〈リアリティ〉を摑み、浮かび上がらせるレッスン
おお、ピーター・ブルック!……の、ドキュメンタリーが公開されるとな! 素晴らしい!……んだけど、若い方にはあんまり名前が通ってない気もするので、簡単にプロフィールをご紹介しておきますと、1925年ロンドン生まれ。21歳でストラットフォード・アポン・エイヴォンのシェイクスピア記念劇場の史上最年少演出家、23歳でロイヤル・オペラ・ハウスの専属演出家となり、その後もシェイクスピア、「マハーバーラタ」、「マラー/サド」などの作品で、世界の演劇界を精力的に牽引・挑発し続けてきた大演出家ですね。
この「ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古」は、原題「The Tightrope」、つまり〈綱渡り〉という意味なんだけど、この〈綱渡り〉を軸に、ブルックが国籍も年齢も経験もバラバラの俳優たちを集めて行ったワークショップを撮影したもの。ブルックの演劇論(はそのまま人生論でもあると思うけれど)の核心を直接平易なことばで伝えていて、きわめて興味深い出来になってます。金言も以下のごとく目白押し。
「芝居とは普通を演じることだ。演技は判断やコメントを加える作業とは違う。常に自分自身の中でリアリティを追求する作業なんだ」「演技や芝居と呼ばれるものにはすべて観客と一体になれる瞬間がある。突然自由な何かが生まれ、かつてない喜びが生まれるのだ。(略)役者が自由さの中で芝居の世界に没頭することで得られるあの感覚だ。「集中しなくちゃ」と言い聞かせてもダメだ。世界観に没入している感覚を喜びに変えるんだ。これが芝居の喜びだ」
ブルックが、この映画でもっとも強調するのは〈リアリティ〉。でも一方で、〈リアリティは目に見えるのか〉問題っていうのもあって、今の日本の演劇はいわゆる〈内的な把握〉を切り捨てる方向に進んでるような気がする(口語ならリアルだというわけではまったくないしね)。ブルックはグルジェフやウスペンスキーにも傾倒してた人なので、内面性みたいなものを顕揚することには胡散臭さを感じる人もいるかもしれない。でも、一方でこの映画が示しているのは、ブルックは卓越した〈見る人〉でもあるということで、ここでリアリティは〈すごく微妙だけど、確かに目に見えるもの〉として現れている。〈内的な把握〉を神秘化せずにどう客観化し、共有していくのかは、今すごく重要な問題だと思うなあ。演出家・俳優のみならず、あらゆる表現活動を行う方にごらんいただければ!
ちなみに、ピーター・ブルックとマリー=エレーヌ・エティエンヌの作・演出による「驚愕の谷」が、〈フェスティバル/トーキョー14〉で、11月3日(月・祝)~6日(木)に上演されます。必見!
MOVIE INFORMATION
映画「ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古」
監督:サイモン・ブルック
出演:ピーター・ブルック/笈田ヨシ/ヘイリー・カーミッシェル/マルチェロ・マーニ/シャンタラ・シヴァリンガッパ/土取利行/マリー=エレーヌ・エディエンヌ 他
配給:ピクチャーズデプト
(2012年 フランス・イタリア)
9月 渋谷 シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
http://peterbrook.jp/
THEATER INFORMATION
舞台「驚愕の谷」
2014年11月3日(月・祝)~11月6日(木)東京芸術劇場 プレイハウス
作・演出:ピーター・ブルック/マリー=エレーヌ・エティエンヌ
音楽:ラファエル・シャンブーヴェ/土取利行
出演:キャサリン・ハンター/マルチェロ・マーニ/ジャレッド・マクニール
http://festival-tokyo.jp