Page 2 / 3 1ページ目から読む

若い世代のエネルギー

 アルバムは本人の語りによるイントロ“Tony's Praeludium”でスタート。ザンビアのサンパ・ザ・グレイトが威勢良く声を発するダビーな“Stumbling Down”からして、通常のトニー作品とは異なるパーカッシヴなループ・トラックに興奮させられるはずだ。クレジットを見る限りではトニー自身がほぼ全曲のドラムス/パーカッションとシンセ・ベースを担当し、いずれの曲でもヴィンセント・テーガーらが鍵盤などを加えている。そのなかで例外的なのが最初に録音された先行カット“Cosmosis”で、盟友デーモン・アルバーンが鍵盤とベースを、ゴリラズのレミ・カバカがパーカッションを演奏するなか、トニーはドラムに専念。あるいはこのようなセッション感の強い作りが理想だったのかもしれず、それだけにスケプタのラップとベン・オクリ(ナイジェリアの詩人/小説家)のスピーチを配した同曲は図抜けたテンションを放っていて惹き付けられる。

 とはいえ多くの曲はトニーが叩いたブレイクをループする形でトラックメイクが行われており、それゆえにヒップホップ的な快感が増しているのは言うまでもない。“Crushed Grapes”では米ノースキャロライナのロード・ジャー・モンテ・オグボンが、エキゾチックな“Tres Magnifique”ではツナミなる男性ラッパーが登場。バウンシーな“Mau Mau”でロウな語り口を聴かせるのはケニアのナー・エトーだ。“Coonta Kinte”ではダニー・ブラウン率いるブルーザー・ブリゲイドに属したゼルーパーズの無骨なパフォーマンスがかっこいい。コリアタウン・オディティとの“Rich Black”、ロンドンのラヴァ・ラ・ルーがフック歌唱も含めてクールな“One Inna Million”などなど、良くも悪くも偉人の存在を気にさせない快演が揃っているのは収穫じゃないだろうか。

 ジェレマイア・ジェイの極太ベース・トラック“Gang On Holiday(Em I Go We?)”、ダニー・ブラウンの芸術が爆発する“Deer In Headlights”、ネイト・ボーンのグライミーな“Hurt Your Soul”、マーロウのファットなジャズ・ラップ“My Own”……と、後半にはよりエネルギッシュな雰囲気のトラック揃い。今作の意義についてはベン・オクリがこのように説明する。

 「トニーは自身の芸術のシャーマン的な存在となったのです。彼は自分自身、そして自身のマインドをよく理解していました。彼はこのアルバムを若い世代のエネルギーに開放したかったのです。そして彼は自身のシンプルなビートで、まるで偉大な数学者や科学者が新たな世界への数式を発見するかのように、素晴らしいカンヴァスを描き上げたのです」。

 最後まで意欲的に創造性を燃やしたトニーらしい『There Is No End』。思い切り楽しむことが彼に相応しい追悼となるだろう。

トニー・アレンが演奏で参加した近年の作品を一部紹介。
左から、モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの2015年作『Sounding Lines』(Honest Jon's)、セローンの2016年作『Red Lips』(Malligator/Because)、ウム・サンガレの2017年作『Mogoya』(No Format)、コログボの2017年作『Africa Is The Future』(Paris DJs/Pヴァイン)、ヌビアン・ツイストの2019年作『Jungle Run』(Strut)、ゴリラズの2020年作『Song Machine Season One』(Parlophone)、ダヴズの2020年作『The Universal Want』(EMI)

 

『There Is No End』参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、サンパ・ザ・グレートの2019年作『The Return』(Ninja Tune)、ラヴァ・ラ・ルーの2021年のEP『Butter-Fly』(Marathon Artists)、コリアタウン・オディティの2020年作『Little Dominiques Nosebleed』(Stones Throw)、ラロンジュ&ジェレマイア・ジェイの2019年作『Complicate Your Life With Violence』(Mello Music)、ダニー・ブラウンの2019年作『Uknowhatimsayin¿』(Warp)、マーロウの2020年作『Marlowe 2』(Mello Music)、スケプタの2019年作『Ignorance Is Bliss』(Boy Better Know)