PR
コラム

インコグニート(Incognito)はいつだって裏切らない 多彩な個性が活かされた新作『Into You』を紐解く

信頼を積み重ねて長いキャリアを歩んできたインコグニートが4年ぶりの新作を完成! 個々の幅広い才能を活かしたソウルフルで洒脱なグルーヴに今回も酔わされて……

 4年ぶりのインコグニート!と書いてはみたものの、良い意味で大騒ぎする必要はないのかもしれない。なぜなら、近年のジャン=ポール“ブルーイ”モーニックは複数のプロジェクトを並行させながら定期的に作品を届けてくれているからであり(昨年はストラータの『Str4tasfear』がリリース)、同時にそれらの完成度が期待を裏切ることはもはやないからだ。

 そうやって約45年もの長いキャリアを通じ、高水準なサウンドによって伝統と信頼を積み重ねてきたブルーイとインコグニート。昨年12月には新ヴォーカリストのナタリー・ダンカンを伴って久々の来日公演を開催し、今年1月に日本限定企画盤『Tokyo Dreams』が登場したのも記憶に新しい。また、この夏のブルーイはシトラス・サンでも来日しており、核となる演奏陣も本丸と同メンバーなわけで、ブルーイ軍団というコレクティヴで見れば不在を感じる暇もなかったのは確かだ。とはいえ、このたび到着したインコグニート通算19枚目のオリジナル・アルバム『Into You』には、いつも通りの心地良さに新しい彩りも確認できる。

INCOGNITO 『Into You』 Incognito/SPACE SHOWER(2023)

 新作のレコーディングは地元ロンドンのイーストエンドにあるブルーイのスタジオを中心に、今年1月にツアーで訪れていたタイ、そしてオランダも含む計3か所で行われたそう。プロダクション面では、片腕的な存在のリチャード・ブル(キーボード他)とエンジニアも務めるモー・ハウスラーの両名が曲ごとにブルーイの脇を固めている。演奏は先述のシトラス・サンにも名を連ねるフランシス・ヒルトン(ベース)、フランチェスコ・メンドリア(ドラムス)、ジョアン・カエターノ(パーカッション)といった近年の固定メンバーがボトムを支え、さらにはキッコ・アロッタ(ピアノ/ローズ)、ここ1年でリード・ギタリストに抜擢されたチャーリー・アレンも初参加(昨年12月に東京で録音したパートもあるそうだ)。前作から続投のチェリVに加えて先述のナタリー・ダンカンが女性ヴォーカルの二枚看板を張り、男声では前作に不在だったトニー・モムレルもワンダーな歌を要所で聴かせる。

 そんななか今回が初参加のナタリーをメインにしたのが、軽快なピアノと抑制されたグルーヴが爽やかな冒頭の“Keep Me In The Dark”だ。もともとエイミー・ワインハウス的な作法で10年前にヴァーヴからデビューしていた彼女はジャジー・ソウル調の“Colourblind”でもリードを務め、“Reconcile The Pieces”ではトニーとデュエット、“One Step”ではピアノとスキャットを披露するなど、自身の持ち味を発揮している。一方のシェリもメロウな“Into You”からスキー・オークンフル共作のグルーヴィーなアップ“Stories Of Our Past”まで万能ぶりを発揮。バジーレ・プティトゥ&ドリュー・ワイネンのハウス曲をバンド・リメイクした“Nothing Makes Me Feel Better”では、そんなヴォーカル勢が声を重ねた昂揚感も味わえる。

 演者にフィーチャーした楽曲という意味では、先述のキッコ・アロッタが自身主導の“1993”にてこれまたワンダーなリード歌唱を披露。ゲストとしてはかつて90年代のインコグニートに参加し、ハイ・ヴァイブスでの『Zeus』で音楽活動に復帰したばかりの俳優マックス・ビーズリーがヴィブラフォンを演奏した“Close To Midnight”も聴きもの。そうした旧交だけでなく、数曲のコライトや演奏に貢献するヤクルのジェイムズ・バークリーがAOR的なムードの“Tell Me Something”で制作/歌唱し、〈オランダのインコグニート〉と呼ばれたトリスタンのコーエン・モレナーが2曲でピアノ/ローズを演奏しているのも見逃せない。

 そうした多彩な個性が自在に活かされたアルバムのラストは、ブルーイのギターと歌声が吹き抜ける黄昏フュージョン“Back On The Beach”。やはり今回もインコグニートは裏切らない。

左から、インコグニートの2019年作『Tomorrow's New Dream』(Bluey Music)、インコグニートの日本編集盤『Tokyo Dreams』(ユニバーサル)、ブルーイの2020年作『Tinted Sky』(Splash Blue)、シトラス・サンの2020年作『Expansions And Visions』(Dome)、ストラータの2022年作『Str4tasfear』(Brownswood)、トニー・モムレルの2021年作『Lockdown Acoustic Sessions』(Vibe45)、11月10日にリリースされるヤクールの日本編集盤『In Our World』(Pヴァイン)、トリスタンの2023年作『Seven』(Isolde)、マックス・ビーズリーズ・ハイ・ヴァイブスの2023年作『Zeus』(Légère)