
止まることなく、前に前に
――世界がコロナ禍になるまでのH ZETTRIOは、本当に精力的にライブ活動を繰り広げていました。そして人前でのライブがなかなかできない状況になると、かなり早い段階で配信ライブに切り替えましたね(2020年4月9日開催のYouTubeスタジオ生配信ライブ)。
NIRE「最初は試しにやってみたんですけど、すごく反響があったんです。我々にとって新鮮だというのもあったし、やって良かったなと思いますよ。〈自粛期間に家から出られないし、ライブも中止になった。そんな中で配信してくれてありがとう〉という反応をめちゃくちゃもらって嬉しかったですね。これは続けた方がいいなあという感じで、以降定期的にやるようになりました」
M「反響が(チャットによって)すぐわかるのがいいですね」
KOU「ダイレクトに文字で反応が返ってくるのは自分もすごく面白いなと思いました。リアルライブではそういうことがなかったので。1曲終わった段階で、文字で反響がワッと来るのは」
――その間に36か月連続新曲配信のプロジェクトや、テレビ番組「SPEED MUSIC ソクドノオンガク」(音頭、演歌、歌謡曲、アニソンなど日本の楽曲を独自のアレンジでカバーする番組)の収録もあって。
NIRE「コロナがあっても途切れずに収録を続けられていますからね」
KOU「変わらず、週イチで放送されてます」
――アルバムリリースも含めて、ものすごい働きぶりだと思うんです。活動が止まっても〈コロナだし、このご時世だもの、仕方ないよね〉と納得するオーディエンスもいるのではと思いますが、H ZETTRIOの皆さんは決して止まらない。加速と継続が常にある。
NIRE「基本的に目の前にあるものに取り組んでいく。長いスパンのことは考えず、その時やるべきことに全力で取り組んでいるわけです。そうしていかないと、私とかは振り下ろされそうな気分になってしまう。それをちょっと俯瞰して考えた時、〈けっこう長く続いてるな〉と思うことはありますが」
M「〈すごくストイックだな〉って他人事のように感じることもあるんです」
KOU「〈止まることなく、前に前に〉という感じで」
M「基本姿勢が前へ前へというのはありますね。いろんな課題が出てきたり、〈こういうことをやろう〉という話が出てきて、それに取り組んだら意外といい感じでできちゃうところがある。できちゃうと楽しいですから、その相乗効果でどんどんさらに前に進むという。前に向くという姿勢が自分には良いんだなと思いますね」
――2019年のインタビューで、Mさんは〈このスピード感が我々にフィットしてるというか、やりやすいんですよね。作ったらすぐ出したい。もう、自分の動きを止められない。マグロですから(笑)〉と語っています。
M「マグロも自ら本能で泳いでるのか、泳がされているのか、わからないですけど(笑)。『ソクドノオンガク』も毎週放送されていて、新曲のリリースも毎月やってて、配信ライブも早めに始めて。でも最初は〈そのくらい、たいして忙しくないだろう〉という感じでスケジュールを決めていったんです。それらを地道にコツコツ継続していたのが良かったのか、筋肉が強くなってきたという実感はありますね(笑)。負荷がかかると、トレーニング的にもいいのかもしれない」
NIRE「確かに、いい負荷がかかっている実感はありますね」

H ZETTRIOの曲作り
――今作の収録曲は全曲、YouTubeでMVを見ることができますが、たとえば“負けるなチャンプ”はボクシング、“Never Ending”はカヌー、“Workout”はボルダリング、“炎のコンテクスト”はビーチバレーといった競技がMV中に登場します。作曲の時は、〈このスポーツを題材にして書こう〉という感じだったのでしょうか?
M「正直、作曲の時はスポーツのことは考えてなかったです。いろんな音楽的なアイデアのミックスというか、集合体という感じでしょうか。もともと、最初から曲のコンセプトを決めていくことはあんまりないんですよね。思いのまま曲を作っちゃってそこにアイデアを足していって、タイトルはいちばん最後につけます」
KOU「曲名はLINEで決めることが多いですね」
――楽曲はまず、Mさんの打ち込みでNIREさんやKOUさんの元に届けられるのでしょうか?
NIRE「そうですね」
M「簡単なデモというか、こんな感じの曲ですかねというイメージを打ち込みで、ベースラインやリズムも含めて」
NIRE「送られてきたデモをフィックスするみたいなことはあります。こっちのほうがウッドベースの良さが生かせるかなと考えたり。打ち込みのベースと生のベースではニュアンスの出方が違いますし、パッと演奏した時に、できるだけウッドのいい感じをお客さんに聴いてもらえるような方向に調整を加えることはありますね。端的にいうと、ウッドベースにフレットはない。だから、フレッテッドでは出せない中間の音をうまくビブラートで表現したり、スライドをしたり、ギターのチョーキングみたいに使ったりとか。いろいろできたらと思っています」
――“New Design”の途中で音をスライドさせるところは、すごく印象的です。
NIRE「真ん中あたりの〈ウワワワーン〉というところですね。そういうのはスタジオに入ってレコーディングしている最中になんとなく思いついて、いいじゃないかと言ってもらったら採用する感じですね。3人で合わせてみると、また違ったアイデアが出てくるので。〈ほかの2人がこうやるなら、俺はこうやろう〉とか、乗っかってみる時もありますし、逆に離れる時もあります。その場で2人の音を聴いて、考えていく。毎回そういうことがありますね」
――KOUさんの場合は、どのようなアプローチで演奏に臨みますか?
KOU「曲のデモと譜面をいただいた時に、大体そこで方向性が示されていますから、それを基本的に叩きつつ、そのうえで自由なアプローチを加えている感じでしょうか。ちょっと行き過ぎたりすると〈ここはこうしてください〉〈ここは叩かないでください〉という指示はありますけどね。〈そこは休符です〉とか(笑)」