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5. 潜行(feat. 角銅真実)

ピアノと管弦楽を伴奏に、そっと内省することから広がる世界を歌う角銅真実の、声と言葉の関わり合いがおもしろい楽曲だ。〈やわらかなもようのなか〉と口にした後に柔らかな模様を描くかのようにスキャットが続き、〈どこへでもいけるさ〉と歌うと壮大な管弦楽に彩られたスキャットが遠くへトリップするかのように続く。目を閉じて深呼吸しながら聴くと時間も空間も超えてしまうかのようだ。ストリングスがクラシカルな雰囲気を醸す一方、サックスの多重録音がジャジーなオーケストレーションとしてまとめられているところも聴き応えあり。 *細田成嗣

角銅真実

 

6. Lucid

ピアノ独奏による小品。ゆったりとしたテンポで、ややくぐもったサウンドによる優しいフレーズを、変奏しながら繰り返していく。フランス印象主義を彷彿させるぼんやりとした静謐さに包まれているが、繊細なピアノの響きはかえってペダルを踏む音やダンパーの動き、あるいは椅子の軋みなど、周囲の環境音を違和感なく立ち上がらせている。終盤では4拍子から3拍子に切り替わってアレグロになるため、たった2分間のうちに壮大な物語を聴き取ることもできる。同時に、耳を凝らすことなく肩の力を抜いてアンビエント的に聴くことも可能だ。 *細田成嗣

 

7. Over Live(feat. Isatta Sheriff)

LAビートの雄=フライング・ロータスとのコラボ経験を持つロンドン在住のフィメール・ラッパー、イサッタ・シェリフを客演に迎えて制作されたアルバム中盤のハイライト曲。シリアスなムードのなかで空間を司るピアノとストリングスのシンフォニックなアレンジは、鬼気迫るように畳みかけるラップとの相性が抜群にいい。それに加えて、息をもつかせぬ展開はこの曲を起点としてアルバム後半に向けてのストーリーを一気に加速させていく。相変わらず余分な装飾が一切ない音の構成も見事で、シンプルがゆえに強いメッセージ性すら感じさせる。 *藤堂てるいえ

イサッタ・シェリフ

 

8. Tapping

タイトルどおりのタップ音と、展開をリードする鍵盤の音色のみで構成された、アルバム中で最も短い1分半足らずの楽曲。実はこうした、一聴しただけだとインタールードとも取れる楽曲にこそ、CMや映画音楽を主戦場としてきた職業作家たる彼の真骨頂が現れているのではないか。実際、前曲で印象的に響いていた鍵盤のリフレインを巧妙に踏襲しながら次曲で鳴らされるフレーズへの転換の役割を見事に果たしつつ、緊張感に溢れた単曲としても機能しているのには大いに舌を巻いてしまった。そして、アルバム後半の盛り上がりへといざなっていく。 *藤堂てるいえ

 

9. Conscious Edge(feat. 神田智子, ESME MORI)

ここまでの流れをたしかに受け、軽快なピアノがイントロを奏でると、そこに祝祭ムードに溢れながらも摩訶不思議な魅力を放つヴォーカルが加わり、満を辞してベースラインが入り込んでくるときの興奮たるや……。アイヌ古式舞踊〈鶴の舞〉の歌をモチーフに制作した曲で、起用した神田智子の透明感ある歌唱を中心に据え、それでいて強靭なダンス・ビートに仕立てたアレンジャーのESME MORIの手腕も随所に光っている。ストレートなダンス・トラックはアルバム中この曲のみで、盛り上がりのピークを迎えると、終盤は美しいパートが続く。 *藤堂てるいえ

神田智子

ESME MORI