私たちの日常の風景をすっかり変えてしまった、コロナ禍。それはまた、私たちの音楽の聴き方にも少なからず影響を及ぼしたと思います。以前好きだった音楽を受け付けなくなったり、あるいはそれまでスルーしていたような音楽に突如として心を奪われたり……。
そこでMikikiでは、ミュージシャンやレーベル関係者、レコード・ショップ関係者、ライブハウス関係者など音楽に関わって仕事をする人々に〈コロナ禍以降、愛聴している1曲〉を訊ねる新連載をスタート。その回答は一人ひとりのいまの心情を映し出すと同時に、災いに見舞われた人々に対して音楽がどのような意味を持つのか、そのヒントにもなるのではないでしょうか。 *Mikiki編集部
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松尾 潔(まつお きよし)
音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、東方神起、三代目J SOUL BROTHERS、JUJU等を成功に導く。これまで提供した楽曲のセールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞〈大賞〉(EXILE“Ti Amo”)など受賞歴多数。今春、音楽業界のリアルを描いた初小説「永遠の仮眠」(新潮社)を上梓した。
コロナ禍以降、特に愛聴している1曲は何ですか?
柴田まゆみ “白いページの中に”(78年)
子どもたちとふれあう時間が長くなると、自分が子どもの頃にどんな曲を聴いていたか考えることも増えた。父親が好きなジャズ、テレビから流れてくる日本の歌、このふたつがルーツであることはよくわかるが、じゃあ日本の歌って具体的には何だっけ、と。
小学校高学年ともなると歌謡曲を敬遠する感性が芽生え始めたけれど、すぐに洋楽の世界に向かったわけではない。その〈端境期〉にはYAMAHAブランドの日本語曲を浴びるほど聴いたものだ。ヤマハ提供による日曜昼のテレビ番組「コッキーポップ」も一時期は欠かさず観ていた。夜の歌番組とは違うラインナップが魅力で、そこでしか観ることができないアーティストの曲も多かった。これもそのひとつ。歴代ポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)入賞曲の中でいちばん好きかも。曲調も歌唱スタイルもカーペンターズそのものだが、今のぼくにはカーペンターズより刺さるし、沁みる。スクーターに例えるなら、ベスパよりスズキ・ジェンマに乗りたい気分……と言ってどれだけの人に伝わるかなぁ。
RELEASE INFORMATION
刊行日:2021年2月17日
版元:新潮社
品番:9784103538417
あらすじ
音楽プロデューサーの悟は、テレビドラマの主題歌制作に苦戦していた。この楽曲がヒットすれば、低迷中のシンガー・義人は大復活を遂げる。悟もすべてを賭けていた。しかしダメ出しを繰り返すドラマ・プロデューサーの多田羅は業界の常識を覆す提案を口にする。そんな折、日本は未曾有の危機に襲われる。社会的喪失の中、三人の運命の行方は――。