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『物語のように』のサウンド

――ヴィンテージなサウンドということでいうと、“それは違法でした”や“ある日のこと”でのリズムボックスの音も特徴的です。以前からリスナーとしてもリズムボックスものが好きとおっしゃっていますが、改めてその魅力ってなんなんでしょう?

「なんなんですかね。昔からやけに惹かれるんですよね。機械なのにデジタルな音じゃない、あの感じが良いんでしょうね」

――似た音をソフトで打ち込むこととかには興味がない?

「興味ないです」

――そういう楽器の使い方を含め、坂本さんの中には〈自分の好きな音の響き〉っていうのが揺るがないものとしてあるんだろうなと想像します。

「やっぱりそこにはこだわってますね。これもまあ、自分の好きな音がこんな感じですってことでしかないとは思うけど。特にドラムの音の好き嫌いははっきりしてますね。良い曲でもドラムの音が好みじゃないと聴けなくて。逆に普通の曲でもドラムが良ければ聴けちゃうっていうか」

――(笑)。

「シンバルが鳴りすぎているのも苦手。けどハットはいいんですよ。でも、ハットもずっとオープンでシャンシャンいってる、みたいなのはイヤ。あと、ベースの音が低すぎるのもちょっと。最近のポップスってすごい低い音を使うじゃないですか」

――いわゆるサブベースですね。確かに、坂本さんの曲って音の全体の重心が真ん中よりちょい上みたいな印象があります。

「好みがはっきりしてるんですよ。ライブっぽい録音もあんま好きじゃないかも。音が遠い感じの」

――それと、今回もギロとかラテンパーカッションの音が効果的に使われていますね。

「ギロの音は、ただ好きとしか言いようがないんですけど、音が点じゃなくてぐにゃっと伸びるじゃないですか。ギーッコ、ギーッコって。あの粘りのあるグルーヴが良くて」

――縦のグリットにきれいにハマったバシバシした音があまり好きじゃない?

「まあ、聴く分にはいいんですけど、あんまり自分の歌とギターには合わない気がするんですよね」

――スティールギターは坂本さんのソロ活動におけるトレードマークの一つになっていますけど、今回は更に深化した使い方をしていると感じました。

「この数年で色んな使い方を発見したっていうのが大きいと思います。面白いエフェクターの組み合わせを自分なりに見つけたのもあって」

――“それは違法でした”のクレジットを見ると、シンセサイザーのように聞こえる音も実はスティールギターで弾いているんですよね。

「あれは、エレクトロ・ハーモニックスのC9 Organ Machineっていうエフェクターを使ってます。なるべくシンセを使わないようにっていうのを自分的に決めているんで」

 ――前のシングル“好きっていう気持ち”(2020年)ではヤマハのPortaSoundを使ってましたよね。

「PortaSoundは面白い音がするんですけど、どうしても安易な感じも出ちゃうんですよね」

2020年のシングル“好きっていう気持ち”

――確かに、〈キッチュ〉の色が付きすぎてしまうってのはありそう。“スター”のフルートっぽい音は、メロトロンですか?

「いや、これはメロトロンのフルートの音を模したエフェクトをかけたギターの音ですね。これもOrgan Machineで、曲の頭から入っている音がそれです。それとは別に生のフルートも重ねています。ピースミュージックには本物のメロトロンもあるんだけど、あえて偽物でやっています」

――メロトロン自体が偽物なわけだから、いわばフェイクのフェイクってことですね(笑)。

「そうそう」