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この状況も含めてバンドであるということ

――前作についてインタビューをしたとき、すでに次作の構想があると言っていましたよね。黒澤さんのセルフ・ライナーノーツにも、「元々次のアルバムは弾き語りを多めにしようと思っていた」とありました。

「前作を出すちょっと前に引っ越しをして、引っ越した先の家に半地下の部屋があって音を出せる感じだったので、そこを使えば時間を気にせずに家で弾き語りや録音ができると思ったんですね」

――ただ、宅録や弾き語りが中心になると、黒澤さん個人の表現に寄って、バンドの音楽からは離れていきますよね。

「〈弾き語りが多めになる〉と考えていたとはいえ、そこまで多くする予定ではなかったんです。それがコロナ禍になり、バンド練習ができなくなり、弾き語りを多くせざるをえない状況になった。それで、全面的にバンド活動ができなくなる前に、ある程度出来上がっていた“バーニング”が録れるんじゃないかと思い、まず録音しました。“地下で待つ”はコロナ禍が始まってからデモをみんなに送って、一回だけスタジオに入って合わせて、その後にレコーディング・スタジオで録った曲です。接触の機会を減らして、とりあえずバンドで録れたのがその2曲ですね。それ以外は個人で録ったものが中心で、結果的に個人の作業の割合が大きくなったんですけど」

――制作初期の段階でバンドで作った曲があったから、そうなると、やっぱりソロ・アルバムではなくて毛玉の作品になると。

「“地下で待つ”の歌詞が〈みんなで集まれる日を待つ〉という内容になったので、ソロの弾き語りに近いトラックで始まっても、最後に“地下で待つ”で終われば、アルバム全体のストーリーとして〈バンドになる〉と思ったんですね。それであれば、このアルバムが毛玉=バンド全体についてのものになりうるのではないか、と思いました。こういう状況だから個人の曲が多くなってしまったけれど、でも別にバンドのことを忘れているわけではないというか(笑)。そういう状況も含めたうえで〈バンドである〉というか。

それでメンバーにミックス前の音源を聴いてもらって、〈毛玉のアルバムとして出して大丈夫ですか?〉と確認して、毛玉名義で出しました」

『地下で待つ』収録曲“地下で待つ”

――実際に制作を始めたのは、コロナ禍になる前ですか?

「曲はすでにいくつかありましたが、制作自体はコロナ禍が始まってからだったと思います。個人で録音したものにはそれ以前のものもありますし、時期がばらばらで、長くぽつぽつと録っていました」

 

半地下の毛玉

――僕は、黒澤さんはパーソナルな表現をする音楽家だと思っていて、というのもアルバムごとにそのときの黒澤さんの生活や感情が表れているからなんですね。たとえば、2作目の『しあわせの魔法』にはご結婚されたことが反映されているとか。今回のアルバムについては、やっぱりお子さんが生まれたことが大きかったんじゃないかな、と思いました。

「子どもの声を録音して使っていますからね。“wave”には0歳か1歳のときの子どもの声が入っています。“流星”は家で弾き語りで録った曲なんですけど、最後のほうに別の部屋で泣いている子どもの声が入ってしまっています。でも、曲に合ったのでそのまま残していて、ちょっと心霊現象みたいになっていますね(笑)。子どものおもちゃを使って録った曲もありますし。歌詞では、“RPG”や“寒い夜のこと”にそういったことが反映されていると思います」

――アルバムの主題や黒澤さんの制作の動機はどんなものでした?

「2つ軸があるとすれば、1つはやっぱり子どもが生まれたことですね。

もう1個挙げるとすれば、さっき言った自分の部屋です。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)という韓国の映画があるじゃないですか。僕は、公開前からあの映画を楽しみにしていたんですね。それで、公開されたらアカデミー賞を獲ったり、かなり話題になって。それまで、アルバム・タイトルを〈半地下の〇〇〉にしようと思っていたんですけど(笑)」

――映画が大ヒットして、さすがにそれは恥ずかしいと(笑)。

「あの映画、すごくよかったですよね。『パラサイト』に出てくる半地下の部屋は、70年代、戦争に備えた防空壕として作られていて、それをいま貧しい人たちに安く貸しているそうなんです。自分の部屋は、ただ構造上半地下になっているだけなので、状況はぜんぜんちがうんですけど。でも、映画の最後のシーンの地下室のイメージなどからは影響を受けていますね」

――あの映画ってあまりポジティヴな終わり方だと思えなかったんですけど、毛玉の“地下で待つ”にはポジティヴなニュアンスがありますよね。

「そうですね。もちろん『パラサイト』だけじゃなくて、コロナ禍でずっと家にいないといけない、外出を控えないといけない、という状況からの影響もありました。家にこもりすぎると外部がなくなって、内面の世界に沈みこんでいきますよね。外部との境界線がなくなって、ひたすら自分のなかに沈み込んでしまう。でも、とりあえずそこで〈待っている〉というイメージです」

――それは黒澤さんご自身の実感ですか?

「自分はもとから内側にこもっているというか、コミュニケーションが得意じゃないタイプなんです。それが、世の中的に〈外に出なくていい〉という状況になって、それにお墨付きを与えられちゃって、よくないなと(笑)。だから、自分は〈もとからこもっている〉と思います。もちろん人によっていろいろな状況があって、他の方々は困っていると思いますが、個人的には運良く、そこまで影響がなかった。

毛玉自体もそこまで大きな活動しているわけじゃないですし、だからこそ続けることの意義が問われたように思います。音楽だけで食べているのであれば大変だったと思いますし、音楽以外に仕事があるから大丈夫な部分があったから、良かったような悪かったような……(苦笑)。感染リスクを冒してライブをやったところでバンドの規模が小さいので、ライブハウスの力になれるかというと、そういうわけでもないですし……。やれたのは、個人でクラウドファンディングで支援することぐらいでした。なので、〈インディー・バンドってなんだろう?〉とは考えましたね。だからといって、バンド活動をやめようとは思わなかったんですけど」