天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週、〈SUPERSONIC〉について触れましたが、いよいろ第1弾のラインナップが発表されましたね。ヘッドライナーはゼッドとカイゴ。さらにアラン・ウォーカー、ニッキー・ロメロ、クリーン・バンディット、オーロラ、スティーヴ・アオキ、リハブ(R3HAB)、ディジタリズム、きゃりーぱみゅぱみゅ、フランク・ウォーカーが並んでいます」

田中亮太「かなりエレクトロニック・ミュージック寄り……と言っていいかはわかりませんが、ダンス・ミュージック色の強いラインナップですよね。派手なメンツ! コロナ禍以降に開催される初の海外アーティスト中心のイベントですし、とにかく成功を祈っています! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

Gang Of Youths “the angel of 8th ave.”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はギャング・オブ・ユーズの“the angel of 8th ave.”! オーストラリア、シドニー出身の人気オルナタティヴ・ロック・バンドによる新曲です。2011年に結成された彼らは、これまでに2作のアルバムをリリース。ダイナミックなバンド・サウンドとアンセミックなメロディー、さらに高揚感にあふれたライブ・パフォーマンスで、本国では圧倒的な人気を誇っています」

田中「フロントマン、デヴィッド・ルオーペペ(David Le’aupepe)のカリズマティックでセクシーな立ち居振る舞いは、U2のボノを思わせますよね。実際、過去のインタビューでU2からの影響を公言していました。あと、ルオーペペはサモア系ユダヤ人なのですが、バンドには韓国系アメリカ人やフィジー出身のメンバーもいます。民族的な多様性を持っていることも彼らの魅力だし、オセアニア地域で幅広いファン層を築いている理由のひとつなんでしょうね」

天野「正直に言って、僕は彼らの作品をちゃんと聴いたことがなかったのですが、この“the angel of 8th ave.”にはノックアウトされました。バンドにとっても、ひとつ上のステップに上がった快作なんじゃないでしょうか。メリハリの効いたサウンド・プロダクションが素晴らしいですよね。イントロの、輪郭がくっきりとした抜けのいいドラム・サウンドを聴いて親指を立てました。アコースティック・ギターとエレクトリック・ギターのアンサンブルも気持ちがいいし、とにかく迷いを一切感じない、確信に満ちた音んですよね。デイヴのヴォーカルも最高!」

田中「持ち前の、ブルース・スプリングスティーンゆずりの詩情にあふれたリリックと、普段の語りがそのままメロディーになったかのような自然なソングライティングも健在。ルオーペペは、この曲のテーマは〈恋に落ち、新しい街で新しい生活をともにスタートすることについて〉だと述べています。ABCニュースのインタビューによると、実際、前作を発表して以降の4年間でいまの妻と出会い、新しい住居に引っ越したんだそうです。この曲のサウンドはこれまでのギャング・オブ・ユーズ節と呼べるものですが、ニュー・アルバムの他の曲ではかなり新しいことに挑戦しているみたい。リリース日などはまだ発表されていないですが、楽しみですね!」

 

Diana Ross “Thank You”

天野「2曲目は、ダイアナ・ロスの新曲“Thank You”です。これ、とても感動的な曲ですよね。曲名からして、泣かせにきているというか……」

田中「シュープリームズのリード・シンガーとして60年代にデビューして以来、ポップ・ミュージック史に刻まれる名曲の数々を歌ってきたダイアナ・ロスについては、説明不要ですよね。彼女が、99年の『Every Day Is A New Day』から実に22年ぶりとなるオリジナル曲で構成されたスタジオ・アルバム『Thank You』を9月10日(金)にリリース。ジャック・アントノフ(Jack Antonoff)、グレゴリー・ポーターなどを手がけるトロイ・ミラー(Troy Miller)、そして名うてのプロダクション・コレクティヴであるトライアングル・パーク(Triangle Park)が共作&プロデュース、ロスの自宅スタジオで主に制作されたアルバムとのことです」

天野「まさに、現代アメリカン・ポップの総力戦というか……。これは同作の表題曲で、プロデューサーはミラー。オーセンティックでゴージャスでダンサブルなファンク・アレンジに安心感があって、見事です。とにかく感動的なのは狂おしいメロディーで、サポーターや神に〈ありがとう〉と繰り返すリリックが泣ける。〈歌うことについて、私は美しい執念のようなものを持っている。今回の曲は、私からあなたへ感謝と愛を込めた贈り物。この素晴らしい音楽をこの時期に録音できて、とても嬉しかった。愛についてのこのアルバムをすべてのリスナーに捧げたい。私の声を聴くと、私の心が『愛こそ道を切り拓く』と言っているのが聴こえると思う〉という、アルバムについてのコメントにも感涙です」

田中「浮き沈みのあるキャリアを歩んできたダイアナ・ロスの音楽人生、そのすべてが詰まったアルバムになっていそうですね。楽しみです」

 

Tyler, The Creator “LUMBERJACK”

天野「タイラー・ザ・クリエイターのニュー・シングル“LUMBERJACK”。2020年から散発的に新曲を発表していて、今年2月にはコカ・コーラのCMソング“Tell Me How”をリリースして話題になっていましたね。今回は、サプライズ・リリースに近い形で来週6月25日(金)に発表される新作『CALL ME IF YOU GET LOST』からのシングルです」

田中「大ヒット作『IGOR』(2019年)でポップスターに上り詰めたタイラーが、今度はドロドロとしたダークなヒップホップ・ナンバーでシーンに帰還しました。〈クラシック・タイラー〉と呼んでもいいような、初期のタイラーを思わせるノイジーで不穏なサウンドですね」

天野「ちょっと懐かしい感じ。プロデューサーはタイラー自身です。おなじみDJドラマのプロデューサー・タグが引用されていて、タイラーの盟友でオッド・フューチャーの一員であるジャスパー・ドルフィン(Jasper Dolphin)がアド・リブで参加しています。グラミー受賞で成功を勝ち得たことをラップするイントロに始まり、全体的にセルフ・ボースティングが中心。〈俺を木こり(lumberjack)って呼べよ、争い好きな男だからな〉と〈would〉と〈wood〉をかけたラインが秀逸ですね。この曲を聴いて、新作がすごく楽しみになりました」

 

Little Simz “Rollin Stone”

天野「リトル・シムズは、出す曲出す曲すごいですね。4月に〈SOTW〉に選んだ“Introvert”もそうですし、連載ではスルーしてしまいましたが、クレオ・ソル(Cleo Sol)をフィーチャーした“Woman”も最高でした。そして、9月3日(金)にリリースする『Sometimes I Might Be Introvert』からの3曲目のシングルが、この“Rollin Stone”です」

田中「プロデューサーは、ジャクワブ(Jakwob)ことジェイムズ・エドワード・ジェイコブ(James Edward Jacob)。ダブステップをベースにしたベース・ヘヴィーなダンス・ミュージックの作り手で、リズ・アーメッド(Riz Ahmed)やオーロラ(AURORA)らの楽曲のプロデュースでも知られています。リトル・シムズとは2015年にEP『Time Capsule』を共作していますね」

天野「もう一人は、UKシーンのキー・パーソンであるインフロー(Inflo)。リトル・シムズの出世作『GREY Area』(2019年)でも活躍していて、話題のバンド、ソー(SAULT)のメンバーでもあります。ちなみに、ソーは新作『NINE』を99日間限定でリリースするそうですね。すごいリリース方法だな……」

田中「そんな2人がプロデュースした“Rollin Stone”は、前半はダブステップやUKベースを思わせるヘヴィーでダークなビートで、リトル・シムズらしいアグレッシヴで歯切れのいい高速ラップが印象的です。しかし、1分24秒あたりでいきなりスロウなサザン・ヒップホップ調へとビート・スイッチして、ムードががらっと変化。リリックには〈渋谷〉〈寿司〉〈ヘッディ(・ワン)〉〈グッチ〉〈サンパウロ〉などなど、さまざまな固有名詞が登場します。〈転がる石〉である彼女が、いかに努力と苦労をして頂点にまで上り詰めたかを語っている内容だとか」

 

Duma “Cannis”

天野「デュマは日本のメディアで取り上げられることはほとんどないのですが、2020年、大いに話題になったアーティストです。というのも、アフリカ、ウガンダの首都カンパラの有名レーベル、ニゲ・ニゲ・テープス(Nyege Nyege Tapes)からリリースしたデビュー・アルバム『Duma』が、カルトな支持を集めたからですね。インダストリアルなパワー・エレクトロニクスとブラック・メタルが悪魔合体したような音楽は、世界のリスナーの度肝を抜きました。不穏なカヴァー・アートも、一度見たら忘れらないものでしたね」

田中「デュマはケニアのナイロビのアンダーグラウンド・シーンで活動していたマーティン・カンジャ(Martin Khanja)とサム・カルグ(Sam Karugu)によるデュオです。今回、なんとアメリカのサブ・ポップからこの“Cannis”と“Mbukinya”という2曲をリリース。この展開はびっくりですね」

天野「驚きました。ただ、サブ・ポップは最近、実験的なリリースが多いですよね。で、この“Cannis”は、ニゲ・ニゲ・テープスが中心になっているタンザニアの音楽ジャンル、シンゲリ(Singeli)を思わせるような速いBPMとせわしないビートがかなりアグレッシヴで強烈。そこに乗るエクストリームなヴォーカルも含めて、アルバムより過激に進化した感じ。う~ん。これはすごい。今後の展開にも期待しています」

 

Meet Me @ The Altar “Feel A Thing”

天野「今週最後の曲は、パンク・シーンの注目バンド、ミート・ミー・アット・ジ・オルターの新曲“Feel A Thing”です。彼女たちのことは、当連載の〈2021年期待の新人洋楽アーティスト20〉で紹介しましたね。先日、デビューEP『Model Citizen』を8月13日(金)にリリースすると発表しました。この曲は、そこからのリード・シングルです」

田中「イントロの8ビット・サウンドにちょっと驚きましたが、それ以降はザクザクしたギター・リフとヘドバン必至のドラムが痛快な、まさに王道のポップ・パンク。思春期ならではの不安や葛藤をストレートに歌ったリリックも魅力的です。先日、Brooklyn Veganに〈あなたが知るべき2021年のポップ・パンク・リヴァイバル10曲〉という記事が載っていて、オリヴィア・ロドリゴの”good 4 u“なんかと合わせて彼女たちの”Hit Like A Girl“も挙げられていました。リヴァイヴァルの潮流の一翼を担っている、という点でもミート・ミー・アット・ジ・オルターには注目しておきたいですね」