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新作にはミニマリズムとアンビエントのアイデアが重要だった

――新作の『Feeding The Machine』は、ミニマルな電子音のループやドローンなどのテクスチャーと、ヘヴィーなフリージャズのサウンドが組み合わさっていて、エネルギッシュなんだけど同時に抑制も効いた、クールな仕上がりになっていると思いました。

ビンカー「いま話してくれたのが、すごく的確な表現だと思うよ。そのうえで僕が言えるのは、終始一貫した音の世界をめざしていたということかな。音を通して自由な次元を感じさせて、リスナーをどこか別の場所に運んでくれる。もっと言えば、そのなかで生きてさえいけるような音の世界を作りたかったんだ。

このアルバムでは、ミニマリズムとアンビエントのアイデアがとても重要だったと思う。テリー・ライリーの名前は制作中かなりの頻度で出てきたね。具体的には“Poppy Nogood And The Phantom Band”(69年)という曲。あと70年代に彼がドン・チェリーと作ったレコードもみんなでシェアしていた(※75年録音のライブ音源と思われる)。あとはラ・モンテ・ヤングの〈The Well-Tuned Piano〉。5時間もあるんだけど本当にすごい演奏なんだ。そういった音楽が生み出す美学のようなものや感覚的なものに、すごく影響を受けた。僕たちの今回のレコードの良さもそういう類のものだと思う。正確な音符が演奏されている、とかよりもね」

――他にアルバム、本、映画など、サウンドやコンセプトの面で新作に影響を与えた作品はありますか?

モーゼス「リストは無限だよ。僕ら2人とも違う趣味を持ってるからね。ビンカーは大の映画ファンだし、僕はビョークやスクエアプッシャー、エイフェックス・ツイン、マックス・ローチ、マッドリブ、カニエ・ウェストのファンで、そういうものも影響源としてあったと思う。ビンカーは別の意見かもしれないけど……」

ビンカー「いやいや、クールだと思う。でも、さっきも話したようにスタジオに入ったときに具体的なアイデアが多くあったわけではなかったんだ。ただ、最終的に出来上がったものを聴くと、僕はデヴィッド・リンチの影響を感じる。事前に話し合ったわけではなく、たまたまそうなったんだけど、個人的にはそれが嬉しいんだよね。」

『Feeding The Machine』収録曲“After The Machine Settles”

 

サックスとドラムの音をマシンに通すことで、その可能性の拡張を図った

――新作のサウンドを実現するうえで、ジャズベーシストでありミリオン・スクウェア名義でエレクトロニカにもアプローチするマックス・ラザートの存在は欠かせなかったと思います。

モーゼス「『Journey To The Mountain Of Forever』(2017年)をレコーディングしたあとに僕はモジュラーシンセサイザーや電子音楽に夢中になって、マックスはそのきっかけになった人だったから、彼が今回の作品に参加するのは自然な流れだったね」

――レコーディング前に決めていたことはどのくらいあったのでしょうか?

ビンカー「モーゼスと事前に共有していた唯一のことは、サックスとドラムの音をできるだけ使いながら、マックスが作る音を通して、その可能性をもっともっと拡張するということだった。つまり、僕らが演奏した音をマックスのマシンに送って、そのフィードバックを使って演奏することでまったく新しいサウンドを作れないかと思っていたんだ。

だから聴いただけじゃわからないかもしれないけど、アルバムでマシンを通して鳴らされている音のほとんどは、ディストーションをかけたサックスとドラムの音なんだ。聴いた人が想像するであろう〈モジュラーやテープループをセットアップしたあとにプレイボタンを押すだけ〉みたいな部分はほとんどない。むしろ、ライブで発生した音をすべてフィードバックすることができるプログラムに合わせて演奏している、というのが正しい表現かな。

いわゆるベースやシンセベースの音はほとんど使われていない。サックスとドラム以外の音は、アルバムを通して、本当にわずかな量で、たぶん5%以下とかだと思う」

モーゼス「新作はすごくエレクトロニックなサウンドのアルバムなんだけど、一方で生々しいアルバムでもあって、ほとんどライブ同然に作ったと言うことができると思う。編集やオーバーダブもほとんど無いし、すべてがマシンを通したライブテイクなんだ。実際、今作のショーをライブで観て貰えば、マックスがステージ上でフィードバックを操作して演奏するための時間がたくさんあることに気がつくと思う。

マックスは普段はベーシストとしてジャズの即興をプレイしているから典型的な楽器ではない機材を扱うときでも、ジャズ的な感性のなかで僕たちの演奏をフォローすることができる。その意味でも、今回のコンセプトにぴったりだった。和声、電子機器や即興……彼はそのすべての観点で卓越していてスムーズにコミュニケーションできるから、一緒にスタジオで作業するのは夢のようだった。彼と同じようなことは、ほかの人にはなかなかできないと思う」

『Feeding The Machine』収録曲“Accelerometer Overdose”