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心躍る冬の日にあなたはどんな夢を見る? ジョリー・ジョーンズから初めて届いたクリスマス・アルバムはソウルフルな楽しさに溢れている!

 2020年のオリジナル作『Pick Me Up Off The Floor』に続き、今年4月には初のライヴ盤『’Til We Meet Again』を出すなど、コロナ禍の影響を受けながらも精力的に動いてきたノラ・ジョーンズ。ということで、今度は彼女にとって初のクリスマス・アルバム『I Dream Of Christmas』が登場です。これまでも企画コンピに“Peace”(2003年)を寄せたり、賛美歌の“It Came Upon A Midnight Clear”(2012年)や“It’s Not Christmas Til You Come Home”(2017年)を配信したり、それこそプス・ン・ブーツのクリスマスEP『Dear Santa...』(2019年)も記憶に新しい彼女だけに、今回の試みはありそうでなかったもの(なお、9月には冬ソングをコンパイルしたEP『Winter Jones』も配信しています)。本人いわく「クリスマス・アルバムを聴いていると私自身、心がすごく落ち着きます。これまでクリスマスにフォーカスを当てた作品を作ろうと思ったことはありませんでしたが、いざ取り掛かってみると制作過程はとても楽しいものでした」とのことで、いつもとは違うシチュエーションだからこそ生まれたアルバムなのかもしれません。

 いつもとの違いは、作風そのものについても言えるでしょう。特に2010年代に入ってからのノラは往時のジャズ・ヴォーカリスト然としたシックな作風よりもいわゆるシンガー・ソングライター的な表現を好んで表に出してきたわけで、その意味でも今回の『I Dream Of Christmas』は久々に聴き手を選ばない作品と捉えることもできそうです。

 そんな親しみやすさを音という形で具現化したのはプロデューサーのレオン・ミッチェルズ。先述の『Pick Me Up Off The Floor』などにサックス演奏で参加していたマルチ・プレイヤーの彼は、エル・ミシェルズ・アフェアやメナハン・ストリート・バンドなどダップトーン〜ビッグ・クラウン系の諸バンドで活躍するマルチな才人です。ヴィンテージな生音でモダンなソウル作品を生み出してきた彼の手腕が、リラックス・モードのノラをよりハートウォーミングな方向に導いたのはアルバムを聴けば明らかでしょう。

 本編に収められた13曲中の6曲がノラ書き下ろしのオリジナルで残りは定番のスタンダード(日本盤にはノラとレオンがアレンジした“O Holy Night”もボーナス収録)。みずから〈ジョリー・ジョーンズ〉を名乗る冒頭の“Christmas Calling(Jolly Jones)”からして、楽しんで今作に取り組んだ様子は浮かんできます。なかでもレオンと共作したサザン・ソウル調の“Christmastime”と“You’re Not Alone”はスモーキーで落ち着いた歌声とゴスペル風の意匠が昂揚をもたらす名曲と言えましょう。その魅力はスタンダード群にも共通するもので、ジャズ・バラードの“Blue Christmas”なんかもオーセンティックなノラの良さを改めて思い出させてくれるはず。来年でデビュー20周年を迎えるノラですが、この優しい作風に節目で回帰したことは大きな意味を持ってくるかもしれませんね。