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石を叩くこともエフェクターを使うことも同じ

――ジャズスタンダードのセッションから始まり、フリンジに範を取ったコンセプトを一つのアイデアとして取り入れたとのことですが、バンドの音楽性としては他にどのような変化がありましたか?

松丸「一つは使用している楽器ですね。最初の頃は完全にアコースティックなサックス、ピアノ、ベースのトリオだったんですよ。けれど3人とも徐々に電子楽器を併用するようになって、m°fe自体が電子化してエレクトロアコースティックな方向に行きました。僕が最初にエフェクターペダルを使ったのは2019年7月頃でした」

――生音と電子音を併用することの魅力はどういったところに感じていますか?

落合「僕は生音と電子的なエフェクトを特に分けて考えていなくて、あくまでも自分の中で鳴っているサウンド感覚をもとに演奏しています。その都度必要だと感じた手段を選んだ結果、生音のこともあれば電子音のこともある。その意味で石を叩くこともエフェクターを使うことも同じなんです」

高橋「そうですね。僕もまずは何か表現したいものがあって、それを音にするプロセスの中で、ピアノであったりそれ以外の電子楽器であったりを使用しています。併用しているというより、純粋にどちらもm°feで使える一つの手段というか」

松丸「僕の場合はサックスの拡張としてエフェクターを取り入れています。即興で演奏する時にサックスを使っていても、いわゆるサックスらしい音色やフレーズを吹きたいわけではなくて、むしろ楽器のステレオタイプなイメージからはできるだけ離れたい。なので特殊奏法やあまり慣例的ではないアプローチを用いて非サックス的な音を出しているんですが、そこにエフェクターを通すとそうした音がさらに変化していくんです。いわば、サックスとしてリスナーに認識されてしまう音から離れる作業を手助けしてくれるデバイスのような感覚でエフェクターを使用しています」

 

3人の共通言語による固有のバンドサウンド

――即興主体のエレクトロアコースティックなトリオというと、高橋さんは細井徳太郎さん、宮坂遼太郎さんとともに結成した〈秘密基地〉というグループでも活動していますよね。秘密基地とm°feは、高橋さんの中ではそれぞれどのように分けて捉えているのでしょうか?

高橋「秘密基地は自分がジャズから離れた場所でやろうと思って結成したバンドなんです。どちらかというとアンビエントやドローンの文脈を意識していて、ジャズの文脈を使うにしてもあまりジャズ的な感じを出さないようにしようと。けれどm°feの場合は入り口が明確にジャズセッションだったので、個人的にはジャズの文脈を考えながら取り組んでいるところがあります」

――〈ジャズの文脈〉という点に関して、他のお2人はいかがでしょうか?

落合「m°feは即興性がすごく高いバンドですけど、それはつまり自分が普段関わっている音感覚だったり、言ってしまえば生活そのものだったり、そういった日常的な要素が大きく作用するということでもあって。個人的なものが演奏と密接に関わっている。なので僕としてはジャズの文脈よりも、m°feが各々の活動の集合体のようにできているところに面白味を感じています」

松丸「そうですね。それと即興演奏と一口に言ってもいろいろあって、一般的にはどちらかというとその場限りのセッションが多いですよね。つまり優れたミュージシャン同士で即興セッションをやることによって、これまでにない化学反応が生まれることに期待するというような。

けれど僕らはバンドとして固定メンバーでやっていて、時間をかけて即興セッションを繰り返しやり続けることで特有のバンドサウンドを生み出しているところがある。つまり3人の中に共通言語が生まれていると思うんです。それは他のバンドとは異なるアプローチとも言えますし、その場限りのセッションではできないことではないかと」

落合「ライブでは毎回、いろいろなコンセプトを設けて演奏してきましたからね。そういったことも単発のセッションだとなかなか難しい」

2021年のライブ動画

――先ほど一つの手段としてフリンジへの言及がありましたが、ライブではどんなコンセプトを設けることがありましたか?

松丸「例えば約45分のワンセットの中で、あらかじめ3曲ほど取り上げる楽曲と演奏する順番だけ決めておいて、あとは何も決めずにセッションする。基本的に完全即興で演奏していて、曲の長さや終わり方、繋げ方などは一切決めず、セッションの流れの中で3曲が浮かび上がっては消えていく、といったような感じです」

――セッションの中で3人の役割分担のようなものを意識することはあるのでしょうか? 例えば通常のトリオであればピアノが和音を弾き、ベースがリズムをキープし、サックスが旋律を奏でる、となることが多いですが。

落合「楽器で役割を決めているわけではないですね。それぞれサクソフォニスト、ピアニスト、ベーシストとして演奏しているというよりは、3人それぞれの個人的な音感覚から生まれる演奏でセッションしています。それはさっきお話しした電子的なエフェクトを使うということとも同じで」

松丸「ただ、常に役割が曖昧なのでもなく、3人の役割がクリアになったりぼやけたり行き来するのはm°feの一つの特徴かもしれないです。1回のセッションを通して、リズムをキープするようなウォーキングベースを演奏しつつ、ピアノがコード進行を弾いて、サックスはメロディーを吹く、といったシーンがある一方で、全く逆に佑成さんがピアノもキーボードも触らずにモジュラーシンセでノイズを出し続けていたり、落合さんもベースではなくて馬頭琴を弾いていたり、ひたすら石を触っているだけだったり」