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松浦俊夫

いまなおフレッシュなブリット・ファンク・クラシック

――STR4TAは70年代後半から80年代初頭におけるブリット・ファンクにインスパイアされているのですが、ブリット・ファンクをDJでかけたことはありました? 先ほどフリーズやレヴェル42の話も出てきましたけど。

須永「僕は一般的なディスコとは別もののニューウェイヴとして捉えていたので、意外と躊躇なくプレイしていましたよ。“Aspects”を聴いたときの話に戻るけど、〈あっ、これ、レヴェル42だな〉って思ったんですよね。レヴェル42にパトリース・ラッシェンが入っている感じというか」

松浦「(笑)。たぶんそのまんまだと思いますよ(笑)」

須永「スマートでいいなあ、ここにきたか、40年ぶりかあ、と思って。40年で時代が一回転するんだな、というふうに思いましたね」

――レヴェル42の“Starchild”(81年)はガラージ・クラシックというか、ロフト・クラシックでもあって、フランソワ・ケヴォーキアンやデヴィッド・マンキューソなどの中心的なDJが結構プレイしています。STR4TAも時代的にはああいったシーンに繋がっているのかなと思いますね。

レヴェル42の81年作『Level 42』収録曲“Starchild”

須永「そうですね。レヴェル42だと、“Micro-Kid”(83年)とかもマンキューソはかけますしね」

レヴェル42の83年作『Standing In The Light』収録曲“Micro-Kid”

――松浦さんはいかがですか?

松浦「僕はどっちかというと、(DJでかけるよりも)聴くほうですかね。さっき辰緒さんがおっしゃっていたみたいに、積極的にかけるほうではなかったけど、その中でも“Southern Freeez”みたいな曲があったりとか。クラブ・トラックというよりリスニング向きのサウンドで、ジャズ・フュージョンとポップ・ミュージックが混じったようなものというふうに認識をしていたんです。

今回、UKのブリット・ファンクについて改めていろいろと調べてみたら、UKではクラブ・ミュージックとして、クラブとラジオの両面で広がっていったというのが成り立ちとしてあるようです。当時はダンス・ミュージックとして作られていたのかなと思います」

 

STR4TAへと至るUKソウルとダンス・カルチャーの歴史

――ジャイルスもブルーイも、STR4TAに関してはインコグニートのような洗練された音ではなくて、もうちょっと尖った、エッジの効いた部分を出したいと思ってレコ―ディングしたそうですね。それが、先ほど話に挙がったニューウェイヴやポスト・パンクに繋がってくるのかなと思います。5、6年ぐらい前にジャイルスがやったブラジリアン・プロジェクトでソンゼイラ(Sonzeira)というのがありましたが、ジャイルスはそこで“Southern Freeez”をカヴァーしていたんですよね。だから、結構前から繋がっている部分があるんだなと思いますね。

須永「〈Worldwide Festival〉に出演したのは、ちょうどソンゼイラのときですもんね」

ソンゼイラの2014年作『Brasil Bam Bam Bam』収録曲“Southern Freeez”。フリーズのカヴァー

松浦「〈いま、これだ!〉っていうときのジャイルスの熱量ってすごいじゃないですか。ブラジルものにしても、キューバものにしても。それが今回はSTR4TAで出たんじゃないかなって。ジャイルスにとってブリット・ファンクは、DJに憧れた若い頃に夢中になったもので、思い入れも相当あったと思うんです。だから、ものすごく力強いものとして出たんじゃないかと。

いままでの彼の作品は、オマージュがサンプリング的に含まれている感じで作られていたものが多かったと思うんですけど、今回の場合はかなりストレートな形で出ている。それは、大成功なんじゃないかなって思いますね。

当然ブルーイの力もあると思いますし、インコグニートのミュージカル・ディレクターでもあるマット・クーパーも入っているので、サウンド・プロダクション的には彼らの貢献も結構大きいのかなと。タイミングもメンバーも完璧だったんじゃないかなと思いますね。すごくジェラシーを感じますね(笑)」

『Aspects』収録曲“Rhythm In Your Mind”

――STR4TAのメンバーについて言うと、マット・クーパーは90年代にアウトサイドというユニットをやっていて、アシッド・ジャズからニュー・ジャズやフューチャー・ジャズへの橋渡しをしました。それから、トーキング・ラウドでK・クリエイティヴというユニットをやっていたスキ・オークンフルも入っていて、アシッド・ジャズやクラブ・ジャズ周辺の人たちも結構参加しているんです。

松浦「そもそもロンドンには脈々とノーザン・ソウルのシーンがあって、そこからソウル・ボーイがあって、一方でパンクのシーンがあり、さらにポスト・パンク、ニューウェイヴも全部繋がっているんです。そんな中で、80年代後半から90年代前半にアシッド・ジャズというピリオドに入った。それから30年ぐらい経って、いまちょうど振り返るタイミングでもあるのかなと……。自分もその中にいた一人としては、納得できますよね。この後アシッド・ジャズ的なものがリヴァイヴァルするのかどうかはわかりませんけど。でも、やっぱりイギリスの音楽シーンは〈ソウル〉が基本にあるのだと思います」

※編集部注 70年代後半から80年代前半にイングランドで興った、労働者階級の若者たちのムーヴメント。ロニー・リストン・スミスやロイ・エアーズなど、ノーザン・ソウルよりもモダンなジャズ・ファンクが好まれた