こんな時代に愛と祝福と祈りを捧げるグッド・ミュージック! カリフォルニアの3姉妹が届けた3枚目のアルバムは過去最高に率直でオープンな傑作だ!!!
日常の息遣いまで伝わる音楽
ハイムの3枚目のアルバム『Women In Music Pt. III』は、これまでのアルバムと比べて、肩の力の抜けたリラックスしたサウンドに仕上がっている。プロデューサーに迎えたのは、前作と同じくアリエル・レクトシェイド(ヴァンパイア・ウィークエンドとアデルのアルバムで2度グラミーを受賞)とロスタム・バトマングリ(ヴァンパイア・ウィークエンド在籍時にグラミーを受賞。個人ではチャーリーXCX、ソランジュ、フランク・オーシャンらと仕事)。そしてハイム3姉妹は気心の知れた彼らと、それぞれのホーム・スタジオを利用しながら曲を制作していったという。オンライン・インタビューでエスティ、ダニエル、アラナに話を訊いた。
HAIM 『Women In Music Pt. III』 Haim/Polydor/ユニバーサル(2020)
このアルバムの方向性を決めたのは、約2年ぶりのシングルとして昨年7月末にリリースした“Summer Girl”だ。これは前のアルバム『Something To Tell You』を作っている時に、ダニエルのパートナーであるアリエルが重い病気だと診断されたことをきっかけにして生まれた楽曲(現在は完治)。ダニエルが「彼が絶望に浸っている時、私は希望になりたかった。だから、この一節を歌い続けていたわ」という〈I'm your sunny girl/I'm your fuzzy girl/I'm your summer girl〉のフレーズをもとに、ロスタムが曲を構成し、ブロドウィン・ピッグ“Sing Me A Song That I Know”(69年)を彷彿させるサックスのフレーズを加えたり、ルー・リード“Walk On The Wild Side”(72年)にインスピレーションを貰ったりしながら、最後は曲が生まれるきっかけとなったアリエルの手で完成したという。
「私たちはこの曲がクールだと思って、しかも完成したのが夏だったから、すぐに発表しようと思ったの。アルバムを作ることにしたのは、この曲を出した数週間後のこと。まずはこの曲を出していい気分になれたから、曲を作り続けて、その都度リリースしていきたいという気持ちになったの」(ダニエル)。
曲が出来た時の雰囲気そのままにリリースしたかった、というように、このアルバムにはリラックスしたサウンドが溢れている。子どもの頃から両親と一緒にフリートウッド・マックなどの70年代のクラシック・ロックを中心にカヴァー曲を演奏してきたハイム3姉妹は、これまでもカントリー・ミュージックからヒップホップまで、お気に入りのあらゆる音楽を自分たちの楽曲に自在にミックスしてきた。
しかし今回は、ジョニ・ミッチェルやブロンディ、シェリル・クロウなど、レトロスペクティヴな要素はありつつも、ベッドルーム・ミュージックのような親密性のあるサウンドで制作したことで、オーガニックなサウンドの中にもスカやレゲエだったり、ヒップホップだったり、それぞれの曲の個性が引き立つようになっている。それはダニエルがドラムスも叩いていることもあるだろう。そして日常生活での息遣いまで伝わってくるような音楽は、歌詞も含めてオープンなものになっている。