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パンデミックを超え、心と体と魂を揺らす。今年のUKジャズの注目作。

 エマ・ジーン・サックレイは、ロンドンを拠点に活躍するトランペット中心のマルチ奏者/プロデューサー/ヴォーカリスト/DJ。地元ヨークシャーのブラス・バンド・シーンで培った楽器技術と、ダンスフロアのグルーヴ感覚を併せ持つ。今は音源は全てレコードで聴くというリスニング環境下でアナログ感覚を忘れることなく、ヌバイア・ガルシア、エズラ・コレクティブと共演、さらにロンドン交響楽団と共同作業し、ジャイルス・ピーターソンも絶賛する才媛だ。

EMMA-JEAN THACKRAY 『Yellow』 Movement/BEAT(2021)

 『Yellow』は、〈心と体と魂を揺らす音楽〉をモットーに作られた、Warpとも提携する自己レーベル〈Movementt〉からのデビュー・アルバムになる。クラブ・ミュージックのヴァイブスと、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、フェラ・クティ、P-Funk、サン・ラー、アリス・コルトレーンを通過した、いわゆるUKジャズの系譜を強く感じさせるが、本人の歌唱、楽器による多重録音という手作りの感じを残しつつも、黒人教会色を感じさせるコーラスワーク、ストリングス、ホーンの巧みなアレンジ能力が共存し、アルバム全体を通しても全く飽きない。スピリチュアル・ジャズの宇宙感や70年代黒人音楽の高揚感に包摂されながら、良質なベッドルーム・ミュージック的なものの持つ手作り感と編集感覚も味わえる、なんとも類稀な音楽経験が新鮮だ。

 何より心地よいグルーヴは最も根幹にあり、自然と体は揺さぶられる。独特のセンスはアルバム中の1曲“Say Something”のMVにも生かされており、70年代のSFディストピア映画「2300年未来への旅」のオマージュの中で、カート・コバーンを模した本人が登場する。どこか時代を超越した感覚が生じるが、彼女曰く異次元に飛べるような〈サイケデリック〉な方向性が、視覚的にも垣間見えている。ポスト・パンデミックには、人とのリアルな関係で養われたミュージシャンシップと、黒人音楽の連綿とした歴史を参照する次世代編集センスがフロアを高揚させるだろう。今年の要注目作品。