デヴィッド・ボウイが最も影響受けた100冊の本
本を読む人口が近年少なくなっているのはとても残念なことだ。ボウイが音楽活動を始めた1960年代では、学生は普通にカミュ、サルトル、コリン・ウィルソン等を読んで議論をするのが好きな人がたくさんいた。世の中のことをもっと知りたい。別の生き方ができないだろうか? 生きるとは何だろう? 死ぬとは何だろう? 今まで知らなかった世界、今まで知らなかった知識を、本から求めていた。
この本のリストはボウイが2013年にロンドンのV&A博物館の企画展〈デヴィッド・ボウイ・イズ〉の時にボウイ自身が作った。解説は音楽ライターのジョン・オコーネルが書いた本だ。解説はボウイが書いていないので、オコーネルの想像で曲や関連する本を選んでいる。
紹介されているいくつかの本と作家について書きます。
アンジェラ・カーターはまだ20代半ばの頃に1970年代の東京に数年間住んでいた女性。東京の生活で経験した文化の衝突の苦い経験によって、20世紀英国の最も代表的な作家にの一人になった。
彼女の文学は、「百年の孤独」を書いたガルシア・マルケスやサルモン・ラッシュディと共にマジックリアリズムの代表となっています。作家になるに一番大切なのは、自分のアイデンティティをしっかりと分かることだとカーターの友人のラッシュディは言っている。ラッシュディの両親はインドとパキスタンから来たが、自分は英国人だと分かった時からはっきりした立場で作品を書けるようになった。カーターは、20代半ばを日本で過ごしました。アカデミックな教育を受けているのにもかかわらず経済的に苦しかったためにホステス・バーで働いた苦い経験によって女とは何か? ということを理解したと書いています。日本人の男性と恋に落ちたが、彼女にとって、異文化で育った男性を理解するのは難しいという苦い経験になり、これが作家としての彼女を成長させた。日本を去った後のカーターは、とてもカラフルで、僕にはボウイの“アッシュズ・トゥ・アッシュズ”を思い起こすような作品を書き出すようになる。
ボウイも日本文化に興味を持って、京都で過ごしたことがありました。異国人として住むと誰も経験することをが見えて、カーターと共通点を見たのかもしれません。カーターは数冊入っていた。
コリン・ウィルソンの「アウトサイダー」やカミュの「異邦人」が入っている。ボウイは自分が社会からのアウトサイダーだという意識を持っていた。パキスタン系英国人の作家、ハニフ・クレイシがボウイにアジア系英国人の生活と差別を描く「郊外のブッダ」の音楽を依頼すると、ボウイはパキスタンやインドの音楽などは使わずに、自分が育ったロンドンでアウトサイダーとした感じた体験を曲にした。ウィルソンの「アウトサイダー」は、僕らの世代にとっても文学のガイド・ブックになっていた。ニーチェ、カミュ、ドストエフスキー、ハイデッガー、舞踊家のニジンスキー、カザンタキス、ラブクラフト、ジョイス、ローレンス、等もウィルソンの解説をガイドに読み尽くしていた。ボウイもウィルソンの紹介する本を次々と読んでいた。
珍しい本では、心理学者のジュリアン・ジェームスの「神々の沈黙」や精神家のR.D.レインの「引き裂かれた自己」がある。ボウイの兄は分裂病で苦しんでいて、彼自信も精神病だと長年信じていた。ジェームスは古代の予言者は、現代社会では分裂病患者にされただろうという本を書いている。レインは統合失調症は子供時代への執着に満ちた終わりなき夏の夢のような超越状態だと書く。ボウイは自分がアーティストになったことで、兄のようにならなかったと晩年に語っている。
あまり知られていないことでは、ボウイはドナルド・リチーの三島由紀夫論でも書れていたように、自分が別人になったようなパフォーマンスをするとそのようになれるというカメレオン的な見方に影響されていた。ボウイは2013年のCDでも三島の「春の雪」に影響された曲を発表していた。
ジョン・ケージの本「サイレンス」が入っている。ケージの影響はブライアン・イーノと共に作った音楽で現れている。特に1995年のCD『アウトサイド』ではチャンス・オペレーションのカードを使った前衛実験音楽を録音しているが、レコード会社からあまりにも過激で、そのままでは出さないと言ってしまった。現在は歌の曲の間に入る抜粋の部分だけが正式リリースされているが、長いヴァージョンは影で出回っていて、これは凄いものだった!
美術で最も影響受けた本には、横尾忠則の本「Tadanori Yokoo」と「フランシス・ベーコン・インタビュー」が入っている。
もちろん、ボウイの 『ダイアモンドの犬』をインスパイヤーさせたオーウェルの「一九八四年」、『ジギー・スターダスト&ザ・スパイダーズ・フロム・マーズ』のイメージに影響を与えた「時計じかけのオレンジ」、ベルリンに行くインスピレーションとなったイシャウッドの「いかさま師ノリス」も入っている。文学の古典、ホメロスやダンテも入っている。
100冊もあるので、全て語れないが、この本がみんなの本のガイド・ブックになることを祈る。