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口琴、鼻笛、チャルメラ……民族楽器がもたらす独特の味わい

正和「そういえばWMFで桑布伊を見て、舞台衣装と髪型がいままでと変わっていたので、メッセージを送ったら、〈刻板印象 要改進〉と瞬時に返事がありました(笑)。4年前に観たときは民族衣装を着てたんですけど、今回はちょっとオルタナロックな感じでやってましたね」

※〈イメージを変えなくちゃと思って〉の意

理咲「今回の桑布伊はシンプルないでたちで演奏に集中している印象でした。みなさん個性を大事にしているから、演出的に被らないようにしているのかなという気がしました」

桑布伊

「僕は桑布伊さんのライブを観るのが今回初めてだったんですが、CDとほとんど変わらない、素晴らしいクォリティーのライブだと思いました。オーディエンスを巻き込む力があって。もちろん実力派なんですが、一流のエンターテイナーでもあるなっていう印象を受けました」

理咲「大御所の落ち着きを感じますね。桑布伊は歌唱力が高いのはもちろん、詩の世界が深く、月琴や鼻笛の演奏も見事で、いつも聴き入ってしまいます」

「最後の方でバンドと一緒に口琴を演奏していたのも印象に残っています。あんなファンキーに口琴を演奏する人は初めて見ました。すごいグルーヴ感があって」

理咲「あれはすごいですよね。口琴を演奏してすぐ歌うっていうのも含めて。

エリ・リャオ(Eri Liao)さんっていう台湾原住民タイヤル族のルーツを持つシンガーが日本で活動しているんですけど、彼女もライブで口琴を使うんですよ。あるときから自分のおばあちゃんのルーツの原住民の音楽をすごく大事にしはじめたようで。そう考えると、口琴もキーワードだなと思えてきますね」

「日本でもアイヌの人たちが使ってますよね」

理咲「ムックリですね。ヨーロッパの北方民族やアメリカ先住民や中央アジアやアフリカにも、口琴を使う人がいるみたいですね。それぞれ繋がっているんでしょうかね……。

あと、チャルメラが意外と若いミュージシャンの間で使われているのも印象的でした。初日のショーケースの最後にパフォーマンスした琴人樂坊(Musicians' House)で、ボーカルの女の子が途中チャルメラと長い笛を演奏してたんですけど……それはすごくインパクトがあって新鮮な感じがしました。歌ってるときの声はちょっとアイドル風なんですけど、演奏はすごい男前な感じで。

琴人樂坊

男前と言えば、今回WMFのテーマ曲になっていた戴曉君(Sauljaljui)さんが気になって調べてみたんですけれど、この人は前はもっとフェミニンだったのが、どんどんジェンダーレスになっているみたいですね。あの存在感はいまの時代にマッチしているような気がしました」

戴曉君の2019年作『裡面的外面』収録曲“戰歌 cemavulid ”

「Wind Musicも結構推してると思いますね、彼女のこと」

理咲「そうですよね。彼女、マンドリンみたいな不思議な楽器も使ってたんですよね。箱形の細い弦楽器で、月琴と交互に弾いていて。それも気になりました。

あとは印象的だったのは、泰武古謠傳唱(Taiwu Ancient Ballads Troupe)ですね。小学校の合唱団だったのが、いまやブルガリアンボイスを超えたかな、と思うくらい成長していて感動しました。そう言えば、彼らを指導した查馬克・法拉屋樂(Camake Valaule)という方がちょっと前に亡くなられたというエピソードを知りました」

泰武古謠傳唱

正和「今回は追悼のステージでもあったんですよね」

 

伝統文化を継承していくための2つの方向性

理咲「原住民の子どもたちの音楽教育に関しては、以莉高露(Ilid Kaolo)からも話を聞きましたが、学校のようなシステムで教える〈原舞者〉などの試みもありますね」

正和「原住民は長い間差別されてきた歴史があって、いまでも3K労働に就いてる人も多いと聞きます。だから子どもたちの音楽の才能を伸ばして仕事の枠を広げるとか、そういう狙いもあってサポートをしているんでしょうね」

「阿爆なども〈Nanguaq那屋瓦〉という原住民文化を保護するための組織を立ち上げて、若手アーティストが現代的な手法で表現するための場を提供しているんですよね」

理咲「いろんな世代が共存できるというのは素晴らしいですよね。その意味で今回のWMFで心温まったのが、桑梅絹(Seredau)さん。一緒に歌っていた少年も上手でしたね。桑梅絹さんは学校の先生のような立場で若い世代にもアートと音楽を伝えているようですね」

桑梅絹

「そうかもしれないですね。そういう風に世代を超えて伝統文化を保護していく動きがある一方で、原住民音楽とポピュラーのハイブリッドを積極的に生み出すというような動きもあります。僕自身そうしたハイブリッドなものから伝統を知り、より深く楽しめるようになった経験があるので、どちらも重要だと思うのですが、いかがでしょう?」

正和「両方アリだと思っています。他の国を見ても、すごく伝統的なスタイルでやっている人もいれば、クロスオーバーなスタイルの人もいますし。そこで大切になってくるのが、伝統音楽固有のメロディーや言葉、内在するリズムをいかに引き出していくかだと思います。今回の桑布伊も伝統楽器を使いつつ、メインは西洋の楽器でしたし、アレンジもベースはロック/ポップスでしたよね。それでも原住民音楽らしさは伝わってきました」

理咲「ふと思い浮かんだのは、ビョークです。イヌイットの血も入っている彼女がヨイクも彷彿させる歌声で(ブロドスキー)弦楽四重奏団とツアーをしたときには驚きました。その影響を受けた音楽家も多いですよね。

今回のWMFでもクラシックの弦楽器が生かされていましたね。音楽で海外留学する人も多いそうです。東西の文化交流を台湾の文化庁も手厚く支援してるんですよね」

※サーミ人の文化における伝統歌謡あるいはその歌唱法

「たしかに台湾はその辺り太っ腹ですよね。先日行われた音楽賞GIMAも文化庁が主導でやってますし、各地方の行政も音楽フェスなどをたくさん開催しています」