焦燥感と憂鬱が漂う日本においても『Take The Sadness Out Of Saturday Night』はリアルに響く
本作と同じように〈郊外〉をテーマにしたアーケイド・ファイアのアルバム『The Suburbs』(2010年)は、ヒューストン近郊のウッドランズが舞台だった。度々ラスヴェガスをテーマにして曲を書いてきたキラーズのブランドン・フラワーズも、アーケイド・ファイアと同様に、ストーリーテラー=スプリングスティーンの強い影響下にある。〈シティ〉とは異なる郊外の現実を描いたUSロックの系譜――たとえばスプリングスティーンがアメリカン・ドリームの終焉に向き合った『Nebraska』のシリアスさは、いまだ繁栄の途上にあった80年代前半の日本人にとっていまひとつピンと来ないところがあった。
しかし、それも昔の話。地方都市の商店街でシャッター街化が日増しに進み、いまや都心にも衰退の兆しが見え始めた現在の日本で聴く『Take The Sadness Out Of Saturday Night』のリアリズムは、まったく他人事ではない。焦燥と慢性的な憂鬱さ、〈何を信じたらいいのか〉という迷いが率直に歌われるこのアルバムは、豊かさのピークを過ぎたと知りながら日々をやりすごしている、2021年の我々を映す鏡のようでもある。
小器用なポップ職人として見られがちだったジャック・アントノフが、強めに趣味性を打ち出す工房のように見られていたブリーチャーズのあり方も、本作ではっきりと変容したのではないか。強固な意志に基づいてそうなったわけでもなく、身辺の変化に身を委ねた結果、密度の濃い私小説的なアルバムを生み出してしまった点も非常にジャックらしい。ボス直系のニュージャージー・サウンドに新たな息吹を与えるという難題をやってのけたのは、意外にもマチズモとは縁遠いナイーヴな男であった。

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プレイリストの配信リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Bleachers_JackAntonoffMK