台湾で最大の野外ワールドミュージックイベント〈World Music Festival @ Taiwan〉が、2022年10月14日(金)~10月16日(日)に開催される。台湾の文化部(日本の文化庁に相当)で、映画・ラジオ・テレビ・ポピュラーミュージックの振興を促す〈影視及流行音樂產業局〉が後援し、同国で幅広く音楽事業を展開するWind Music(風潮音樂)によって運営されている同イベント。2016年に第1回が開催され、2020年はコロナ禍で中止を余儀なくされるも、2021年に再開し、今年で6回目を迎える。
Wind Music は88年の設立以来、台湾や中国の民族音楽・伝統音楽や、ニューエイジミュージック、児童音楽にフォーカスしたレーベルとして、台湾の音楽業界の中でも、唯一無二の存在感を放ってきた。〈FUJI ROCK FESTIVAL ’17〉にも出演しているシンガーソングライターの以莉高露(Ilid Kaolo)や、NHK「Amazing Voice 驚異の歌声」で取り上げられ、世界各地で公演を行なっている児童合唱団、泰武古謠傳唱(Taiwu Children’s Ancient Ballads Troupe)など、原住民音楽を代表するアーティストたちの作品も多い。
そんなWind Musicがオーガナイザーを担う〈World Music Festival @ Taiwan〉では、原住民や客家(漢民族の支流の1つ)など、台湾の民族的・音楽的多様性をまるごと体験できるのが大きな魅力だ。また、世界各国のアーティストや音楽関係者を招致し、ライブのみならずパネルディスカッションやワークショップも開催。ワールドミュージックに関わる人々の交流を促す、ハブとしての機能も果たしており、〈台湾からシーンを盛り上げていこう〉という気概を感じさせる。
2022年は〈Music is everywhere(あらゆる場所に音楽がある)〉をテーマに掲げ、会場のどこにいても音楽が感じられるようなフェスティバルを目指す。そして、昨年に引き続き、今年もそのパフォーマンスの多くがYouTubeでライブ配信されるので、日本からも視聴可能だ※。今回は同フェスティバルでスーパーバイザーを務める、Wind Musicの黃珮迪(Peiti Huang)氏にインタビューを行い、そのコンセプトや見どころについて語ってもらった。
遊び心満載、家族で参加できるライフスタイル提案型のフェス
――〈World Music Festival @ Taiwan〉のコンセプトや、運営する上で大切にしているモットーがあれば教えてください。
「Wind Musicは設立以来ずっと〈ワールドミュージック〉に注力してきましたし、世界的にも音楽ジャンルの1つとして広く認知されていますよね。だとしたら台湾でワールドミュージックにフォーカスしたフェスティバルを開いてもいいのではないか、と考えたのがきっかけです。幸運なことに今年で第6回を迎えることができました。コロナ前の2019年は延べ50,000人程の来客を記録し、すでに多くのファンを獲得したという自負もあります。
フェスのプログラムを組む上で大切にしているのは、観客には毎回、必ず新しいものを提供するということです。今年は本フェスでしか見ることのできない、5つの特別プログラムを用意しています。例えば、本フェス限定で結成されたバンドによるパフォーマンスや、2人の凄腕ドラマーによるドラムバトルなど、どれも見応え抜群のプログラムです」
――今年のテーマはありますか?
「テーマは〈Music is everywhere(あらゆる場所に音楽がある)〉です。これには2つの意味があって、1つは文字通り、会場のどこにいても音楽を感じられる作りになっていること。そして、もう1つは〈遊び心〉です。ワールドミュージックというと、伝統音楽・民族音楽など古い音楽を思い浮かべる人も多いと思いますが、〈World Music Festival @ Taiwan〉はファミリーをターゲットとして設定しているので、若い世代にも魅力的なプログラムが必要なんです。
例えば、今年はストリートダンスを取り入れた〈Beats & Breaks〉が用意されています。ダンスが音楽に従属するのではなく、対等に扱われているのがポイントで、まるで演劇を見ているかのような印象を与えるはずです。そしてオーディエンスもパフォーマーたちに合わせて体を動かしていい。このような〈遊び〉の要素がいくつも散りばめられています」
――そういった音楽を取り入れた参加型のプログラムも目を引きますし、飲食やハンドクラフト等の出店も充実してますよね。音楽に触れてもらうのはもちろん、〈ワールドミュージックがある生活〉というか、Wind Musicが考える理想のライフスタイルを提案しているようにも思えます。
「当初からそれを意識していたわけではありません。ただ、ターゲットをファミリーに設定しているので、必然的に幅広い年齢層や趣味嗜好、価値観を意識することになります。そしてファミリーが休日に訪れて楽しめるようなフェスを目指した結果、ワールドミュージックを聴かせるだけではない、ライフスタイル提案型のフェスになっていったように思います」
――ターゲットがファミリーというのも面白いですね。
「会場となっている大佳河濱公園は台北では定番のレジャースポットで、週末はファミリーがピクニックをしているような場所なんです。フェスを始めた当初は予算も少なく、プロモーション費用も無かったので、大佳河濱公園を会場として選べば、そこに来る人たちがフェスにも立ち寄ってくれるだろうと考えたんです。
台湾は音楽フェスがたくさんありますが、その多くはインディーズの音楽が好きな若者がターゲットです。なので、私たちはワールドミュージックを〈家族みんなで楽しめる音楽〉と位置付けることしました。これは世界のさまざまな、ワールドミュージックフェスティバルから学んだことでもあります」