田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。連休があったので、約2週間ぶりの更新です。また、これまでは毎週金曜日に掲載していましたが、今週から月曜日に変更します。というのも、金曜日はMikikiの会議があって忙しいから……」
天野龍太郎「そうじゃなくて、金曜日は新曲や新作のリリースが多いわけですけど、それらを吟味できないので、即時的に取り上げられないからです。金曜日にリリースされる話題曲をちゃんと紹介したいとなると、月曜日に連載を更新するのがベストなんです」
田中「というわけで、今後は月曜日にチェックをよろしくお願いします! と、前置きが長くなりましたが、シーンの話題も振り返っておきましょう。またも訃報が届きました。元スリップノットのジョーイ・ジョーディソン、そしてZZトップのダスティ・ヒルという2人の偉大な音楽家が亡くなりました。ここ最近、また亡くなるミュージシャンが多いですね……」
天野「僕はスリップノット直撃世代なので、ジョーイの死はこたえましたね。バンドがアップしたトリビュート・ビデオを観て、泣いてしまいました……。RIP。ダスティ・ヒルが亡くなったことについては、キッスのポール・スタンレーやオジー・オズボーンなど、多くのレジェンドたちが追悼のコメントを発表。フー・ファイターズはライブでZZトップの“La Grange”(74年)を演奏するなど、トリビュートをやったようですね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」
Silk Sonic “Skate”
Song Of The Week
天野「今週の一曲といったらこれですよね! 〈SOTW〉はブルーノ・マーズ&アンダーソン・パークのユニット、シルク・ソニックの“Skate”です」
田中「今年を代表する大ヒット曲で、僕たちの〈2021年上半期ベスト・ソング20〉にも選んだデビュー・シングル“Leave The Door Open”のリリースから5か月。ようやく届けれらたセカンド・シングルが、この“Skate”です。だいぶ焦らしましたね」
天野「どんどんシングルがリリースされるのかと思いきや、けっこう待たされました。まさに待望です。そして、真夏にぴったりのソウル・ナンバー! コロナ禍でなければ、夏フェスで聴きたかった……」
田中「ストリングス、エレクトリック・シタール、コンガ、軽快で爽快なカッティング・ギターと、70年代初頭のソウル・ミュージックを完全に再現したぬかりないアレンジです。そして、あいかわらず2人のヴォーカルが見事ですね」
天野「『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の劇中で流れていても違和感がない(笑)。今回もミュージック・ビデオが最高で、冒頭でスケートをする女の子のお尻を見て〈うはは〉って感じでコンガを叩くブルーノ・マーズの表情に大笑いしてしまいました。2人の芸人っぷり、愛せますね。次のシングルは、アイズレー・ブラザーズっぽいシンセサイザーを使った曲か、強烈なファンクでくるんじゃないかと予想しておきます(笑)」
Turnstile “BLACKOUT”
田中「続いて、ターンスタイルの“BLACKOUT”! パワフルでソリッドで破壊力抜群、まさに最強かつ王道のハードコア・パンクです。めちゃくちゃかっこいい! これはヤバい!!」
天野「何も言っていないに等しいじゃないですか……。語彙力ゼロってやつですね。僕は、音楽を表現するのに〈破壊力〉〈攻撃力〉とかそういう言葉を使うのは絶対反対。っていうか、〈王道のハードコア・パンク〉なんて言っていましたけど、メタルの要素も色濃いですし、むしろオーセンティックなスタイルをアップデートしようとするバンドの姿勢が表れた、先鋭的でエッジ―な曲だと思います。特に、随所で効果的に挿入されているパーカッションがめちゃくちゃフレッシュで、ダンサブルとさえ形容できそうです」
田中「たしかに、中盤のジャキジャキとしたギター・リフと躍動的な打楽器のコンビネーションは、まるでTHE MAD CAPSULE MARKETSとLCDサウンドシステムが異種格闘技戦を行ったかのようですね!」
天野「たとえが古すぎ(苦笑)! ターンスタイルは、この曲や先日紹介したブラッド・オレンジをフィーチャーした“ALIEN LOVE CALL”を含む新作『GLOW ON』を8月27日(金)にリリースします。とんでもない作品になっていそうですね。なお、彼らは9月から〈Grey Day Tour 2021〉ツアーで、スロウタイやスーサイド・ボーイズ、チーフ・キーフらと全米を回るのだとか。対バンの組み合わせのヤバさに彼ららしいセンスが表れていますね!」
Dreamcatcher (드림캐쳐) “BEcause”
天野「次は、Mikikiに初登場のDreamcatcherの新曲“BEcause”。Dreamcatcherは7人組のK-Popグループで、デビューは2014年にさかのぼります。もともとはMINXというグループでしたが、2016年に改名して7人体制に。僕は、恥ずかしながら、今回初めて彼女たちのことを知ったのですが、意外にキャリアが長いんですよね。ファンのみなさんには〈いまさらかよ〉とツッコまれるかもしれませんが……」
田中「メンバーは、ジユ(JiU)、スア(SuA)、シヨン(Siyeon)、ハンドン(Handong)、ユヒョン(Yoohyeon)、ダミ(Dami)、ガヒョン(Gahyeon)です。ハンドンだけ中国出身で、あとの6人は韓国出身。初期のヒット・シングル“Fly High”(2017年)や“Chase Me”(2018年)などがまさにそうなのですが、エレクトロ・ポップ/EDMを中心に、ロックやメタルを融合させた音楽性が特徴なんですよね。〈こんなグループもいたんだ!〉とK-Popシーンの多様さに驚きました」
天野「Dreamcatcherの曲にはJ-Pop/J-Rockからの影響を強く感じますし、BABYMETALファンにも聴いてもらいたいですね。この“BEcause”は7月30日にリリースされたミニ・アルバム『[Summer Holiday]』からのシングルで、前半はエレクトロ・ポップ調なのですが、サビの後半でいきなりメタリックなギターが入ってきて、その後、さらにドラムンベースのビートがなだれ込んでくるんです。最初に聴いたとき、衝撃的すぎて、ぜひ紹介したいなと思いました。ちなみに『[Summer Holiday]』は、曲によってさまざまなアプローチをしていて、シティ・ポップっぽい“Alldaylong”が入っているなどかなり多彩。Dreamcatcherにはぜひ注目してほしいですね」
Billie Eilish “Happier Than Ever”
天野「先週リリースされたアルバムのなかでも最大の話題作だったのが、ビリー・アイリッシュの『Happier Than Ever』ですよね。何度か聴きましたが、かなりすごい作品だと思いました。前作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(2019年)には物足りなさを感じていたので、ついにアルバム・アーティストとしてのビリーが覚醒したように感じています」
田中「実際、海外の批評は絶賛が多いですね。この“Happier Than Ever”は、アルバムの15曲目、ラストから2曲目に収められているタイトル・トラックです。アコースティック・ギターとビリーの歌だけの静謐な前半から、急転直下でヘヴィーに歪んだギターやドラムが音像を支配する後半へ。ドラマティックな構成です。歌い上げるヴォーカルやシャウトがいままでのビリーにはないものだったので、かなり意外ですね」
天野「僕は、この曲にフィービー・ブリジャーズの“I Know The End”(2020年)に近いものを強く感じました。ミュージック・ビデオでは、ビリーが雨に打たれながら歌っていますね。〈私を一人にして〉と歌う苦悩が滲んだリリックや〈いままででいちばん幸せ〉という皮肉っぽいタイトルは、かなり痛ましい……。最近のビリーを見ていると、ちょっと心配になります。ただ、苦しんでいるからこそ優れたアートを作っているようにも思えて、アーティストの業のようなものも感じるんです。あまり苦しまないでほしいとは思うものの、この曲が彼女とリスナーにとってのカタルシスになっているように思いました。つまり、苦しみを吐き出している曲に感じるんですね。この曲とアルバムを聴いて、ビリーが次にどんな作品を作るのかが楽しみになりました」
Water From Your Eyes “Track Five”
田中「レイチェル・ブラウン(Rachel Brown)とネイト・エイモス(Nate Amos)からなる米NYの2人組、ウォーター・フロム・ユア・アイズ。2016年頃から活動する彼らは、なかなか多作で、EPサイズの作品をいっぱい出しています。この“Track Five”を含むセカンド・アルバム『Structure』は、8月27日(金)にリリースが予定されています。ちなみにその前のアルバムは、『Somebody Else’s Song』(2019年)です。そして今年の1月にリリースした、ティアーズ・フォー・フィアーズやカーリー・レイ・ジェプセンの曲を扱ったカヴァー・アルバムは『Somebody Else’s Songs』。紛らわしいのでご注意ください!」
天野「ややこしいタイトルをつけないでほしい(笑)。それにしても、この“Track Five”はおもしろい曲ですね。インダストリアルな質感のエレクトロニック・ドラムやブリブリのアシッド・ベースは80年代っぽいのですが、ブラウンの憂いある歌唱やノイジーなエフェクトはイマっぽい。右チャンネルでふわーんと鳴っているシンセはニューエイジっぽいですし、不思議なバランスで成り立っているなと」
田中「〈結成時の彼らはニュー・オーダーのオマージュ・バンドを目指していた〉そうで、エレクトロ・ポップ志向が強いのかと思いきや、新作からの他のリード・シングルや過去の曲はアノラックやエクスペリメンタル・ポップの要素が強くて、なかなかに謎ですよね(笑)。なんだか気になるバンドです」
Maxo Kream “Local Joker”
天野「今週最後の曲は、マクソ・クリームの“Local Joker”です。マクソ・クリームのことは以前から紹介したかったのですが、なかなか機会がなくて、今回ようやく取り上げることができました」
田中「テキサス州ヒューストンというヒップホップの聖地で90年に生まれたラッパー、マクソ・クリームことエメクワネム・オググア・ビオサー・Jr.(Emekwanem Ogugua Biosah Jr.)。2011年に発表したケンドリック・ラマー“Rigamortus”のビート・ジャッキングで注目され、その後はチーフ・キーフにフックアップされたり、ミックステープ『#Maxo187』(2015年)が高く評価されたりと、順調にキャリアを積んできました」
天野「ミックステープで知られたラッパーで、いまだに〈知る人ぞ知る〉という感じではありますが、ようやく本格的にブレイクしたのはデビュー・アルバム『Punken』(2018年)と、それに続くRCAからのメジャー・デビュー作『Brandon Banks』(2019年)でした。特にトラヴィス・スコットやメーガン・ザ・スタリオン、スクールボーイ・Qなどが参加した『Brandon Banks』は、サザン・ヒップホップのマナーとマクソのリアルなストーリーテリングが絡み合った傑作。〈Brandon Banks〉というのはマクソの父親の犯罪者としての別名で、父のせいでマクソと母親は苦しみ、彼はギャングとして生きるしかなかったそうなんです。マクソはヒューストンのなかでも特に貧しいアリーフ育ちで、そういった出自やストリート・ライフをラップしているんですね」
田中「そんなマクソの、ひさびさのソロ・シングルがこの“Local Joker”です。ビートはトラップとブーンバップの中間のような作りで、埃っぽい質感がかっこいい。プロデューサーは、同じテキサスのカル・バンクス(Kal Banx)とエヴェレットのマリオ・ルチアーノ(Mario Luciano)です」
天野「〈俺はローカル・ジョーカー(地元から出ない野心のない者)じゃない〉と自分の力を誇示する物騒なリリックですが、〈テキサス、ヒューストン、俺がレップしているもの〉とフッドの誇りを歌い込んでいるのがマクソらしい。この曲は次のアルバムからのシングルと見られているので、新作に期待したいところですね」
