©Mancy Gant

『Black Radio III』は声をめぐる営み、声の力を伝える

それでは、本作においてそうした演奏に支えられた声はどのようなものだろうか。まず言葉や語りとしての声、すなわち歌われている内容だけに限っても、『Black Radio III』の声はさまざまな表情を持つ。

アミール・スレイマンによるポエトリーリーディングがフィーチャーされた冒頭の“In Tune”や、続くキラー・マイク、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ビッグ・クリットをフィーチャーした“Black Superhero”は、近年あらためて熱を帯びるブラック・ライヴズ・マター運動との共振を感じる率直な怒りと変革へのモチベーションを表明するものだ。こうした社会的なメッセージを力強く放つ一方で、“Shine (feat. D Smoke & Tiffany Gouché)”ではセルフラブと内的な対話(inner conversations)がもたらす輝きについて歌われ、“It Don’t Matter (feat. Gregory Porter & Ledisi)”や“Forever”といった曲では切実に希求される愛が歌われる。

『Black Radio III』収録曲“Shine (feat. D Smoke & Tiffany Gouché)”“Black Superhero (feat. Killer Mike, BJ The Chicago Kid & Big K.R.I.T.)”

このように主題や表現された内容を整理してしまうと、一貫したというよりもアラカルト的に見えてしまうかもしれない。けれども、歌われている言葉の捉え方をずらして、声を発すること、声に耳を傾けること、自己の中で対話を重ねること、そうした声をめぐる営みにフォーカスをあてることで、力強いプロテストもラブソングも同じ地平のなかに共存することになる。それはまさしく、本作がボーカルに耳を傾けることを誘う理由だ。ポップであり、ドラマティックであり、変革への意志表明であり、内省であり、愛と永遠への希求でもある。『Black Radio III』は声――言葉としての、そしてボーカルとしての――の力によって、そんなアルバムになっている。

その点で特筆すべきは、〈なぜ、どうやって話すのか〉とふたつの言語(英語とフランス語)を織り交ぜながら歌う“Why We Speak (feat. Q-Tip & Esperanza Spalding)”のエスペランザ・スポルディングかもしれない(ちなみに、歌詞には、〈While we speak the English〉、〈While we speak the French〉に加えて〈While we speak the Spanish〉というフレーズも登場するし、リリックビデオはこうした多言語性を視覚的に拡張してもいる)。ふたつの言語を横断し、響きとしての声と言葉を伝える媒体としての声を揺れ動くような歌唱は、本作の基盤となる声の地平にささやかな亀裂を走らせて、より多様で流動的な声のあり方をその向こうにのぞかせている。

『Black Radio III』収録曲“Why We Speak (feat. Q-Tip & Esperanza Spalding)”

 


RELEASE INFORMATION

ROBERT GLASPER 『Black Radio III』 Loma Vista/ユニバーサル(2022)

リリース日:2022年2月25日
品番:UCCO-1234
フォーマット:SHM-CD
価格:2,860円(税込)

配信リンク:https://Robert-Glasper.lnk.to/BlackRadio3PR

1. In Tune ft. Amir Sulaiman
2. Black Superhero ft. Killer Mike + BJ The Chicago Kid + Big K.R.I.T.
3. Shine ft. D Smoke + Tiffany Gouché
4. Why We Speak ft. Q-Tip + Esperanza Spalding
5. Over ft. Yebba
6. Better Than I Imagined ft. H.E.R. + Meshell Ndgeocello
7. Everybody Wants To Rule The World ft. Lalah Hathaway + Common
8. Everybody Love ft. Musiq Soulchild + Posdnous
9. It Don’t Matter ft. Gregory Porter + Ledisi
10. Heaven’s Here ft. Ant Clemons
11. Out Of My Hands ft. Jennifer Hudson
12. Forever ft. PJ Morton + India.Arie
13. Bright Lights (with Ty Dolla $ign)
14. Better Than I Imagined (instrumental)*
15. Easy To See*
*日本盤ボーナス・トラック

■パーソネル〉
ロバート・グラスパー(キーボード/ピアノ/ローズ/ドラムス)/デリック・ホッジ(ベース/ストリングス)/バーニス・トラヴィス・II(ベース)/ピノ・パラディーノ(ベース)/サディーアス・トリベット(ベース)/クリス・デイヴ(ドラムス)/ジャスティン・タイソン(キーボード)/ジャヒ・サンダンス(ターンテーブル)/DJジャジー・ジェフ(ターンテーブル)/コリー・ヘンリー(オルガン)/ブライアン/マイケル・コックス(シンセサイザー)/アイザイア・シャーキー(ギター)/マーロン・ウィリアムズ(ギター)/テラス・マーティン(サックス/シンセサイザー)/キーヨン・ハロルド(トランペット)/マーカス・ストリックランド(バスクラリネット)/クリスチャン・スコット・アトゥンデ・アジャー(スポークンワード) ほか

Produced by Robert Glasper

 

LIVE INFORMATION

2022年5月11日(木)大阪・梅田 ビルボードライブ大阪
1stステージ
開場/開演:17:00/18:00
2ndステージ
開場/開演:20:00/21:00
サービスエリア/カジュアルエリア:11,000円/11,000円
お問い合わせ(ビルボードライブ大阪):06-6342-7722
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13318&shop=2

2022年5月13日(金)神奈川・横浜 ビルボードライブ横浜
1stステージ
開場/開演:17:00/18:00
2ndステージ
開場/開演:20:00/21:00
サービスエリア/カジュアルエリア:11,000円/11,000円
お問い合わせ(ビルボードライブ横浜):0570-05-6565
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=13319&shop=4

■発売日
Club BBL会員先行:2022年3月25日(金)12:00より
一般予約受付開始:2022年4月1日(金)12:00より

LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022
2022年5月14日(土)、5月15日(日)埼玉 秩父ミューズパーク
開場/開演:11:00/12:00(予定)

■出演
2022年5月14日(土):DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、クリス・コールマン、古川昌義、馬場智章/セルジオ・メンデス ほか
2022年5月15日(日):ロバート・グラスパー/SOIL&”PIMP”SESSIONS ほか

■チケット
​一般・指定席(前方エリア)1日券:16,000円(税込)
一般・芝生自由1日券:13,000円(税込)
中学生高校生・芝生自由1日券:6,000円(税込)

https://lovesupremefestival.jp/

 


PROFILE: ロバート・グラスパー(Robert Glasper)
78年4月6日、テキサス州ヒューストン生まれ。ピアニスト、作編曲家。母親の影響で、一家が住む教会でピアノを弾き、ゴスペルやジャズ、ブルースといった音楽に触れる。青年期に入り、ヒューストンの有名なハイスクール・フォー・ザ・パフォーミング・アーツへ入学。卒業後、マンハッタンのニュー・スクール・ユニバーシティーに入学。在学中にクリスチャン・マクブライド、ラッセル・マローン、ケニー・ギャレットなどとギグを行う。その後、ニコラス・ペイトン、ロイ・ハーグローヴ、テレンス・ブランチャード、カーメン・ランディ、カーリー・サイモン、ビラル、Qティップ、モス・デフなど、ジャズ~ヒップ・ホップまで幅広い分野の面々と共演する。2003年、デビュー・アルバム『Mood』(フレッシュ・サウンド・ニュー・タレント)をリリース。2005年、ブルーノートと契約。同年、移籍第1弾『Canvas』をリリースし、ジャズやゴスペル、ヒップホップ、R&B、オルタナティブなロックなどのエッセンスを取り入れた革新的なスタイルで、各方面から高い評価を得る。2007年、ジャズとヒップホップを結びつける究極のピアノトリオ作『In My Element』を発表し、ブルーノートの新世代ピアニストとしてさらに注目を浴びる。2009年、よりアコースティック志向の〈トリオ〉とよりヒップホップ志向の〈エクスペリメント〉の自身が推進する2つのバンドを1枚に集約した、グラスパー本来の姿を投影した話題作『Double-Booked』を発表し、グラミー賞にノミネートされた。2012年、初の〈エクスペリメント〉のみで構成された『Black Radio』を発表、グラミー賞で最優秀R&Bアルバムを受賞、世界的な大ヒットとなり〈ジャズの革命児〉と呼ばれるようになる。『Fuck Yo Feelings』は、ロバート・グラスパー自身の名義としては、2016年のエクスペリメント作品『ArtScience』以来約3年ぶりの新作だが、自身の名義以外にもここ数年コモンとカリーム・リギンスと共に組んだオーガスト・グリーン、テラス・マーティン、クリスチャン・スコット、デリック・ホッジ、テイラー・マクファーリン、ジャスティン・タイソンを組んでいるバンド、R+R=NOWなどでも活動してきたほか、ケンドリック・ラマ―の世紀の傑作『To Pimp A Butterfly』にも大きく貢献し、また直近ではロック・アーティスト、ブリタニー・ハワードの初ソロ作品『Jaime』にも参加している。