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ハイスクール・バンドのノリこそがTOTOの魅力

――膨大なディスコグラフィーを持つTOTOですが、金澤さんのフェイヴァリット作品はどのあたりでしょう?

「やっぱり1枚目と4枚目の『TOTO IV~聖なる剣』(82年)が好きですね。もっと範囲を広げるなら、ジェフ・ポーカロが存命で、特に3代目ヴォーカリストとして入ったジョセフ・ウィリアムスがいったん離脱するまで、アルバムでいうと『The Seventh One(ザ・セブンス・ワン 〜第7の剣~)』(88年)までがやっぱり特別な存在かなと思います」

82年作『TOTO IV~聖なる剣』収録曲“Rosanna”。ビルボードのホット100で5週間連続2位を獲得。グラミー賞最優秀レコード賞に輝いた
 

――もしかすると、ヴォーカリストの変遷をはじめ、メンバーの入れ替わりの激しさも新規ファンにとってはTOTOの全体像が見えにくい一因かもしれないですよね。けど、その都度、各々のメンバーが完成度の高いサウンドを提供しているのを聴くと、さすが屈強のプロ集団だなと感じます。

「そうそう。けど、その一方で忘れちゃいけないのは、彼らはプロ中のプロであると同時に、ハイスクール・バンドのノリがずっとあるんですよ。むしろその部分こそ彼らの魅力の肝かもしれない。ジェフ・ポーカロとデヴィッド・ペイチを中心として若い頃からつるんでいた仲間同士が発展したバンドなわけで。ソニー&シェールのバックをやったり、ジム・ケルトナーに気に入られたり、それがきっかけでボズ・スキャッグスのレコーディングに加わったり、華々しいキャリアはあるにせよ、基本的にLAのシーンの若者が集まったローカル・バンドという性格が強いんですね。

スティーヴ・ルカサーにしても、ジェフの弟のスティーヴ・ポーカロの同級生だったわけだし。ルカサーは19歳の頃からずっとバンドにいるわけで、ほとんどファミリーというか、人生そのものみたいになっている。だから、ただ技術に長けたプレイヤーがたまたま集まったというわけじゃなくて、サウンドからもバンドならではの絆の強さのようなものが聴きとれますよね」

※ 初代キーボード担当。86年に脱退するが、その後もレコーディングを中心にバンドに関わり続け、2010年からは正式にメンバーとして一時復帰した
 

――〈ネイバーフッド・ボーイズ感〉というか……。そこにこそ、バンド的な熱量が篭もる、と。

「はい。そういう側面を認識していないと、度重なる活動休止や再始動の本質も理解できないんじゃないかな。ビジネスライクな面がないとは言えないけど、それよりも、メンバー同士のバンド的な繋がりが強いのか弱いのかという感情的な面にすごく左右されている気がしますね。現在のTOTOを実質的に仕切っているのはルカサーだけど、彼は特にそういうバンドの人間関係をモチヴェーション上の主な要素と考えていると思う。そういうストレートさというか、策略のない感じもまた魅力ではありますよね」

 

名曲を連発していた初期の感覚を取り戻しつつある

――他に、こういう点こそいま聴くべきだというポイントはありますか?

「これも特に初期から中期にかけてですが、やっぱり楽曲の良さじゃないでしょうか。さっき言ったように、対応できるジャンルが幅広いから、楽曲のヴァリエーションも豊富。一曲一曲を聴いてみても本当に巧みで、良く出来ている。近年突如リヴァイヴァル・ヒットした“Africa”にしても、あのキャッチーなリフからグッと惹き込まれざるを得ないですよね」

※ 82年のヒット曲。ビルボードのホット100で1位を獲得。2018年、ロック・バンドのウィーザーによるカヴァーやファンによる動画投稿でリヴァイヴァル・ヒットした
 
82年作『TOTO IV~聖なる剣』収録曲“Africa”
 

――“Africa”は以前からヒップホップのサンプリング・ネタになったり、後年世代からも評価が高いですよね。もちろん“Rosanna”とか“Georgy Porgy”(78年)もあらためて聴くと本当にキャッチーで良く出来ているなあ、と。

「それに関連して言うと、最近のTOTOは、名曲を連発していた初期の感覚をライブ・バンドとして取り戻しているように思いますね。実際に、一時期はデヴィッド・ハンゲイトやスティーヴ・ポーカロも戻ってきたし。おそらくこれはジョセフ・ウィリアムスの貢献が大きいんじゃないかと思うんです。彼はもともと、TOTOの大ファンとしてLAのシーンで活動していただけあって、TOTO初期におけるデヴィッド・ペイチの貢献度や、その音楽性の魅力を隅々まで理解しているんだと思います」

――彼は現在のTOTOをある意味で俯瞰的に捉えて、その魅力を引き出す役を買って出ているようにも見えますよね。

「だからこそルカサーもバンドの中で立ち回りやすくなったというかね。一時は、ジョセフは自身が参加するユニットのライブでTOTOの曲を披露して、ルカサーに〈勝手にTOTOの曲をやるな〉と叱られたりもしていたから、そう考えるとすごくルカサーに尽くしてきたんだろうなあ、と感慨が湧いて嬉しくなってしまう(笑)。ジョセフは僕と誕生日が近くて、どうしても親近感を覚えてしまうんですよね(笑)。

今回商品化された去年の配信ライブをみて、〈なんだかTOTOのトリビュート・バンドみたい〉っていうファンもいたけど、オリジナル・ラインナップとの違いをいちばん理解しているのはジョセフ自身だと思うんですよ。だからこそ過去の楽曲を大切にして、パフォーマンスとして完成度の高いステージを目指すんだという姿勢を感じますね」