ここから先は制作雑記ゆえ、ご了承いただきたい。

 中学二年の(武道館まで徒歩3分の)学校帰りに初来日コンサートを観てノックアウトされ、以来ずっと管楽器アレンジをコピーしまくったブラッド・スウェット・アンド・ティアーズ(BS&T)…まさかその頃のコピー譜が役立つとは思わなんだ。「俺もコピーしたし、プロになっても良く吹いたよコレ」と目をかがやかせながらレコーディングに臨んでくれたミンミンこと数原 晋もジェイク(コンセプション)も故人となってしまったが、70~80年代の日本のミュージシャンのクオリティの高さを証明して余りあるホーン隊のパフォーマンスも本作の大きな特徴であり、打ち込みと生バンドのギャップを見事にうめる統一感を与えてくれた。

 何より「シングルカットの〈IN THE ROOM〉をどうするか?」は制作中もっとも大きな課題だった。河合奈保子、シブがき隊、田原俊彦、菊池桃子などのシングルで林 哲司楽曲をアレンジした太いつながりもあったものの、なにせ林 哲司~松原みきラインは別格だ。そう構えて打ち合わせを始めたが「基本、鷺巣くんにおまかせで。で、まぁ今回はこの感じかなぁ」との林案による方向性は、前年1987年ロンドンでの仕事帰りに寄ったローマのホテルで初めて見たMVに衝撃を受けたスウィング・アウト・シスターだった。今聴いても松原みきと親和性が高いサウンドだが、じつは〈ブレイクアウト〉自体、デイヴ・グルーシン〈マウンテン・ダンス〉へのオマージュであることを考えると面白い。つくづく我々はラグビー・ゲームのように後ろを走る者にパスを繋ぎ、また繋がり、集団を制しゴールが生まれる、というミュージシャンズ・ゲームを生きているのだと実感する。

 そういうゲームは、人を惹きつける個性をもったシンガーと「1枚のフル・アルバム=フル・ストーリー」を完成させる過程において、いちばん成立するものであり、またその醍醐味も味わえるもの。我々にとって普遍的なミュージシャン・シップ=母船こそが松原みきだったのだ。今あらためて天国の彼女にお礼を言いたい。

2022年4月 東京にて 鷺巣詩郎

 


RELEASE INFORMATION

松原みき 『WINK(RECORD STORE DAY対象商品/初回限定生産盤)』 TOWER RECORDS LABEL/TOWER VINYL(2022)

リリース日:2022年4月23日(土)
品番:TRLP-0001
仕様:LPレコード(33 1/3 r.p.m. stereo/2022年カッティング)
価格:4,950円(税込)
全国流通盤/初回生産限定盤

TRACKLIST
side-1
1. B・S・T(作詞:澤地隆 作曲:羽場仁志 編曲:鷺巣詩郎)
2. 女神の右手(作詞:竹花いち子 作曲:羽場仁志 編曲:鷺巣詩郎)
3. ハートの鍵貸します(作詞:真名杏樹 作曲:村田和人 編曲:鷺巣詩郎)
4. IN THE ROOM(作詞:竹花いち子 作曲:林哲司 編曲:鷺巣詩郎)
5. Sorry(作詞・作曲:松原みき 編曲:鷺巣詩郎)

side-2
1. カフェ・イ・アルテ(作詞:松原みき 作曲:奥慶一 編曲:鷺巣詩郎)
2. “Be”-ROCK(作詞:SHOW 作曲:岸正之 編曲:鷺巣詩郎)
3. メロディアス(作詞:真名杏樹 作曲:岸正之 編曲:鷺巣詩郎)
4. 路上のパラダイス(作詞:寶川 翔 作曲:杉真理 編曲:鷺巣詩郎)
5. 雨の中の女(作詞:梅本洋一 作曲:小田裕一郎 編曲:鷺巣詩郎)

 

松原みき 『WINK(タワーレコード限定)』 ビクター/Light Mellow’s Picks × Tower to the People(1988, 2014)

リリース日:2014年12月24日
品番:NCS-10085
仕様:CD
監修・解説:金澤寿和
価格:2,530円(税込)
2014年新リマスタリング

1. B・S・T
2. 女神の右手
3. ハートの鍵貸します
4. IN THE ROOM
5. Sorry
6. カフェ・イ・アルテ
7. “Be”-ROCK
8. メロディアス
9. 路上のパラダイス
10. 雨の中の女