
“Goodnight Saigon”(邦題:グッドナイト・サイゴン〜英雄達の鎮魂歌、82年作『The Nylon Curtain』収録)
国を支える柱であった鉄鋼業や自動車産業などの衰退によって経済不振が深まり、失業者も増加するなど苦悩続きだった80年代初めのアメリカ。働けど働けど楽にならない暮らしに国民たちの間では行き詰まり感が広がり、いつまで経っても未来の見通しは暗いまま。そんな世相をビリーの『The Nylon Curtain』は如実に反映していた。
社会的メッセージ性の高い楽曲揃いの本作において、もっともシリアスなテーマを打ち出していたのが7分にも及ぶこの反戦歌だ。ビートルズの名作〈サージェント・ペパーズ〉からの影響を公言しているとおり、60年代カウンターカルチャーの匂いが色濃い作りとなっており、サウンド面も含めて80年代的な表現スタイルからかなり逸脱している。不安、怒り、悲しみといった感情をあおるピアノのリフレイン。全体的にヘヴィーで硬質なムードに包まれているが、誠実さの光るボーカルは掛け値なしに素晴らしい。緩急をつけながら丹念に物語を紡いでいく様子はまさに至芸。
こういったベビーブーマー世代らしい問題意識がひょっこり顔を出すことはけっして珍しくなく、87年のソ連ツアーで歌われたボブ・ディランが書いたプロテストソングの名作“The Times They Are A-Changin’”のカバーなどもその一環といえる。
“An Innocent Man”(83年作『An Innocent Man』収録)
一時に15人もの女性と恋に落ち、生命を持った新しいメロディーが次々に湧き上がってきて……という絵に描いたようなバラ色の日々を送っていたビリー※(リリース当時に封入されたセルフライナーノーツより)。『An Innocent Man』にはそんな彼のノリノリでゴキゲンな気分がしっかりと反映されており、突き抜けたポップさが魅力の1作となっている。
モータウンビートを下敷きにした“Tell Her About It”やフランキー・ヴァリ&ザ・フォー・シーズンズにオマージュを捧げた“Uptown Girl”など、いずれの楽曲も古き良きアメリカンポップスのテイストを感じさせるところが大きな特徴で、ベン・E・キングの“Spanish Harlem”(60年)から着想を得たこの表題曲もまたそういう音像を持っている。とにかくムーディーで艶やかなビリーのボーカルが聴きもので、ドゥワップやラテンバラードのエッセンスが溶かし込まれたトラックの味わいも相まって激ロマンティック。
ビリー史上もっとも明るくオープンなアルバムからはトータル6枚ものシングルが切られ(日本では“This Night”も含めて7枚のカット)、いずれもヒットを記録。マイケル・ジャクソンの『Thriller』(82年)やブルース・スプリングスティーンの『Born In The USA』(84年)などのメガヒット作とチャート上で覇を競った。

“We Didn’t Start The Fire”(邦題:ハートにファイア、89年作『Storm Front』収録)
90年代を目前にしてフィル・ラモーンとのパートナーシップを解消、セーフティーゾーンから一歩踏み出そうと決意したビリー。そこで新しい創作パートナーとして目を付けたのは人気バンド、フォリナーの大黒柱、ミック・ジョーンズだった。バンドのメンバーも大幅に入れ替え、ギターサウンドをグッと前面に押し出す処置が取られたアルバム『Storm Front』には、大型スタジアム映えのするロックナンバーが揃うことに。
この第1弾シングルもかつてないほどのハードなダイナミズムが漲っているが、ラップ調のボーカルを駆使しながら彼が生まれた1949年から89年までの印象的な事件、時代を代表する人物などを矢継ぎ早に列挙していくという構造がきわめてユニーク。けたたましいパーカッションの響きやイントロの歓声SEなども効果的で、新機軸としてはこのうえないインパクトを与える楽曲となり、みごと全米ナンバーワンを獲得。究極の異色作にして、キャリアを代表する1曲となった。

90年代から現在にいたるまでのビリーの軌跡
70年代、80年代の音楽界をフルスピードで駆け抜けたビリー。90年代は何をしていたかというと、ダニー・コーチマーがプロデュースを手がけたロック色の濃い『River Of Dreams』を93年にリリースして全米ナンバーワンを記録。が、その後にこれから先はアルバム制作を行わない、という驚きの発表を行い、世の中をざわつかせた。
とはいえ、まったく曲を書かなくなったわけではなく、2001年には初のクラシック作品となる『Fantasies & Delusions』を発表するなど新路線を開拓したりしている(2007年にはオーセンティックなジャズスタイルのバラード“All My Life”をシングルリリースしてヒットさせたことも)。
それから、ライブパフォーマーとしての彼はいまもなお現役バリバリだ。ホームグラウンドであるマディソン・スクエア・ガーデンでのマンスリーライブ〈Billy Joel At The Garden〉には全世界からファンが駆けつけて、毎回大盛り上がりを見せているし、2022年に入ってからもアメリカ各地のスタジアムを回るツアーが計画されており、驚異的な興行収入を記録しそうな気配だ。いま願うことはただひとつ、早く日本に来て、ふたたびその勇姿をしかと見せつけてほしい!
RELEASE INFORMATION

リリース日:2021年12月22日
品番:SICP-31510
価格:4,400円(税込)
購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/BillyJapanBestMK
配信リンク〈ビリー・ジョエル|代表曲・ヒット曲を今すぐ聴く〉:https://SonyMusicJapan.lnk.to/BillyJoelBestHitsMK
Disc 1(Blu-spec CD)
1. Piano Man
2. Just The Way You Are
3. The Stranger
4. She’s Always A Woman
5. My Life
6. Honesty
7. Big Shot
8. Until The Night
9. You May Be Right
10. It’s Still Rock And Roll To Me
11. Don’t Ask Me Why
12. All For Leyna
13. Say Goodbye To Hollywood
14. Los Angelenos
15. Pressure
16. Allentown
17. Goodnight Saigon
18. Tell Her About It
19. This Night
20. Uptown Girl
Disc 2(Blu-spec CD)
1. An Innocent Man
2. The Longest Time
3. Leave A Tender Moment Alone
4. Keeping The Faith
5. You’re Only Human (Second Wind)
6. The Night Is Still Young
7. Modern Woman
8. A Matter Of Trust
9. This Is The Time
10. Baby Grand
11. Back In The U.S.S.R.
12. We Didn’t Start The Fire
13. I Go To Extremes
14. The Downeaster “Alexa”
15. That’s Not Her Style
16. And So It Goes
17. The River Of Dreams
18. All About Soul
19. Lullabye (Goodnight, My Angel)
Disc 3(DVD)
1. Piano Man
2. James
3. Just The Way You Are
4. The Stranger
5. She’s Always A Woman
6. My Life
7. Honesty
8. Big Shot
9. Until The Night (Live From Long Island, 1982)
10 You May Be Right
11. It’s Still Rock And Roll To Me
12. All For Leyna
13. Sometimes A Fantasy (Bonus Features)
14. Say Goodbye To Hollywood (Live At Sparks, 1981)
15. Los Angelenos (Live At Sparks, 1981)
16. Pressure
17. Allentown
18. Goodnight Saigon (Live From Long Island, 1982)
19. She’s Right On Time
20. Tell Her About It
21. Uptown Girl
22. An Innocent Man(Live In Russisa, 1987)
23. The Longest Time
24. Leave A Tender Moment Alone (Live At Wembley Arena, 1984)
25. Keeping The Faith
26. You’re Only Human (Second Wind)
27. The Night Is Still Young
28. A Matter Of Trust
29. Baby Grand
30. Back In The U.S.S.R. (Live In Russisa, 1987)
31. We Didn’t Start The Fire
32. Leningrad
33. I Go To Extremes
34. The Downeaster “Alexa”
35. That’s Not Her Style (Live At Yankee Studium, 1990)
36. And So It Goes
37. The River Of Dreams
38. All About Soul
39. Lullabye (Goodnight, My Angel)
40. To Make You Feel My Love (Bonus Features)
41. Hey Girl (Bonus Features)
42. Scenes From An Italian Restaurant (Bonus Features)