田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。8月9日は振替休日だったので、今週は火曜日の更新です。カニエ・ウェストの新作『Donda』は、結局先週もリリースされませんでしたね!」

天野龍太郎「カニエは〈出す〉って言っても出さないんですよ。そんなことはもうファンにとっては常識だし、慣れっこです。『Donda』を巡る事情は1年前からばっちり追っているので、ここで言うべきことは何もありません(笑)」

田中「現時点では〈8月15日(日)にリリースされるのでは?〉と予想されていますが、果たしてどうなるのか。期待せずに待ちましょう!」

天野「この一週間のトピックでは、またも残念なニュースがありましたね。デトロイト・ハウス/テクノレジェンダリーなDJ/プロデューサーであるK・ハンド(K-Hand)、そしてシカゴ・ハウスの大御所ポール・ジョンソン(Paul Johnson)というダンス・ミュージック・シーンにおける2人の偉大な音楽家の訃報が届けられました。ご冥福をお祈りします。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

The Weeknd “Take My Breath”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉はこれしかないでしょう! ウィークエンドの新曲“Take My Breath”をチョイスしました。きたるニュー・アルバムからの最初のリード・シングルとされていて、大変な話題曲ですね」

天野前作『After Hours』(2020年)は特大ヒット・アルバムで、ポップ・シーンの80年代リヴァイヴァルを加速させた作品でしたよね。デュア・リパやコールドプレイなんかの音楽性に少なからぬ影響を与えたと思いますし、“Blinding Lights”をパクった曲がJ-Popシーンなどで量産されるという悪影響もありました(苦笑)。もちろん、ウィークエンドがついに世界最大のポップ・アイコンにのぼり詰めることになった作品で、彼のキャリアにおける重要なアルバムでもあります」

田中「というわけで、そんな彼の新曲ともなればものすごく注目を集めるわけですけど、この“Take My Breath”は期待を裏切らない一曲ではないでしょうか。『After Hours』の収録曲でも最大の人気曲になった“Blinding Lights”のジョルジオ・モロダ―的な路線を引き継ぎつつ、ディスコの要素を強めた感じで、〈これは正解だよね〉と誰もがうなずかずにはいられない(笑)」

天野「そうですね。“Blinding Lights”をリリース直後に聴いたときは、〈こんなダサい感じで大丈夫なの!?〉と不安を感じたのをよく覚えていますが、“Take My Breath”はそれに比べてダンス・ポップとしてかなり洗練されています。ウィークエンドは、意識的に“Blinding Lights”の続編を作ろうとしたんでしょうね。作曲とプロデュースのクレジットを見ると、マックス・マーティン(Max Martin)、オスカー・ホルター(Oscar Holter)、アーマド・バルシェ(Ahmad Balshe)という“Blinding Lights”と同じ面々が参加しています」

田中「あけすけな性的欲求と狂おしいまでの独占欲が描かれたリリックは、いかにもウィークエンドらしいですね。とはいえ、魅惑的なシンセ・リフとディスコ・ビートに彼の艶やかなファルセットが乗ると、やっぱりそこには魔法がかかるわけで……。ポップソングとして最上級の曲であることはまちがいないですし、いろいろな意味で〈この次〉も楽しみです!」

 

Holly Humberstone “Please Don’t Leave Just Yet”

天野「2曲目はホリー・ハンバーストーンの“Please Don’t Leave Just Yet”。これはめちゃくちゃいい曲! これが〈SOTW〉でもよかったかも、と思うくらいにいい曲ですね」

田中「ホリー・ハンバーストーンのことは年始に掲載した〈2021年期待の新人洋楽アーティスト20〉で紹介したので、ぜひそちらを読んでください。ハンバーストーンはイングランド東部のリンカンシャー、グランサム出身のシンガー・ソングライターです。今年4月にはピアノ・バラードの“Haunted House”、5月には80sっぽいミッド・テンポのエレクトロニック・ポップ・ナンバー“The Walls Are Way Too Thin”と立て続けにシングルを発表していましたね。今回の“Please Don’t Leave Just Yet”は、彼女が11月5日(金)にリリースするEP『The Walls Are Way Too Thin』からのシングルです」

天野「この曲は何が重要なのかというと、 The 1975のマッティ・ヒーリー(Matty Healy)とのコラボレーションで作られていることです。コーラスからは、マッティの声もばっちり聴こえますね。アンビエントっぽいエレクトロニックなサウンド・プロダクション、ヴォーカル・エフェクトやエディット、断片的なピアノの響きなどはかなり最近のThe 1975っぽい感じで、The 1975のファンは絶対に聴いたほうがいい曲だと思います。恋愛をめぐる内省的で告白的なリリックも重厚。とにかく、どれを取ってもいいです。ホリー・ハンバーストーンは、ロードやオリヴィア・ロドリゴに続く才能なんじゃないでしょうか。ぜひ今後も注目してほしいです」