ブリットファンクの再評価や現行シーンの盛り上がりによっていま注目を集めているのが、80年代後半~90年代前半のUKソウルだ。アシッドジャズなどと密接な関係にあったUKソウルは、AORやシティポップのブームが続く昨今、次にリバイバルするジャンルなのではないか?と目されている。

そのUKソウルの名曲を多数収録したコンピレーションアルバム『ESSENTIAL UK SOUL』が、タワーレコード限定で登場。UKソウル入門者にも当時の楽曲をもう一度聴きたいリアルタイム世代にも手に取ってほしい永久保存盤だ。この記事では、そんな本作の聴きどころを音楽ジャーナリストの林剛に解説してもらった。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『ESSENTIAL UK SOUL(タワーレコード限定)』 ユニバーサル(2021)

 

UKソウルとは何だったのか?

英国発のR&B/ソウルミュージックがUKソウルと呼ばれるようになったのは、80年代後半〜90年代前半くらいのことだ。もちろん、それまでもブリティッシュソウルの別称として広義でそう呼ばれることもあった。が、特定のムーブメントやシーンに因んだ音楽の呼称として意識的に使われるようになったのは90年前後。ジャイルス・ピーターソンがトーキング・ラウドを設立した頃でもある。長らくの開店休業状態を経て同レーベルの看板となったインコグニートをはじめ、ブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイといったアーティストたちがレアグルーヴを下地としたアシッドジャズのムーブメントを世界に発信していく中で、UKソウルという言葉が定着し始めた。ジャイルスは最近、インコグニートのブルーイ(ジャン・ポール・モーニック)と旧交を温めながらブリットファンクの進化形を謳ったストラータとしても活動。このふたりがUKソウルの発展に及ぼした影響は計り知れない。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲インコグニート“Don’t You Worry ’Bout A Thing”

同時にUKソウルをUKソウルたらしめた存在として忘れられないのが、地を這うようなグラウンドビートを世界に広めたソウルIIソウル、およびその総帥であるジャジー・Bだ。アシッドジャズと呼ばれた音楽が主に70年代のソウルやファンク、ジャズ、ラテンなどを再解釈する一方で、ソウルIIソウルはレゲエ/サウンドシステムを基盤に、米国を席巻していたニュージャックスウィングなどとも共振しながらカリブ海移民の子孫を中心にしたUKブラックの新しいソウルを提示した。

そのプロモーションに、ラジオとクラブを跨ぐDJとして一役買ったのがトレヴァー・ネルソンという名伯楽。MTV UKでホストを務めるなどしていた彼は、EMI系列のクールテンポでA&Rとしてミーシャ・パリスや故リンデン・デイヴィッド・ホールに携わり、UK国内におけるディアンジェロのプロモーションも担当。90年代半ばからはBBC Radio1で「The Rhythm Nation」というR&B番組を始め、レアグルーヴ〜アシッドジャズも含めたUKソウルの紹介者となった。

そうしてジャイルスやトレヴァーらが紹介する英国産R&BをUKソウルと呼んでいた。さらに、そんなUKソウルのモードは日本にも伝播し、スウィング・アウト・シスターのようなポップアクトと一緒に都会の生活を彩る〈オシャレ〉な音楽としてFMラジオやクラブで紹介されるようになる。

 

トーキング・ラウドで始まりトーキング・ラウドで終わる

前置きが長くなったが、当時の日本での気分も踏まえて、90年代を中心としたUKソウルの名曲をレアなリミックスバージョンなどを交えて19曲を収録したのが、この度タワーレコード限定で発売されるコンピレーション『ESSENTIAL UK SOUL』だ。幕開けはインコグニートによるスティーヴィー・ワンダーの名曲のカヴァー“Don’t You Worry ’Bout A Thing”(92年)で、クロージングナンバーはオマーの“There’s Nothing Like This”(90年)。つまり、トーキング・ラウドで始まり、トーキング・ラウドで終わる構成。オマーの曲は厳密に言えば再発(原盤はコンゴ・ダンス)となるが、日本で一般的にUKソウルとしてイメージされるのは、今回“Spiritual Love (Natural 7”)”(93年)が収録されたアーバン・スピーシーズを含むトーキング・ラウド勢の70sマナーの楽曲だろう。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲オマー“There’s Nothing Like This”

90年の“Don’t Be A Fool”が収録されたルース・エンズは、ブリットファンク周辺のグループとして80年代から活躍し、シャーデーと並ぶUK発のモダンなソウルアクトとして米国でも人気を集めた。そうしたUKソウルの先達との交流から生まれた曲として本盤では、イマジネーションの元メンバー、アシュリー・イングラムが手掛けたデズリーの“You Gotta Be”(94年。今回はLove Will Save The Day Mixを収録)を聴くことができる。スウィング・アウト・シスターの“Breakout”(86年)にいたってはそれ自体がUKソウルの先駆けで、これを手掛けたポール・ステイヴリー・オダフィはフリーズへの関与で知られる。“Breakout”は時代的にストック=エイトキン=ウォーターマン的なハイエナジー感も滲むが、米国出身のシビルによるグラウンドビート調の“Make It Easy On Me (UK Single Mix)”(90年)はそのストック=エイトキン=ウォーターマンの制作で、彼らのPWLから出されていた。これらは今回収録されたアリソン・ライムリックの“Make It On My Own”(92年)やディナ・キャロルの“Ain’t No Man”(92年)といったハウスマナーのR&Bとともに、当時日本のFM局でもヘヴィプレイ。改めて聴くと、こうした女性シンガーの曲は、リサ・スタンスフィールドの活躍も刺激になっていたのだと感じる。

『ESSENTIAL UK SOUL』収録曲スウィング・アウト・シスター“Breakout”