Page 2 / 3 1ページ目から読む

暗くて怖いから気をつけろよ!

 そのほかの曲にも、その時々のメンバーの気持ちが反映されている。例えばエフェクトをかけた声が〈地球温暖化が私たちを殺す〉と訴えかける“Global Warming Kills Us All”は、猛暑の最中にレコーディングされたものだ。

 「2年前の夏、経験したことがないような暑さで、スタジオで〈やばくない? この暑さ〉ってみんなで言っていたんです。夜になるとゲリラ豪雨で、このままいくと人類が死ぬんじゃないかと思って。それで死にそうなロボット声で、その時の気持ちを出したんです」(シュガー)。

 また、ヘヴィーなドラムとノイジーなギターが不穏なムードを生み出す“ET(Densha)”は、曲の途中で列車が通過。後半はホラー映画のサントラのようなダークなサウンドが広がっていくが、当時、観ていたドラマや映画から影響を受けているとか。

 「当時『ツイン・ピークス The Return』をみんなで観ていたんです。私たち『ツイン・ピークス』が大好きだったから。それで〈電車の音っていいよね〉っていうことになって。マイクを使って電車の音を出してみたりしたんですよね。〈この音、ツイン・ピークスじゃん!〉って盛り上がりながら。“ET(Densha)”はそいう遊びのなかから生まれた曲です。〈The Return〉のいちばんすごいシーンを観ながらダビングしたりして」(シュガー)。

 「あと、当時『2001年宇宙の旅』のデジタル・リマスター版が公開されて観に行ったんですけど、リマスターされた音は迫力があって、劇場のスピーカーの割れた音で聴いたらすごく怖かった。その体験も曲に影響している気もします」(大野)。

 一方、アルバムの精神性をストレートに表しているのが“Don't Punk Out”だ。ファンキーなグルーヴとパンキッシュな攻撃性が火花を散らするなか、〈Don't punk out/For whatever reason(怯んじゃダメだ/どんな理由があろうとも)〉と歌う。ムーグのジャンキーめいたヨレた歌声も最高だ。

 「普通に歌うとああいうふうになるんです。ヨレヨレの人間なので(笑)。最初はこういう時期なんでマスクつけて歌ってやろうと思っていたりもして」(ムーグ)。

 「今回のアルバムはパンキッシュな気持ちで作りました。前作がスタジオで作り込んだものだったから、次はシンプルにしようと思っていたんです。あと、世の中の動向もあってパンクな気分だったんですよね。そういうのがこの曲には出ている」(シュガー)。

 さらには、中原とのセッションの音源を活かした“Times”“Everything Valley”や、ブラジルのシンガー・ソングライター、リカルド・ディアス・ゴメスをヴォーカルにフィーチャーした“Jazz”など、外部のミュージシャンとのコラボレート曲も収録されているが、途中参加となったムーグは、大野とシュガーが作っていた音源を聴いた時の印象をこんなふうに語ってくれた。

 「全部通して聴いた時は暗いと思ったけど、暗さと向き合っているところがいいなと思いました。今の世の中、暗いじゃないですか。暗い時にのんびりした音楽とか、元気づけてくれる音楽を聴くのもいいんですけど、暗さの底の底に手がつくぐらい向き合ってみると、意外とその後のんきになれたりするんですよね」(ムーグ)。

 一方、作っていた時は暗いと感じていなかったという大野。ムーグの意見を聞いて、「だからといって、明るくすることはないなって思いました。今の気持ちを正直に出せばいい」と感じたとか。そして、シュガーはこう続ける。

 「今回は苦しんでいる曲が多いんです。苦しさはパンデミック前からあった。社会は厳しいし、自分たちは歳をとって衰えを感じるようにもなりましたから。でも、そういう気持ちを押し殺して夢を語るより、自分たちが抱えている苦しみをそのまま出したほうが共感してもらえる気がして。何より自分自身がそういう曲を聴きたかった」(シュガー)。

 といっても、絶望的に打ちひしがれる作品ではない。“Music”という晴れやかな曲もありながら、アルバムを貫いているのは、苦しみに自分たちの流儀で向き合おうとするパンクな精神だ。

 「〈めっちゃ暗くて怖いから気をつけろよ!〉っていうアルバムです(笑)」(ムーグ)。

 絶望を噛み砕き、音楽として吐き出しながらギャロップするBuffalo Daughter。『We Are The Times』は、そんな彼らのしぶとい生命力が生み出した傑作だ。

左から、Hair Stylisticsの未発表音源を収めた2020年作『LOST TAPE 1999 FROM HELL』(TANG DENG)、「ツイン・ピークス The Return」が収録されたDVD/BDのボックス・セット「ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ」(NBCユニバーサル)、リカルド・ディアス・ゴメスの2018年作『AA』(Sdz)