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ロックンロールの〈型〉のエッセンスを抽出したい

――そういえば、ちょっと前に、最近のポップスではギターソロの地位が低くて、あっても若いリスナーにはスキップされちゃうらしい、というのが話題になってました。そこからすると今〈ギター〉を前面に押し出すのは逆に挑戦的でもある(笑)。

「ここ最近というか、エレキギターって長いこと随分肩身が狭いですよね。だけど俺は、レス・ポールとか、デュアン・エディとか、チェット・アトキンスとか、ミッキー・ベイカーとか、50〜60年代の〈ロック以前〉のギターっていうのが好きで」

――〈ギターの地位が低くなっている〉って一概に言っても、色々ありますもんね。多分以前から言われている〈ギターソロ離れ〉って、ブルースロック的なものに代表されるマイナーペンタ(トニックスケール)で〈キュイーン〉って弾く感じが主な対象になっているんだと思うんですけど。

「そうなんですかね」

――それからするとデュアン・エディ的な音は当然異質ですよね。そういうギターサウンドの魅力ってなんなんでしょう?

「やっぱり、あのスピード感が良いんですよ。なんていうか、〈脳が飛ぶ〉っていうか。音的にもスプリングリバーブがかかりまくってて。あの〈チョピン〉っていう音。あんまり歪んでないのも良いんですよね。

ロカビリーとかも含めて、そういうものの音像はめちゃめちゃサイケデリックだと思ってるんです。ロカビリーの7インチは音圧もすごいですし」

――面白いですね、サイケロック登場以前の〈サイケデリック〉感覚。

「そう。あと、昔のロックンロールの曲って、かなり素朴な歌詞だとおもうんですけど、それも良いなと思っていて。今の音楽と歌詞が違う役割を担っている気がするんです。〈思っていることを伝える〉ために言葉があるのとは違うっていうか」

――一つの〈形式〉みたいな? 俺の気持ちはこうだとか、社会を批評するとかじゃなくて。

「そうそう。そこもかっこいいなと思う。今回はロックンロールとかオールディーズ的なものに限らず色んな曲調のものが入ってますけど、どれもそういう〈型〉のようなものを意識しているんですよね」

――それを極めようとすると、完全にレトロスペクティブな方向に行くことにもなりそうですけど、坂本さんの場合、決してそうはならないっていうのも興味深いです。

「そういうのは特定のシーンがあるじゃないですか。ロカビリーならロカビリーだけを演る人がいて、ガレージとかサーフロックとかでもそう。

自分はそういう音楽の〈型〉が好きだけど、なんというか、〈型〉をそのまま移植するんじゃなくて、もっとエッセンスのようなものを抽出したいっていう思いが昔からあるんですよね」

――なるほど。〈型を追究すること〉自体が型になってしまうのからは解放されている感じ、というか。

「あとは単純に、ああいう音楽って今録音しようとしてもできないじゃないですか。それは機材的な問題に限らない話で。例えば60年代のガールポップみたいなものってすごくきらびやかで魅力的だけど、今完璧に再現しようとしてもあんな風にならないんですよね。やっぱり当時は音楽産業全体の景気が良くて、周囲のテンションの高さを含めて全てがレコードに凝縮されてるような感じがする。家で音楽オタクが一人、緻密に作ってもああはなんないっていうか」

――レトロスペクティブ的な音楽って、マニア気質を突き詰めて再現しようとするととたんにスケールが小さいものになってしまうっていうのは確かにありそうですね。今作はそのあたりを抜け出るためにもあくまで〈エッセンスの抽出〉に意識が注がれている感じがします。

「まあ、自分がそう思っているだけっていう話ではあるんですけど」