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©Reed Hutchinson

 今回の来日公演は、ひとつには多彩に繰り広げられてきたこれまでの活動の総決算である。クロノス結成のきっかけにもなったと言われるジョージ・クラムの“ブラック・エンジェルズ”は、ぜひともナマ演奏で聴きたい音楽だ。ベトナム戦争下で作曲されたこの作品の電気増幅された強烈な音響は、戦争がまたもや進行する現在、あらためて人々の心に真摯に受け止められることは間違いないであろう。

 クロノスはいわゆるミニマル系の作曲家とも緊密な協力関係を保ってきた。今回の公演はスティーヴ・ライヒの“ディファレント・トレインズ”や“トリプル・クァルテット”を初演者によって聴く貴重な機会となるだろう。テリー・ライリーとはこれまでに多数のコラボレーション作品を世に送り出しており、作曲家80歳の折には名作“平和のためのサロメ・ダンス”を含めた5枚組のボックスCDも出している。今回注目すべきは2年前に予定されていた“サン・リングズ”の満を持しての日本初演である。NASAのボイジャー計画25周年にクロノスがライリーに委嘱した大作で、全10章からなるこの作品の演奏には90分を要する。NASAが採集した宇宙の音や合唱が組み込まれた音楽を映像とともに実現し、人類の平和への祈りをこめた壮大な讃歌を歌いあげる作品である。

 今回の日本公演はもうひとつには新企画の発表の場でもある。クロノスが50年に及ばんとする活動を記念するものとして2015年から進めてきた〈Fifty for the Future(未来のための50)〉は、一種の教育プロジェクトで、様々な国々の50人の作曲家(女男それぞれ25名)の作品を集めて、学生や若い演奏家たちの訓練や経験に役立てようとするものだ。ここにはフィリップ・グラスやライリーなどお馴染みの作曲家も含まれており、ウェブサイトからは楽譜を無料でダウンロードすることもできる。日本の作曲家としてただ一人選ばれた望月京の作品などが今回演奏されるほか、セルビアの女性作曲家アレクサンドラ・ヴレバロフの作品を、ワークショップを経て日本の新進のカルテットが演奏する機会も設けられるという。

 このほか、オノ・ヨーコのインストラクションによるコンセプチュアルな作品やローリー・アンダーソンの作品をクロノスがどう演奏するか、興味は尽きない。また“紫のけむり”の演奏がさいたま公演で復活する。じつは90年代のあるとき、リーダーのデヴィッド・ハリントンがこの曲は今回で〈卒業〉すると宣言し、それ以降はこの曲を弾かなくなっていたのだった。はじめてとなる京都での公演を含め盛りだくさんの今回の公演は、日本の聴衆にとって聴き逃すことのできない待望の機会となることだろう。

 


LIVE INFORMATION
クロノス・クァルテット JAPAN 2022

2022年9月24日(土)京都 ロームシアター京都 サウスシアター
開演:18:00

■曲目
ジョージ・クラム:ブラック・エンジェルズ
ローリー・アンダーソン:フロー
スティーヴ・ライヒ: ディファレント・トレインズ ほか

2022年9月28日(水)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール
開演:19:00

■曲目
スティーヴ・ライヒ:ディファレント・トレインズ
アレクサンドラ・ヴレバロフ: 私の砂漠、私の薔薇
望月京:Brains
フィリップ・グラス:弦楽四重奏断章
スティーヴ・ライヒ:トリプル・クァルテット ほか

2022年9月30日(金)埼玉 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
開演:19:30

■曲目
スティーヴ・ライヒ:振り子の音楽
ジミ・ヘンドリックス:紫のけむり
ヨーコ・オノ:トゥ・マッチ・ザ・スカイ
ジョージ・クラム:ブラック・エンジェルズ ほか

2022年10月1日(土)神奈川・横浜 神奈川県立音楽堂
開演:17:00
共演:合唱団 やえ山組
指揮:岩本達明

■曲目
テリー・ライリー:サン・リングズ(日本初演)

2022年10月2日(日)岩手 盛岡市民文化ホール 小ホール
開演:17:00

■曲目
アンジェリーク・キジョー:ヤンヤンクリヤン・セナミド #2
フィリップ・グラス:弦楽四重奏曲断章
ジョージ・ガーシュウィン:サマータイム
スティーヴ・ライヒ:ディファレント・トレインズ ほか

https://wmg.jp/feature/kronos-quartet/