50周年を迎えたロック史に残る傑作とその現象を分析する

大久達朗 『デヴィッド・ボウイ ジギー・スターダストの神話』 シンコーミュージック(2022)

 ジギー・スターダストは、デヴィッド・ボウイの生み出したキャラクターであり、それは、変化を座右の銘とするアーティストが自らに与えたアルター・エゴであることを超えて、ボウイ自身に同一化していった。それは、1972年に発表されたアルバム『ジギー・スターダスト』によってこの世に生まれ落ちたキャラクターだった。本書では、1970年作『世界を売った男』から、ジギーというペルソナを葬り、その後の1973年作『ピンナップス』(なお本書ではアルバム・タイトル、曲名は、ほぼすべて英語原題表記になっている)までを、前史も含めたジギー・スターダストの時代としている。それは、その時代がすなわちボウイとミック・ロンソン、そしてザ・スパイダース・フロム・マーズとの上昇と下降の時代でもあることを示している。自身の売り出しを試行錯誤する、駆け出しのアーティストが、どのように稀代のロック・スターとなり、まさに「神話」となっていったのかは、ガブリエル・レンジ監督の映画『スターダスト』のモチーフにもなった。

 映画が「ほぼ実話にもとづく」フィクションと銘打たれていたのとは対照的に、本書は徹底的に事実を参照しながらジギー・スターダストの実像に迫っていく。『ジギー・スターダスト』のジャケットに登場するボウイは、それ以前の長髪は逆立った短髪に、服装も『時計じかけのオレンジ』にインスパイアされたジャンプスーツに、と大きくアーティストのイメージの刷新をはかった。ボウイにとってのジェフ・ベックであったミック・ロンソンと作り上げて行った、自身のスタイルが1971年『ハンキー・ドリー』および翌年の『ジギー・スターダスト』で開花し、ツアーでアメリカを吸収したジギーは1973年に『アラジン・セイン』で未来のロックン・ロールを繰り広げ、発売に先立ち日本にもやってきた。そして、帰国後の凱旋ツアーであっけなく終焉を迎えてしまう。たった4年ほどの期間だが、その濃密な時間は、ジギーというキャラクターが現実となり、虚実がないまぜになっていった、ある意味では混乱した時間と言っていいだろう。本書は、発表されたアルバムを軸に、楽曲解説やボウイとその周辺の出来事やプロデュース・ワークまでを、事実や証言をもとに詳細に綴った、神話の内実のドキュメントとなっている。