彼女が歩くのはワイルドサイド……ではなく誰かの街へと続く森の散歩道。コロナ禍を経て完成したニュー・ミニ・アルバムには、ヘルシーでポジティヴな〈再生〉の音が鳴っている!
人と一緒に、新しいことをやりたい
新型コロナウイルス感染症の発生からおよそ5年が経ち、その脅威が〈終わった〉とされるいまも、私たちの生活に与えている影響は計り知れない。人々は孤独や不安と向き合い、新しい日常を模索するなかで、それぞれの生き方を見つめ直す時間を持った。ラブリーサマーちゃんもその一人。〈健康と内省〉をテーマにしたニュー・ミニ・アルバム『Music For Walking (Out Of The Woods)』には、彼女がこの数年で体験した深い内省や、コロナ禍中に始めた〈散歩〉を経てふたたび社会と接続することへの渇望が、まるで一編の映画のように描かれている。
「コロナ禍が始まったとき、まるで台風で学校が休みになった日のように感じました。外に出ないことが〈良し〉とされる状況になって、出不精のオイラにはありがたかったんです。もちろん、たくさんの人が亡くなるなど悲しいこともたくさんありました。その一方で、個人的には精神も安定し、徐々に健康になっていくのを感じたのも事実です」。
社会がストップしたことで、新しい日課として始めた散歩。それが彼女の心身に大きな影響を及ぼした。
「家でゴロゴロしながらNetflixを観て1日が終わる日々に、さすがに飽きてきたんですよね(笑)。それで、ちょっと散歩してみようと思って実家まで歩いて行ってご飯を食べて、また歩いて帰ってくるという日があったんです。普段はジャンクフードばかり食べていたんですけど、体を動かすとこんなにも気持ち良くなるのかとびっくりして。それから毎日1時間ほどの散歩が日課になって、自分がどんどん健康になっていくのを感じました」。
そんな日々の散歩に合う音楽を作るのも、本作の大きなテーマのひとつ。これまでのような、起伏の激しいドラマティックな展開はやや後退し、肩の力の抜けた曲が多くなった。
「構成もシンプルで、イントロからAメロ、Bメロ、サビ、そして間奏の繰り返しみたいな、どちらかといえばB面っぽい曲が揃っている感じ。ある種BGM的な、いつでも聴けるイージーリスニングというか。聴いていてハッとしたり、心がヒリヒリしたりするわけではないけれど、聴いているうちにだんだん体温が上がってくるような楽曲をめざしました」。
とはいえ、本作でもメロディーメイカーぶりは健在だ。前作を踏襲したブリット・ポップ愛が全開の“普請中”で幕を開け(タイトルは、森鴎外の同名短編小説から引用)、初期プライマル・スクリームやメアリー・ルー・ロードあたりを彷彿とさせる清々しい“(Song For Walking) In My Mind”、ライブで一緒に〈OK!〉と叫びたくなる、キュートかつ骨太な“OK Shady Lane”などヴァラエティーに富んだ楽曲がぎゅっと詰まった一枚だ。
「これまではほとんど1人でデモを作っていましたが、例えば“The Great Time Killer”は、バンド・メンバーに〈こんな感じで適当にリフを作ってください〉とお願いして、それを元にセッションしながら仕上げていきました。コロナ禍を経て、1人でやることに飽きてきたんですよね。もっと人と一緒に、新しいことをやってみたいと思ったんです」。
確かに、〈Bored of all my deeds in solitude, I made my mind to get in the car with you.(一人でやれる全てに飽きて 僕は君と車に乗ることにした)〉と歌う、件の軽快なロックチューン“The Great Time Killer”や、〈目を閉じたときよりも 深い孤独から君を想ってる これ以上君を遠くに感じたくない〉と綴ったアコースティックなミドル・ナンバー“(Song For Walking) Out Of The Woods”など、森を抜け人や社会と再び関わろうとするラブサマちゃんの思いが込められた楽曲が、ミニ・アルバム後半には並んでいる。
「やっぱり、ライヴができなかったこと大きかったですね。前作『THE THIRD SUMMER OF LOVE』をリリースしたあと、やれることがたくさんあったはずなのに、それができなかったし見てもらえなかった悔しさや悲しさがありました。それに、ステイホームで自分を見つめ直す時間を持てたけど、それがずっと続くわけじゃない。やっぱりオイラには、人と繋がることで得られるエネルギーが必要だなと。自分から人に頼るとか、人を求めるようになったのは、すごく大きな一歩でしたね。それは年齢を重ねる中で変化していった部分も大きい気がします」。