2010年代に勃興したチルウェイヴを代表する存在、ということをほとんどの人が忘れているであろうトロ・イ・モワのニュー・アルバムは、さまざまな時代のポップ・ミュージックを自在に操る才気が迸る作品だ。“The Medium”ではノイジーなサイケ・ガレージを鳴り響かせ、“Goes By So Fast”ではジャズの香りが濃厚な心地良い音像を築き上げる。他にもファンクやR&Bといったスパイスが複雑に絡み合ったサウンドからは、国境や規範にとらわれず、多くの音楽的要素を採り入れる寛容さがちらつく。その要素を丹念に編んでいくアレンジも素晴らしい。一曲の中でいくつもの側面が表れる曲群からは、チルウェイヴの時代が終わっても生き残った彼の高い音楽的教養と確かな創作技術が感じられる。
チルウェイヴ、ハウス、ファンク、インディーロックと作品ごとにその作風を次々と変化させながらも、オリジナリティを損なうことなくシーンの先端を走り続けるToro Y Moi。Dead Oceans移籍後初のアルバムとなる今作は、グルーヴィなバンド・アンサンブルが映える回帰的な一枚。5月18日(水)には 2016年、有料配信でのリリースという形で注目を集めたライヴ映像『Live From Trona』のライヴ音源と、2019年リリースの前作『Outer Peace』の2作品がアナログで再プレス予定。今作と併せて聴くことで、有機的に進化を続ける彼の軌跡をより一層堪能できるだろう。