私たちの日常の風景をすっかり変えてしまった、コロナ禍。それはまた、私たちの音楽の聴き方にも少なからず影響を及ぼしたと思います。以前好きだった音楽を受け付けなくなったり、あるいはそれまでスルーしていたような音楽に突如として心を奪われたり……。

そこでMikikiでは、ミュージシャンやレーベル関係者、レコード・ショップ関係者、ライブハウス関係者など音楽に関わって仕事をする人々に〈コロナ禍以降、愛聴している1曲〉を訊ねる新連載をスタート。その回答は一人ひとりのいまの心情を映し出すと同時に、災いに見舞われた人々に対して音楽がどのような意味を持つのか、そのヒントにもなるのではないでしょうか。 *Mikiki編集部

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沖メイ

東京生まれ。バンド・ZA FEEDOのヴォーカル、作詞、作曲、アートワークを担当。2012年、ZA FEEDO結成後から作曲を始め、エレクトロニカ、民族音楽、クラシック、ジャズ、ロック、猫、インコなどから影響を受けた楽曲を制作。ZA FEEDOとしてシンガポールの野外フェスに招聘されるなど精力的に活動。2019年、ZA FEEDOの活動休止を機に本格的にソロ活動をスタート。2020年7月、ソロとして初めての作品『Half Way For Now』をリリース。同年12月から、〈サステナブル〉〈アップサイクル〉などの観点からライブ会場をメインとした空間装飾&演出をするプロジェクトをスタート。2021年4月、UR都市機構のプロジェクト〈さんかく問屋街アップロード〉のタイアップとして“レスタウロ”をリリース。Mikikiにて〈沖メイのサウンズ・オブ・クリーチャー〉を連載中。

 

コロナ禍以降、特に愛聴している1曲は何ですか?

手嶌葵 “さよならの夏 〜コクリコ坂から〜”(2011年作『コクリコ坂から歌集』ほか収録曲)

2020年、初めての緊急事態宣言が発令されてステイホームが始まった頃。
ソロで初めての台湾&国内ツアーを終えたばかりでしたが、ツアー終盤にはもう世間の空気は変わっていました。
宣言が連発されている昨今とは、心持ちも情勢もだいぶ違うときに聴いていた曲です。

当時の私は東京の端っこにある、のどかな景色の一軒家に住んでいました。
都心にはすっかり行かなくなり、行けば当たり前に仲間がいた場所が遠のき、人に会えない日々。
朝6時には目覚めて近所を散歩し、家でひたすら音楽を作っていました。

コロナ以前、2019年にドイツを旅したことをよく思い出していました。
10日間かけて電車でドイツをぐるっと一周して一番印象に残ったのはベルリン市内の小さな公園でした。
15時過ぎくらいになると街中の公園には仕事上がりの親と遊ぶ子供、一人で気ままに昼寝、読書など、プライベートを楽しむ人々の姿が目立ち、店の軒下でビールを飲む人もちらほら。
仕事と生活が区分けされ、家族や自分の時間を大切にする風景がすごく印象的でした。

そしてやってきた2020年、春。初めての宣言下。
私は、ドイツの公園と同じ風景を近所に流れる大きな川で目撃していました。
平日の昼間から親子が川で遊び、父と子がキャッチボールをし、中学生くらいの盛んな感じの女の子がお母さんと川に座り込んで語り合い、笑っている。
子供達はゲーム機ではなく、虫あみとか木の枝を持って走っている。
読書する人、パンツいっちょで音楽を聴きながら昼寝する人、各々好きな過ごし方をしている風景。

人々が思い思いに過ごす川沿いを自転車で進みながら、適当に曲を流していたイヤホンからこの曲が流れてきたとき、手嶌さんの声と、新しくも寂しげな日常と夕暮れの風景が本当にマッチしていて、風の香り、風景、そのとき考えていたことが私の中に刻印されてしまいました。

普段、変拍子とか脳みその筋肉がムキムキになるような曲ばかり聴いていた私は、
とってもセンチな気分に。

戻ることがなさそうな日常と新しい日々のことを想いながら、何かが心の中でゆっくりと変わっていきました。
急ぎ足で過ぎていた日常、忙しくがむしゃらに進んでいたものが一旦停止し、歩きながら道端の花を見つけたりする余裕があること。
以前の日常は懐かしいけれど、自分だけの時間とペースが生活に密着していく感覚はどこか気持ちの良いものでした。

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RELEASE INFORMATION

沖メイ 『レスタウロ』 FRIENDSHIP.(2021)

リリース日:2021年4月28日
フォーマット:デジタル
配信リンク:https://FRIENDSHIP.lnk.to/Restauro

TRACKLIST
1. レスタウロ