
ホール『Celebrity Skin』からの影響
――Tamioさんは“One Last Girl”のコード進行にどういう音楽からの影響を反映させたんですか?
Tamio「僕はホールのアルバム『Celebrity Skin』(98年)が好きで、かなり影響を受けているんです。あのアルバムのギターのコード進行とかがもともと好きだったので、“One Last Girl”では参考にました。Erikaさんもホールを好きだから、いい感じにメロディーをつけてくれましたね」
Natsuki「もともとTamioのそういう音楽性が、いまのバンドに合うんじゃないかと考えていたんです。だから、僕が独断でやっていた(笑)、いままでの方向性とは違う。実際、ファーストアルバム(2018年1月リリースの『Luby Sparks』、Erikaは2018年3月に加入)のときとはシンガーが変わっているわけだから、ちゃんとシフトしないといけないなと思うし」
Erika Murphy(ボーカル)「私が加入してすぐに出したEP『(I’m) Lost in Sadness』(2018年)の時点で、メンバー各自の音楽的な影響が混ざってきた面もあったんです。彼(Natsuki)は結構反省していましたけど(笑)、だんだんとお互いのことを深く知るようになったことで、バンドのメンバー間の距離感も変わってきたと思う。もともとNatsukiが担っていたところを、ほかのメンバーも一緒に作れる感じにバンド全体がなっていったんでしょうね。それが大きいんじゃないかな」

――なるほど。さきほどTamioさんの口から『Celebrity Skin』が出てきて、かなり納得しました。確かに“One Last Girl”は、あのアルバムの“Malibu”とかの感じに近いですよね。
Natsuki「“Malibu”も含めてホールの『Celebrity Skin』では、ビリー・コーガンがいくつかの曲を作曲していますよね。そこでスマッシング・パンプキンズにも繋がったりとか」
Tamio「そうそう、“Malibu”で使っているコードのボイシングとかにも特徴がありますけど、自分はスマパンもすごく好きなんで、ビリー・コーガンの手癖みたいなものはだいたいわかるんです。それに自分も結構影響を受けていてるし、この曲にわりと落とし込めたと思いますね」
――そして、そこにErikaさんがメロディーを加えたと。
Natsuki「Erikaに訊きたいんだけど、“One Last Girl”のメロディーは何か影響元があったの?」
Erika「いや、まったくなくて。何回か曲を聴いて、メロディーを口ずさんでみて、これが合うなというものを出した感じ」
――いま90年代のオルタナポップ的なサウンドが再評価されているタイミングですし、音楽シーンのそうした潮流をふまえてもばっちりな楽曲だと思いました。
Natsuki「僕もビーバドゥービーとかにはめちゃくちゃ影響を受けたし、そこが盛り上がっているうちに、こういうテンションのものを出したいなとは思っていました。一昨年くらいから僕たちもこういうモードになってはいたんです」
――スタジオでは、どういうふうにアレンジを膨らましていったんですか?
Shin Hasegawa(ドラムス)「ドラムに関しては、当初考えていたものから変化がありました。もともと“One Last Girl”は打ち込みのドラムに生のドラムを重ねる予定だったんです。だけど、結局打ち込みのドラムは入れないことになって。僕のドラムは打ち込みの音がある前提で叩いたものを基本的に使っているので、はじめに意図していたものと実際に出来上がったものでは結構違う。それもそれでいいなとなって」
Natsuki「プロデューサーのアンディ・サヴァースがドラムの録り音がすごくいいから、そっちを大切にしたいと言っていたんです。最初はもうちょっとビートを強めにしていたんですけど、少し薄めにして、彼のドラムのわざと機械的なというか、ずっと同じで淡々としているビートを主軸にしました。なんとなくイメージしていたのは『Adore』(98年)の時期のスマパン。あのアルバムは、ジミー・チェンバレンが脱退して、ドラムがいないから打ち込みがメインになったんだと思うんですけど、それが逆にめちゃくちゃいい味になっていますよね。あの感じは狙いました」

なんでもない日に愛を伝えて
――歌詞はErikaさんが書かれたものですけど、〈あなたの最後の女の子になりたい〉という強い想いを歌ったラブソングになっていますね。
Erika「歌詞に関しては、もともとこういうことを書きたいなと思っていたテーマがあったんです。今回、それとメロディーがすごく合ったんですよね。周りのカップルとかに話を聞くと、やっぱりコロナ禍で人と会う機会が減ると、そのぶん2人だけでいる時間が増えて、関係が硬直しちゃうみたいなんです。悪く言えばマンネリ化するというか、これから結婚するとか別れるとか未来のことを考えられなくなる。でも、付き合って絶頂期みたいなときは〈この人と絶対に結婚する〉とか思うわけじゃないですか? この曲では、そういう気持ちを書きたいと思ったんです」
――強い恋心が歌われていると思えるかたわら、歌の主人公のそうした想いは成就していないのかなと感じさせるところもあります。
Erika「それもありますね。サビだけを読むとハッピーだったりするんですけど、Aメロとかはちょっと悲しいし、実は両方の意味があります」
――あと、終盤に出てくる〈in nothing special day〉というNatsukiさんのコーラスがよくて。SNSなどの反応を見ても、大評判ですね。
Natsuki「(笑)。あのコーラス、いいですよね」
――〈なんでもない日に私が最後の女の子だと伝えて〉という歌詞は強いフレーズだと思います。
Erika「だいたいの日本の男性ってそういうアプローチがすごく苦手じゃないですか。それ、すっごいむかつくんですよね。メンバーだったり友達だったりもそうですけど、髪型とか変えたりしても気付かないし、気付いているのに言わなかったりとか(笑)。でも、なんでもない日に好きだと言ってくれるのが女性は嬉しいよなと思うんです。その発想をキーにして書けば、いい言葉が出てきて、いい歌詞になりそうだなと考えていきました」
――男性の自分にも気付きを与えてくれた歌詞でした。普通の日に言わなきゃなって(笑)。
Erika「みなさん、これでわかっていただけたんじゃないでしょうか(笑)」