インコグニートの時代を超えるライヴ盤と秘蔵のレア曲集が登場!

 40年以上のキャリアを通じてジャズ・ファンク/UKソウルを牽引するジャン=ポール“ブルーイ”モーニックとインコグニート。ブリット・ファンクやアシッド・ジャズなど時代ごとのムーヴメントで機能してきた重鎮だが、そのサウンドをどう呼ぼうがその芯は変わらない。ここ数年の彼は複数のパーマネントなプロジェクトを並行させながら精力的にリリースを重ねていて、2020年にはブルーイ名義のソロ3作目『Tinted Sky』とシトラス・サンの4作目『Expansions & Visions』を発表。さらにジャイルズ・ピーターソンと組んだストラータでは昨年の『STR4TASFEAR』までアルバム2枚を残している。それ以外にもロベルタ・ジェンティーレやフランシスカ・トーマス、さかいゆうらのプロデュースを手掛け、かつて自身の仕事集『One Nation』(2003年)で手掛けていた松原みき“真夜中のドア~Stay With Me”のリミックスが脚光を浴びたのも記憶に新しいかもしれない。

 とはいえ、その動きの中心にはもちろんインコグニートがある。現時点での最新アルバムは2019年の『Tomorrow’s New Dream』ながら、単曲ではチャリティ目的の“We’re In This Thing Together”(2020年)や英ドームの30周年に寄せた“Could Heaven Ever Be Like This”(2022年)を配信しているし、昨年12月には新ヴォーカリストのナタリー・ダンカンを伴った体制で待望の来日公演も行ったばかりだ。その余韻も冷めやらぬタイミングで今回届いたのが、ライヴ音源+レア・トラック集という2CDの日本限定企画盤『Tokyo Dreams』となる。

INCOGNITO 『Tokyo Dreams』 ユニバーサル(2023)

 これはもともと2021年に編まれたデビュー40周年記念8枚組ボックス『Always There (40 Years & Still Groovin’)』から美味なる部分を切り出したものだ。Disc-1は、97年に日本でのみ出たバンド初のライヴ盤『Tokyo Live 1996 (Last Night In Tokyo)』と同内容。収録されたのは96年12月14日の東京・恵比寿ガーデンホール公演で、当時のタイムラインでは『Beneath The Surface』(96年)を出した後のパフォーマンスとなる。『Beneath The Surface』といえば『100° And Rising』(95年)に不参加だったメイザ・リークがバンドに復帰した人気作のひとつだ。演奏はブルーイ(ギター)と音楽監督のグラハム・ハーヴェイ(キーボード)をはじめ、リチャード・ベイリー(ドラムス)、ランディ・ホープ・テイラー(ベース)といったメンバーに、『Beneath The Surface』参加のホーン隊という陣容。ヴォーカル陣はメイザのほか、クリス・バリン、イマーニが並んでいる。

 オリジナルのインスト曲“She Rises In The East”を幕開けに、主軸となるのはクリスがメインを張る“Labour Of Love”、メイザがリードを取る“Out Of The Storm”など、この時点での最新作『Beneath The Surface』収録曲が多め。そこに、代表曲となるスティーヴィー・ワンダーのカヴァー“Don’t You Worry ’Bout A Thing”(92年)やサイド・エフェクトをカヴァーした出世曲“Always There”(91年)も含めて各アルバムからの楽曲が満遍なく披露され、当時のグレイテスト・ヒッツ的な内容になっている。ラストは『Positivity』(93年)からの人気曲“Still A Friend Of Mine”。当時の日本はアシッド・ジャズ由来の洒落た音楽がクラブ人気を超えて一般的に広がっていたであろう時期で、会場の良い雰囲気も含めて熱気に溢れた素敵な記録と言えるだろう。

 一方で、ブルーイが選曲したレア・トラック集のDisc-2にも注目だ。こちらは5つの未発表トラックに加え、90年代のシングルB面や各国盤のボートラなどで世に出たレアな10曲、さらにブルーイが歌唱する新曲“You Are In My System”(システムのカヴァー)も収録。もっとも過去の“Glide”(90年)からレア曲がまとめて聴けるのもありがたいし、Disc-1と同公演での演奏ながらライヴ盤に未収録だったアヴェレイジ・ホワイト・バンドのカヴァー“Pick Up The Pieces”も楽しく(2001年作『Life, Stranger Than Fiction』の日本盤ボートラ)、出自で区分けせずとも心地良いグルーヴの普遍的な魅力を感じ取ることができるだろう。

 常にそこにいる進行形の現役で、マイペースに40周年を突破。まったくご無沙汰感を抱かせないのも凄いが、そうなればインコグニート名義でのニュー・アルバムにもそろそろ期待したいところだ。

左から、インコグニートの2019年作『Tomorrow’s New Dream』(Bluey Music)、ブルーイの2020年作『Tinted Sky』(Splash Blue)、シトラス・サンの2020年作『Expansions And Visions』(Dome)

左から、ストラータの2022年作『STR4TASFEAR』(Brownswood)、ロベルタ・ジェンティーレの2021年作『Bring It On』(Splash Blue)、松原みきの編集盤『松原みき meets 林哲司』(ポニーキャニオン)