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 彼と共に「まめ夫」の音楽を支える屋台骨となっているのが、坂東が主宰するクリエイティヴ集団・Ensemble FOVEである。2014年から単発のプロジェクトを経て、2016年に設立。そのきっかけとなったのが、フィギュアスケートを題材にしたテレビアニメ「ユーリ!!! on ICE」ならびに、その音楽を生演奏する「ユーリ!!! on CONCERT」であった。FOVEはその後、〈SONAR-FIELD〉(5分ごとに観客が席を移動しながら聴く、アトラクション型公演)、〈TRANS〉(演奏家とサラウンドスピーカーに観客が囲まれる360度の音響体験)といった現代音楽の閉塞感を打ち破るようなオリジナル企画で、会場を訪れた人々の度肝を抜いた。映像の劇伴に、ライヴ……形態を問わず、FOVE発の音楽が刺激的でとにかく面白いのは何故なのか?

 「FOVEの活動で一番大事にしているのが〈面白い〉かどうかなんですよ。誰と一緒に、何をやれば楽しくなるのか、馬鹿みたいに聞こえるかもしれませんが、みんなで民主的に決めています。演奏する時にも、みんなが僕の書いた楽譜をただ弾くんじゃなくて、どうしたらもっと面白くなるのか、ひとりひとりが意見を出しながら決めていく方が、可能性は広がるんです」

 あらゆる音楽ジャンルで長らく(なんなら現在でも!)作曲というのは天賦の才能をもった個人による創作によるべき……という固定観念が強く支配してきたが、坂東は現代のヒット曲がコライト(co-write)で制作されたり、現代アートがチームによって生み出されていたりする例などを挙げながら、共同制作の意義を語ってくれた。そんな彼らが相乗効果で生み出すクリエイティヴィティを、肌で直接体感できるのが9月12日に彩の国さいたま芸術劇場で開かれるコンサート〈ZINGARO!!!〉だ。

 「僕らだけが話題になるんじゃなくて、クラシックというコミュニティーが盛り上がっていかないと、本当の意味で面白くならないなってずっと思っているんです。そういう意味でもクラシックの本拠地であるコンサートに持っていきたいという気持ちがやっぱり強いんです。クラシックに負うものが多いからこそ、クラシックに還元したいなとも思っています」

 生演奏に強い思い入れのある彼らがこの日に披露するのは、2019年11月にアルバムとしてCDや配信でリリースしたジンガロ(ジプシー)音楽のアルバム『ZINGARO!!!』に収録された楽曲が中心だ。「まめ夫」でワルツやタンゴ、シャンソンにジャズ……といった様々なジャンルが現代的な感覚でリフレッシュされたように、〈ジプシーヴァイオリン〉の名曲たちが生まれ変わっていくのは壮観という他ない。ソリストとしてフィーチャーされるのはFOVEのコアメンバーであるヴァイオリニストの尾池亜美。ロックスターたちのギターを思わせるようなエネルギーを放出し続ける尾池が中心となって、今度もまたEnsemble FOVEが想像を絶する音楽体験をもたらしてくれるに違いない。

 「去年5月に亀田誠治さん主催の日比谷音楽祭に出演するはずが中止となり、それからFOVEは1年以上ステージに上がってないので、今回のZINGAROは特別気合いの入ったものになると思います!」

 


PROFILE: 坂東祐大(Yuta Bandoh)
作曲家/音楽家。1991年生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科修士課程修了。様式を横断したハイブリッドな文脈操作、サンプリングなどを駆使し、多岐にわたって創作活動を行う。第25回芥川作曲賞受賞(2015年)2016年、Ensemble FOVE を創立。代表として気鋭のメンバーと共にジャンルの枠を拡張する、様々な新しいアートプロジェクトを展開している。新作『ドレミのうた』を4月にリリース。テレビドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の音楽を手がける。7月16日公開の細田守監督「竜とそばかすの姫」の音楽も担当。

 


Ensemble FOVE (Ensemble FOVE)
2016年設立。アートとしての新しい聴覚体験を追求する次世代型アンサンブル。これまでにオリジナルプロジェクトとして〈SONAR-FIELD〉(2018年春、2019年春再演)、〈TRANS〉(2018年秋)を開催。2019年秋、尾池亜美ソロによる『ZINGARO!!!』をFOVE RECORDSよりリリース。また米津玄師“海の幽霊”“馬と鹿”、宇多田ヒカル“Beautiful World (Da Capo Version)”へ参加したほか、テレビドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」をはじめ劇伴にも多数参加。

 


©2021スタジオ地図

映画「竜とそばかすの姫」
原作・脚本・監督:細田守
音楽監督/音楽:岩崎太整
音楽:ルドヴィグ・フォシェル/坂東祐大
声の出演:中村佳穂/成田凌/染谷将太/玉城ティナ/幾田りら
森山良子/清水ミチコ/坂本冬美/岩崎良美/中尾幸世
森川智之/宮野真守/島本須美/役所広司/他
配給:東宝(日本 2021年)
2021年7月16日(金)全国にて公開!
https://ryu-to-sobakasu-no-hime.jp/

 


LIVE INFORMATION
Ensemble FOVE『ZINGARO!!!』
2021年9月12日(日)埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
開演:15:00

出演:Ensemble FOVE
尾池亜美(ヴァイオリン)/多久潤一朗(フルート)/浅原由香*(オーボエ)/東 紗衣*(クラリネット)/中川ヒデ鷹(ファゴット)/上野耕平(サックス)/佐藤采香*(ユーフォニアム)/田村優弥*(チューバ)/大家一将(パーカッション)/池城菜香*(ハープ)/戸原直(ヴァイオリン)/町田匡(ヴァイオリン)/大光嘉理人*(ヴァイオリン)/山本佳輝*(ヴァイオリン)/三国レイチェル由依*(ヴィオラ)/對馬佳祐*(ヴィオラ)/小畠幸法(チェロ)/飯島哲蔵*(チェロ)/篠崎和紀(コントラバス)/地代所悠(コントラバス)/坂東祐大(編曲・企画)
*ゲスト・メンバー

■曲目
ラヴェル:ツィガーヌ
モンティ:チャールダーシュ ディニーク:ひばり ほか
※CDアルバム『ZINGARO!!!』収録曲より(予定)
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/91050/