ブリティッシュ・インヴェイジョンが音楽市場を席巻した60年前のアメリカ。一方でアフリカ系アメリカ人にとっては公民権運動の最中で、公民権法が1964年に制定されたものの血の日曜日事件が起こったり、マルコムXが暗殺されたりと激動の時代だった。同時にブラックミュージックシーンではジョン・コルトレーン『A Love Supreme』、アルバート・アイラー『Spiritual Unity』、ニーナ・シモン『Pastel Blues』、オーティス・レディング『Otis Blue: Otis Redding Sings Soul』といった象徴的な名盤が多数リリースされている。本稿では、そんな中ヒットを連発していた1965年のモータウンのアルバムを紹介しよう。掲載は概ねリリース順にしている。
1962年からヒットを飛ばしはじめたタムラ/モータウンの看板シンガーの1人、マーヴィン・ゲイの5thアルバム。表題曲はホーランド=ドジャー=ホーランド作で、全米6位に達して当時の彼にとって最大のヒットになった(ジェームス・テイラーがカバーしたことでも知られている)。“You’re A Wonderful One”“Try It Baby”“Baby Don’t You Do It”と売れたシングルを収めつつ、自ら作曲に参加した2曲も歌うなど後年の萌芽が見える作品だ。ザ・スピナーズ、ザ・シュープリームス、ザ・テンプテーションズ、マーサ&ザ・ヴァンデラスらによる豪華なバッキングボーカルも聴きどころ。
1953年に結成され、リーヴァイ・スタッブス、アブドゥル・“デューク”・ファキール、レナルド・“オービー”・ベンソン、ローレンス・ペイトンの4人で活動していたフォー・トップスの1stアルバム。ザ・シュープリームスのレコーディングのバッキングなども経験しながら、H-D-H製のシングル“Baby I Need Your Loving”で1964年にデビュー。全米11位にのぼり詰めた同曲を1曲目に置いたのが本作だ。“Without The One You Love (Life’s Not Worth While)”“Ask The Lonely”とシングルを前半に固めているのがモータウンらしい。前者はお得意のビートを鳴らすザ・ファンク・ブラザーズによる軽快な演奏、後者は優雅なストリングスとジ・アンダンテズのコーラスがバックアップした美麗さで聴かせる。なんといってもリードシンガー、リーヴァイの深く太いバリトンボイスが圧倒的な存在感で、濃密でブルージーなソウルフルネスが全編に横溢。中国音階を用いた“Tea House In China Town”のようなアイデア曲も面白い。11曲中6曲がH-D-Hによるもの。
前年のシングル“Where Did Our Love Go”が大ヒットして以来、“Baby Love”に“Stop! In The Name Of Love”にと全米1位の曲を連発し、スター街道を歩みはじめたザ・シュープリームスの4thアルバム。華やかなシングルを発表していたわりには地味なアルバムで、白人層を狙ったのであろう、タイトルにあるようにカントリーソングを歌った作品。とはいえ大半はモータウンのクラレンス・ポールが書いた曲で、バックの演奏はジャズやR&B、ブルース風で、カントリー要素はそこまで感じられない(スティールギターやバンジョーを使用しているくらい?)。クラレンスとスティーヴィー・ワンダーが書いた“Baby Doll”に至っては、ザ・シュープリームスらしい華麗なポップソングのテンポを落としたバージョンといった感じだ。コーラスが印象的な“Sunset”もいい。


