。でも、みんなソロ・アルバムが出来たら、また一緒にやろうかなと漠然と考えていたのに、私だけ出来なかったんです。でも『MOTHER オリジナル・サウンド・トラック』を聴いた岡田徹君が、〈これは、はっきり言ってソロ・アルバムだよ!〉って言ってくれて。それがムーンライダーズを再開するきっかけなんです」
こうした偶然――いや運命の導きにより、「MOTHER」の音楽は鈴木自身にとって重要な意味合いをもつようになった。そう捉えるほどに今回の『MOTHER MUSIC REVISITED』の存在意義が際立つ。
鈴木「タイトルは色んな候補がありましたけれども、〈MOTHER〉だけだとゲームだと勘違いされてしまうのでMUSICを付けました。REVISITEDと付けたのはボブ・ディランの『Highway 61 Revisited』(邦題:追憶のハイウェイ 61)をイメージしたんですよ。選曲ですが、89年のロンドン・レコーディング版と全く同じ曲順で、同じ曲をカヴァーしました。今になってあのアルバムを聴き直してみると、完成度が高いなと……。あの時はバブル期だったんですね。自分も若かったし予算もあったわけです。そうではない今、さあやるぞ!と言ったはいいものの足取りは重かった。世界中にファンやマニアがいることを考えすぎちゃったのもありますね。でもある時、誰かミュージシャンの本を読んでいたら、熱狂なるファンのためではなく、自分のために作ればいいんだと書いてあって、そこから気持ちが切り替わったね」

録音は共同プロデューサーを務めたゴンドウトモヒコのスタジオで行われた。鈴木とゴンドウは、No Lie-Senceやビートニクス、NHK Eテレの人気番組「ムジカ・ピッコリーノ」での共演でも知られる仲だ。
鈴木「ムーンライダーズの時はデモテープを作りますけど、ソロとかNo Lie-Sense(KERAとのユニット)のレコーディングでは青写真を持っていかないんですね。ゴンドウ君のスタジオのマジックがあって、楽器が沢山あるので、今日はこのウクレレ触ってみようかなって弾いていると曲が出来たりする(笑)」
ゴンドウ「慶一さんが楽器を持ち出したら、いつでも録れるようにマイクを用意してジャックに繋ぐ。はたまた歌いだしたら、あとで何だっけ?とならないように、とりあえずiPhoneで録音しておくのが結構重要で(笑)。物を作るっていうのは、やっぱりそういうことなんだなと僕も学ばせていただきました」
鈴木「いま作っている曲とは別の曲の間奏を思いついたから、これだけ録っておいてとかね(笑)」

破壊的でありつつも、同時に慈しみに溢れた“EIGHT MELODIES”は必聴
コロナ禍でも鈴木が今回のレコーディングに集中できたのは、ゴンドウの献身的なサポートがあってこそなのだ。
ゴンドウ「なるべくスムーズに進むのが一番なので、80年代のレコーディングの音を聴いて、先に構成だけ作っておいたんですけど、実際に出来上がったものは、同じような構成にしなかったりとか、ガラッと変わるものも多かったのでどれもこれも面白かったですね」
鈴木「ひとりじゃ何も出来ないんです。ゴンドウ君がいたり、楽器があったり……。人と物がないと音楽は生まれないです」
こうした環境のなか、レコーディングはアルバムの収録順に行われていった。
鈴木「89年のオリジナルと、どれだけ離れるか。でも反対に、近寄る部分も作りたかったので、オリジナルとの距離のとり方を曲ごとに考えましたね。録音する前に89年版を聴いて、イントロを考えテンポを遅くしたり、それをゴンドウ君にシーケンサーソフトに入れてもらって元曲も取り込み、それをストレッチしてテンポを合わせてもらったのを聴きつつ、オリジナルから離れてみたり。歌詞が英語なので、ロンドンの録音で歌っているキャサリンの発音を聴いて、オリジナルに戻ったり……」
こうして新たなアレンジが施されていくのだが、アルバムを締めくくる『MOTHER』を代表する1曲“EIGHT MELODIES”こそが、やはり今作の白眉となるだろう。ロンドンの録音では、かのマイケル・ナイマンが編曲を務めたが、鈴木のセルフ・カヴァーのテーマは、なんと〈破壊〉だった。
鈴木「ゲームのなかで8小節のメロディーを集めると、最終ゴールに進めるという形になっているので、1小節たりとも同じメロディーを使っていないんです。そのくらいカチッと出来上がっちゃっていて、和音も決まっちゃっているんで、それをどう破壊しようかなと。それでまず、ギター(12本)でミニマルなフレーズを大量にいれようと。そこにフィードバックのギターを4本重ねて、最終的に上野洋子さんのアレンジによる弦のカルテットが加わりました。後はゴンドウ君のミックスの手腕ですね(笑)」
ゴンドウ「録音中、本当にどうするんだろうと思いましたよ(笑)。Billboardでのライヴでもアンコールで演奏したんですけど、その時はリミックスのような、破壊するような演奏をしました。それは最初の狙い通りだったんですね(笑)」

破壊的でありつつも、同時に慈しみに溢れた“EIGHT MELODIES”は必聴だ。そしてゴンドウを含むゲスト・アレンジャー陣が編曲を担当した、歌のないインストゥルメンタルとなる3曲もバラエティー豊かで実に面白い。
鈴木「ゴンドウ君にはどれがいい?って選んでもらったのが“MAGICANT”でした。熱狂的な『MOTHER』ファンである佐藤優介君(カメラ=万年筆)にも何か頼みたいと思って、89年のアルバムではキリング・タイムがやった“FALLIN’ LOVE AND”をお願いしました。蓮沼執太君は一緒にライヴをしたことがあるんですけど、何か面白いものになるんじゃないかと予感して。いやあ驚きましたね! 最初“SNOW MAN”だって分からなかったぐらいですから(笑)」
驚きと発見に満ちた『MOTHER MUSIC REVISITED』は、ゲームのファンだけに向けた内容でないことはお分かりいただけただろうか。これを機に、鈴木慶一の〈代表作〉のひとつといって間違いない「MOTHER」を再発見する絶好の機会となるはずだ。
ゴンドウトモヒコ (ごんどう・ともひこ)
1967年生まれ。インディ・レーベル〈愚音堂〉主宰。日本大学芸術学部卒業後、ボストン大学に留学し、電子音楽とユーフォニウムを専攻。帰国後、95年に高橋幸宏率いるオフィスインテンツィオに所属。トロンボーンやフリューゲルホーン、ディジュリドゥといった生楽器のみならず、エレクトロニクスを駆使した楽曲も構築。LOVE PSYCHEDELICO、THE BEATNIKS、CHARA、UA、くるりなど多数のミュージシャンのレコーディングやライブなどに参加し、CM音楽およびサウンドトラックを制作する。自身が主宰する音楽集団Anonymassや高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、TOWA TEI、LEO今井とともにMETAFIVEでも活動。2015年より、Eテレ「ムジカ・ピッコリーノ」の音楽監督を務める。
鈴木慶一 (すずき・けいいち)
1951年生まれ。あがた森魚、はっぴえんどなどのサポートや録音セッションを経験したのち、72年に〈はちみつぱい〉を結成。日本語によるロックの先駆的な活動を展開する。その後ムーンライダーズを結成し76年にアルバム『火の玉ボーイ』でデビュー。バンド活動の傍ら多くのCM音楽、アイドル、演歌など幅広い楽曲提供とプロデュースを行う。「MOTHER」「MOTHER2」などのゲーム音楽にも関わり、その影響力は大きい。北野武監督の「座頭市」「アウトレイジ 最終章」で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を、今敏監督の「東京ゴッドファーザーズ」でシッチェス国際映画祭最優秀音楽賞をそれぞれ受賞。俳優としての顔も持つ。